はじまりができない
「だいぶ様になってきたじゃん」
「全然筋肉はついてないけどね」
あれから結局僕は二週間も同じ生活を続けている。
この2週間で学んだ事と言えば白子に僕の性格や価値観を完全に見透かされた事だ。
なんと言うかこの世界に来れて僕自体何も変われていない訳だからそりゃ2週間もいれば僕と言う人物像が顕になってしまう。つまり僕の捻くれ具合も白子にはわかると言う事でそれくらいだ。
言語学習の方はまあまあって感じだ。
「前よりはかっこよくなったよ。」
「ホントに?」
「じゃぁシャワー入ろっか」
「....わかった」
蔑ろにされた。
前まで二度と経験できないと思っていた美女と食卓を囲む光景。しかし今ではそれが普通になっている。
そんな今日
ご飯を食べている時に白子から提案があった。
「あのさ慰..もし良かったらでいいんだけどさ、」
どうやらこの辺りには廃墟と化した魔族が住み着いていた城がある。
白子はそれを仲間と一緒に突撃しに行き、もらった賞金で家を建てた。それがこの家らしい。
そして提案の内容はそこに潜んでいる自然生成されたスライムを倒してきたら?というもので、冒険者レベルが0の僕にも倒せるぐらいにスライムは弱いらしい。
「それでどう?」
「いいけど、どこ辺りにあるんだ?」
普通の僕として喋るようになれたんだ
「それはねぇ.....」
異世界らしいことを初めてするな、
「はい、この剣を使いな」
渡されたのは白子がずっと素振りで使っていた長身の刃が鋭い剣だった。
僕は白子から道を教えてもらい、廃墟に向かう。
ものすごい大きさだ。魔族が住んでいたとは思えないくらい、感情を持たない魔族が住んでいたからこそ美しいのだろうか、どちらにしろとても美しい。
楽園を地上に持ってきてそれを区切るような柵をくぐる。なにかのトラウマだろうか、背筋が凍る。
区切りによって分けられていた偽物みたいに美しい雑草。もはや雑草というにはもったいない。
そんな草には前世では見たかったけど結局最後まで見ることができなかった{スライム}がいた。
いきいきとなんてしていなかったが、確かに動いている。前世でいうナメクジみたいな動きだ
剣を一突した。うようよとあがいてそれから3秒立ってようやく死が確認された。初めてこの世界にきて殺したけれど相手がスライムなのか殺したことに実感が全く感じられなかった。何も想えなかった。
人間の恐いところだ。蟻を踏み潰した時、ただの害虫としか思っていないから、踏みつぶしても何も感じない。スライムもこんな感じだった。命であってもそれぞれの重さが違う、そう思えた。
一回ひどい殺し方をしたのだから、2回目も3回目も何も感じなかった。
そうなると次々と殺せる。この世界には自分の実力が直接数字に表せられるレベルがあってくれており
殺した魔物の死体から魔素を奪って、その量からレベルを決める。
僕はあと5回ぐらいスライムを殺せばレベルが上がるだろうか。ちょうど5匹いる。殺したら帰ろう
4回殺して残りの一体を殺そうと少し奥に行く。
その一体を殺そうとした瞬間
奥から人影が見えた。白子ではなかった。
白子はいま後ろで僕に忠告してきたばかりだからだ
「慰っ!逃げろ!!あれは魔族だ!」
(なんで白子が、)
「結界を張ったからここからは出られない
久しぶりだね白子。」
子供の様な声で、冷静に語りかけてきたそれは
人影として形を帯びてるには程遠い牙と棚が生えていた
「私はお前など知らない!!」
白子は蒼白の顔で警戒してる犬の様な顔をしている
「ひどいなぁ君が生かしてくれたんじゃないか?」
白子は咄嗟に腰に付けてた皮の鞘から剣を抜く。
僕も応戦をしようとする。こんな僕でも白子の役に立ちたいと思った。
しかし、剣が持てなかった。それは「呪い」ではなく
一目みたら絶叫する事だ。
腕が氷でカチンコチンになった
「ァ、アァ、う、うでがぁっ!!!」
魔族は滑稽な僕を見て微笑む。
強烈な痛みが走る。それでやっと
僕はやっと痛みで目が覚めたようだ。
僕はこの世界に来れて、夢を見ていた様だ。
異世界の英雄のように自分もなれるかもと、今までなんの努力もしてこなかった僕に異世界なんてもってのほか行き場などないことに、
「かつて僕の家族がやられた仕打ちだ。白子思い出しただろ?」
白子はもっと顔を怖ばわせる
「あの子か....あの頃に家族を殺してしまったのは
すまないそれ相応の痛みは私が被る。
.....しかし、ちょっと待ってくれないか?
