レベル
「オハギ、お前はすごいなあ」
『崇め奉れー』
『あー、オハギだけずるいー』
『新入りなのに生意気だー』
撫でようとしたけど、オハギは影に潜ったまんま。そこでたくさん魔力を送ることにする。けれどそうするとサクラとヨモギがこっちにもよこせと言ってくる。どうやら撫でるだけじゃ満足しないらしい。
「まあまあ、2人にもあとであげるから。それより2人にやってもらいたいことがあるんだ」
この2人を召喚したときから、というか炎魔法と風魔法の組み合わせを見た時からずっと思っていたんだ。この2つの魔法を合わせたらきっとすごいことになるんじゃないかと。
『サクラすごいのできる』
『じゃあヨモギはもっとすごいの』
サクラとヨモギに、魔法の発動場所を重ねるようにして発動できるかやってもらう。そうしたら問題なく成功できた。そして思った通り、相乗効果でより強力な魔法へ変化した。
さっきは炎の玉を飛ばして、草をちょっと燃やすぐらいだった。それがいきなり火炎放射器みたいに。射程も1.5倍くらいになってる。ただもうちょっと持続時間が欲しいな。
今度はサクラには炎の玉の維持だけお願いした。そしてヨモギに、さっきと同じように重ねるようにして風魔法を使ってもらう。
「おお!」
成功だ。断続的に放たれる火炎放射。射程が伸びたりはしてないけど、風魔法の持続性と炎魔法の火力を併せ持った魔法。よし、この技法を合成魔法、そして完成した魔法を炎風魔法と名付けよう。
名前も決まったところで次の実験。炎魔法と風魔法が合わせることができるとわかったなら、やっぱりこれをやってみたい。
火災旋風。大規模な火災や山火事なんかで起きる、竜巻のように立ち上る炎。これを魔法で再現したい。
まずは普通に、ヨモギにつむじ風を起こしてもらって、そこにサクラの炎魔法を重ねてみる。普通にそれっぽいのできたな。規模は俺のひざ上ぐらいとかなり小さいけど、これを自在に操れるならかなり強力な攻撃になりそうだ。
『ミズキー、これけっこう難しい』
けれど、これはただ放つだけの火炎放射魔法と違って、難易度が高いらしい。上手く螺旋状に気流を維持するので精一杯で、とてもじゃないがこれを縦横無尽に動かすのは無理そうだと。まあそう何でもかんでもうまくはいかないか。
『あ、ヤバイかもー』
そんなことを考えていたらだ。ちょっと目を離したすきに、大変なことになっていた。なんかでかくなってね?最初は俺のひざ上ぐらいの大きさだったのが、いつの間にやら俺の腰ぐらいの大きさに。しかも火の勢いも増してるような……
「ちょっ、はやく消して!サクラはやく!あとヨモギも!」
『ごめん無理』
『さっきから消そうとしてるんだけどーなんでか消えないー』
「なんで!?」
原因はわからないけど、この炎の竜巻は勝手に大きくなって、サクラとヨモギの操作を受け付けなくなっているらしい。じょうろの中の水を振りかけても消えない。どうしたらいいんだこれ。
サクラとヨモギも頑張ってくれているようだが、一向に収まる気配がない。そんな状況を前に俺が立ちつくしていたときだ。
ドサッと上から土が降ってきた。それも、水を含んだかなり湿り気のある土。見ると、オハギがスコップのようにした影で周辺の土をすくい上げて放り投げていた。昨日は雨が降ったから、そのおかげで土が湿っていたんだろう。その土を山のように盛ることで、竜巻は散らされ火は無事鎮火した。
「助かった~。ありがとうなオハギ」
『ん。ならご褒美くれ』
「はいはい」
いや、本当に今回はオハギの機転のおかげで助かった。あのまま消火できなかったらどうなっていたことか。お礼にたっぷりと魔力を流してやる。
『むー』
『いいなあ』
オハギとヨモギはそれが羨ましいらしいが、今回はオハギの活躍あってのことだとわかっているのか、催促してこない。正直あれはうかつに火災旋風なんて試そうとした俺が悪いので、ちょっと後ろめたさが。というわけで2人にも少し魔力を流してやる。
