【1-0】プロローグ
思いついたので気ままに書いて行きます。
そう長くはならないです。
色とりどりの花が咲き誇る庭園の中心で、妖精と見紛う美しさを持つ可愛い妹が笑っている。
「お姉さま、このお菓子、街で凄く人気だって友達から聞いて買って来たんです! お食べになって下さい!」
「ええ、頂くわ」
可愛い妹が純真無垢な子供のように、細い指を握った小さな拳を上下させて急かす様に笑い、頷いて焼き菓子に手を伸ばす。
高価なバターがたっぷりと使われているらしく、焼き菓子に触れた途端にじっとりとした感触が湧いた。指先が油で濡れるのに構わずにそれを抓み、口元に運ぶ。
軽く噛むだけで千切れる柔らかな菓子を小さく一口含むと、数回咀嚼して飲み下した。
「本当、美味しい」
「ふふ」
想像通りの反応が余程嬉しいのか、悪戯が成功したかのように妹が肩を揺らす。そして私に倣うように彼女も焼き菓子に手を伸ばして、しかし私とは違って豪快に焼き菓子の半分を一気に口に収めた。
「こら、ニナ。行儀が悪いわよ」
「お姉さまの前だけよ」
私が嗜めるも、妹は続けて残り半分も口に放り込み、てらてらと光る指先をピンク色の舌で舐めた。私に見せつけるように。
思わず嘆息が漏れた。
「もう。あなたもそろそろ結婚を考えなきゃいけない年齢なのよ? そんなことじゃ……」
「わかってまーす! ……ほらお姉さま、二つ目どうぞ」
叱責ですらない呆れ声は遮られ、妹が次に抓んだ焼き菓子を目の前に差し出される。
「………………」
思わずのけ反ってしまったけれど、それだけに留められた。気を抜いていたら、彼女の手を弾いていたかもしれない。
顔には出さずにドキドキとしながら、告げる。未だ自身の手の中にある焼き菓子の残りを示して。
「食べてる途中よ。それはあなたが食べなさい」
「はーい」
あどけなく笑い、私が勧めた通り、しかし今度は一気に焼き菓子を食べる。
その姿に、私は思わず笑う。
妖精のように可愛らしい、私の妹。
彼女の内側に巣食うものがどれだけ暗く、残酷で醜悪なものなのか知っているのは、今の所私だけ。
そして、彼女を蝕むものの正体を知っているのも、今の所私だけ。
ナタリアーナ。
可愛く愛しい、私の妹。
私は、あなたが望む通りの悪役令嬢になってあげる。