いま私の隣にはなんの関係もない人がいる。せめて、逃してから、その痛みを受けよう。」
グースカと無防備で寝ていた時の白子の顔とは思えないほど、凛々しい顔をしている。
「ダメだよ。僕の親も君らに同じことを言った。けれ ど君らは聞いてくれずに親は殺された。」
「君が生きているのは!!私の仲間が情けで
生かしたからだ!」
「結局その情けのせいで僕は苦痛を2年味わい
君は死ぬ。
だったら元から情けなんて要らなかったね。」
「慰、まず巻き込んでしまって申し訳ない。
逃げてくれ..」
「そうはさせないよ」
魔族の掲げた腕からは徐々にひかる燈が大きくなってゆく
「っ!!逃げて」
「エアシールド!!」
白子は咄嗟に僕の目の前に駆け寄り
見えるようで見えないものすごくでかいコンタクトレンズのようなものを手から張り出す
けれど、
「君はここの城で呪いにかけられて魔剣士としての大事な魔法を使えない。そんな君は僕にとっては本当に弱いとしかいえないんだよ」
燈はどんどん大きくなる。
シュゴゴゴゴゴゴ...
酷い音が広がる。
シールドを使ったけれど、炎によって白子の右目は燃え尽きた。
無力感で頭がいっぱいになる。
「そこまで落ちたか、白子、」
「私は変わってないよ。」
「.....じゃあね。またいつか来るよ..,」
魔族の背中は小さいながら不気味な感じがした。
「帰ろう。」
白子は痛がる様子もなく、ただ僕に大丈夫。肩だけ貸してくれと言う。
家までの帰り道
「慰...ごめん私のせいだ。」
それは違う。あの時動けなかった僕のせいだ。
どちらにしろ僕が一人であの庭にいたらあの魔族に殺されていた。
でもそんな慰めの言葉すらもかけられなかった。
.....
着いた。
「主の帰宅を歓迎せよ。」
小さい声で詠唱する。
ガチャ、
「とりあえず手当しよう。
特に慰は血の量がすごい。
今すぐ手当てしないと、」
僕は帰り道何も喋ってあげられなかった。
「よし、これでとりあえず慰は大丈夫だ。」
「白子はどうするの、」
「私は軽く包帯巻くからいいよ、
シャワー行こ。私が洗うから」
!!?
「い、いや一人でできるよ!」
「そっか..」
今せっかく包帯を巻いたのに、
また外さないといけない。
....
片腕が砕けて亡くなったのに、何故こんな冷静にいられるんだろうか、痛みがなかった。まるで手が偽物であったのように、それはきっと僕は一回死んでるはずだからだ。死への恐怖が薄い。燈を投げられたら死ですらボーッとしていたような奴だ。
ふと右腕を見る
やはり無い。だけど血は完全に止まってる。
やはり断面がすごくグロくて、これが自分の腕だと認めたくない。
異世界に来たのに、この仕打ちか......
「白子ー上がったよ」
「ごめんごめん。ご飯できたよ」
白子は明るく振る舞う
「包帯いちいち外したらするの面倒だからつけないで 大丈夫だよ」
一様言っておく。
「あぁ、私もごめんね付けたばかりなのにシャワー入らせるなんて、、」
沈黙が続く。
それを紛らすためにご飯を食べようとするけど、
利き手の腕がもがれたから、ろくに麦も食べれない。
「私が食べさせるよ ほらあーん。」
カップルが言いそうなセリフを真顔で言う白子。
それを最大限までに広げる僕。
こういうのは8年後ぐらいにやりたかったな。
「ご馳走様でした。」
「ごちそうさまでした。」
本を取りに行く。
歩いていると取れた腕の感覚にムズムズする。
かゆい?痛い?そうじゃない。
今までにない感覚だ。血液が肩に集中してる。
「慰!!」
苦しそうな僕の顔を見て、白子は駆け寄ってきた。
「アアアアァァ」
今までの痛みなんかと比べ物にならない。
グチャぁ
何かがすり潰される音と同時にあり得ないことが起こった。
腕が再生し始めた。16年間共にしてた腕ではなく、新しく再生した腕が僕の右手には付いている。
「呪いだ。呪われている!!
慰、冷静に聞いて欲しい。これが呪いだ。」
「でもどうして」
意外な冷静な反応だ
「あの時、魔族にかけられたんだ。」
白子はぼくの背中をさする
「この呪いはとある国では祝福とも言われる呪いだけど、基本的にはものすごくタチが悪い呪いだ。」
僕にはやばさが伝わらなかった。腕が生えてきたのは祝福なのだろうか、