「ふう」
なんか疲れた気分。時間でいうとまだ一時間も経ってないはずなんだけど。今日はもうこれくらいにして帰ろうか。
そう思ってじょうろを拾い上げた時、後ろの草むらがガサガサと揺れる音が。風か、それか野良猫でも出たかと振り向くと……
「グルル」
全身の皮膚が緑色をした化け物がそこに立っていた。
「は」
いきなりの事すぎてついていけない。なんだこいつは。姿は、ゲームなんかでよく見るゴブリンそっくり。1メートルぐらいしかない身長。ごつごつした緑色の皮膚。尖った耳に鋭い目つき。そして、鋭い爪とむき出しの乱杭歯。
そいつはこっちを見て、嘲笑った。まるで哀れな獲物を見つけたかのようなその不快な笑み。いや、まさしくそうなのだろう。そしてそいつはそのまま、未だ立ちつくしたままの俺にとびかかってこようとして……
『めっ』
『消し炭ー』
サクラとヨモギの火炎放射をもろにくらった。それも顔面に。
「ぐぎゃああああ!!!」
顔を抑えてのたうち回る化け物。そしてそこに追い打ちをかけるようにして、さらに火炎放射をぶっ放すスライム達。ゴブリンはもう全身火だるまだ。必死に火から逃れようともがいているがその奮闘虚しく、しばらくして動かなくなった。
「なんだったんだこいつ」
俺はそうっと、ゴブリンだったものに近づく。全身が焼けただれ、所々炭になっている。試しに落ちてた枝でつんつんつついてみても、動く気配はない。完全に死んでいる。
『ここにもグギグギいるんだなー』
『違う、グギャグギャ』
『こいつら1匹いたら100匹はいる』
『たぶん近くに巣があるなー』
『うげーヨモギ、グギャグギャ嫌いー』
『ん?ミズキ、魔力増えた?』
サクラ達曰く、ゴブリンはサクラ達の世界にもいたらしい。そんでキッチンとかによく出る某Gなみに繫殖力が強く、一匹いたらほぼ確実に近くに仲間がいる。そして基本的にゴブリンは巣から遠くに行くことは少なく、この辺りに巣がある可能性が高いとのこと。
まさかこれか?あの声が言っていた、備えなければいけないものは。こんな奴らが、地球を闊歩するようになる?いや、下手したらドラゴンのようなとんでもない怪物が現れる可能性もある。これは本格的に“備え”なければならないかもしれない。
ただ、光明も見えた。
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塩濱瑞希
クラス:サモナー
LV:2
HP:F+
MP:C-
STR:F
INT:E+
VIT:F
MND:E
DEX:E-
AGI:F+
ユニークスキル
【魔の盟友】 ▼
スキル
【妖魔召喚】F+ ▼
【霊魔召喚】F ▼
【獣魔召喚】F ▼
【擬態】F- ▼
【物理耐性】F- ▼
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なんとレベルが2に上がり、MPとHPが少し増えていた。まず間違いなく、ゴブリンを倒したおかげだろう。倒したのはサクラとヨモギだが、2人を召喚したのが俺だからかそれとも魔の盟友のおかげかはわからないが、俺が直接倒さなくとも経験値は入るっぽい。これは嬉しい。ちなみに、サクラとヨモギのレベルは上がっていなかった。もちろんオハギもそう。これはたぶん、ゴブリンがあまり強くないモンスターだからだろう。実際、2対1とはいえ簡単に倒せてしまっていたし。ゴブリン一体程度では、レベル3のスライムの経験値としては足りなかった、というのが俺の予想。さすがに、今のレベルが成長限界だとか、スライムはモンスターを倒しても経験値を得られないなんてことはないと思いたい。
実際、この方法で火が消えるかどうかわからないんですけど、そこはまあ魔法だからということで




