00 プロローグ 創世神話
ご覧いただきありがとうございます。
最初はこのお話の前提となる、神話と世界情勢です。退屈かと思いますが、サラッと読んで、次に行っていただけるとありがたいです!
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世界はただただ何も無い、荒涼とした大地が広がっていた。富める土も母なる水もなく、生きるものは皆無であり、時折風が吹き抜ける音がするのみであった。
ある時、創世神ルアンが顕現した。
「良い環境だ。素晴らしい。ここを私の庭園としよう」
創世神ルアンは水と富める土を創り、世界中に行き渡らせた。大地の起伏を創り水を循環させ、数多の植物を創った。
植物達の世界にしばらく創世神ルアンは満足していた。しかし次第にこの楽園を楽しむ者が他に居ない事を残念に思うようになった。
「折角楽園を創ったのだから、共有出来る者達が欲しい」
創世神ルアンは植物から微生物を創り、そこから様々な虫を、更には虫から魚、魚から爬虫類、鳥類、動物を創った。
言葉を話す者も欲したが、創世神ルアンはこの世界と動植物達の管理で手一杯になってしまった。
「そうだな。他の神を呼び寄せよう」
創世神ルアンはこの世界の外の神へ呼びかけた。
そして人類神アラナンが創世神ルアンの呼び声に答えて顕現した。
「植物が豊かで穏やかな世界ですね。とても気に入りました」
人類神アラナンは、早速創世神ルアンの希望通りに言葉を話す者を動物達から創った。動物の特色を残す彼らを獣人と名付け、その獣人を基に、より神に似た者である人間を創った。
そうして二柱の神の希望通り、この世界は人類で溢れた。人類を愛する創世神ルアンと人類神アラナンは、人類とコンタクトをとる為の場所を、この世界に3ヵ所用意した。
人類達はその場を神域と呼び、神殿を建てて神を愛し、敬った。
それから数千の時の間に、人類は国を造り、国境を定め、領土を賭けて争うこともあった。しかしそれでも人類にとっては穏やかな時代だった。
今から五百五十年前に魔神エルトナが突如この世界に顕現した。酷く傷付いていたこの神を心配した創世神ルアンと人類神アラナンは、しばしこの世界での休息を提案した。
魔神エルトナはその提案を受諾し、南の広大な大陸アリオカルの南西に移動する。そして二柱の了承を得て、人間をベースとした己の民、魔人を創った。
五十年の間、魔人達は魔神エルトナと穏やかに過ごしていた。創世神ルアンと人類神アラナンは、これで少しずつ傷が癒えて行くだろうと考えていた。
五十年が過ぎた頃、突然魔人達が近隣の村を襲い始め、次第に範囲を広めていき、最終的に国を乗っ取った。そしてその侵略の手は更に広がる。獣人と人間はもちろん抵抗したが、魔術という不思議な力を自在に操る彼らに抵抗できず、次々に国が乗っ取られていった。
アリオカル大陸の南西部の国々が乗っ取られると、世界中の人間と獣人は危機感を募らせた。特にアリオカル大陸に住まう獣人と人間は、神殿に赴いて日々の感謝と自国の安全を祈った。そしてどうか魔人の侵攻を止めてくださいと願い続けた。
獣人と人間の願いに応えようと、創世神ルアンと人類神アラナンは魔神エルトナに呼びかけた。
何故魔人達が侵略するのか。それは魔神エルトナの意思なのか。魔人達を止める事は出来ないのか。
まずはそれらを魔神エルトナに確認せねばならない。しかし魔神エルトナは会話を拒否した。
このままでは自分達の愛し子達が侵略されていく。しかし創世神ルアンは世界と動植物の管理に、人類神アラナンは獣人と人間の管理で手一杯で、魔人対応をする余裕がない。
創世神ルアンと人類神アラナンは相談の末、新たな神を呼び寄せる事にした。
その呼び掛けに応え、精霊神ハヤトが顕現した。
精霊神ハヤトもまずは魔神エルトナに呼び掛けたが、返ってきたのは拒絶だった。魔人の神に拒絶されては、魔人と話す事も叶わない。
「さて、どうしたものか・・・」
精霊神ハヤトは考えを尽くしたが、会話すら拒まれては、穏便に解決する方法もない。力には力をぶつけるしかないだろう。
しかし精霊神ハヤトは更に考える。我々神は創る事は出来ても、滅ぼす事はそうそう出来ない。
新たに魔人達と戦う人種を創ったとして、戦いが終わった後の世界でどう生きていくのか。魔人に対抗出来る人種なのだから、相応の能力を持たせねばならない。しかしそうすると、この世界は魔人と新たな人種の二強の世界になってしまう。人間と獣人を脅かす存在になっては元も子も無い。
精霊神ハヤトは魔人対応に頭を悩ませながら、神域に祈りにくる獣人と人間の願いにも耳を傾けた。彼らの願いの中に、魔人達の魔術に対抗出来る術を願う声があった。自ら立ち向かう精神を持っている事に気付いた精霊神ハヤトは、彼らの願い通り、対抗出来る術を授ける事にした。
精霊神ハヤトはまずこの世界の森羅万象から精霊を創り出した。この精霊達を使役すれば、魔術に対抗出来る精霊術を扱えるようになる。しかし精霊達の存在は神霊に近い。その性質上、獣人、人間、魔人には見ることが出来ない。そして見えなければ認知も出来ないので、使役もかなわない。
その問題点を克服するため、精霊神ハヤトは術に長けた魔人をベースに、半神半人という存在を創り、彼らをエルフと名付けた。半神半人であれば、精霊を認知する事が出来る。そしてその高い精神性故に、奢らず、他者を愛おしみ、傷付ける事を厭う。そんな存在ならば、獣人と人間を蔑ろにするような存在にはなりえない。
精霊神ハヤトは、エルフ達に仕事を2つ与えた。獣人と人間が精霊と契約する為の手伝いと、精霊術の扱い方を教える事だ。
神域以外の神殿にもエルフを派遣し、各国へ平等に精霊術を広めた。
その結果、対抗する術を得た獣人と人間は、少しずつではあるが、魔人の侵攻に耐え始めた。
精霊神ハヤトは各国の神殿に配備されたエルフ達を通じ、バラバラだった獣人と人間達の足並みを揃え、魔人侵攻に対抗させようと考えた。そして各国で連合協定を結んだまでは良かったが、実際に連合軍を指揮するに相応しい者がいなかった。
可能であればエルフに統率させたかったが、それはエルフの性質上不可能であった。彼らは愛と平和を司る半神半人であるため、人を殺す為の戦争に赴けば精神を病み、神聖性を失う。かといって獣人か人間では、身内で覇権争いが始まるのは火を見るより明らかだった。
結果、自らが指揮を取る事にした精霊神ハヤトは、半神半人のエルフから己の器を創る。精霊神ハヤトは唯一この世界に降り立つ現人神となった。
現人神として顕現するに当たり、精霊神ハヤトには拠点が必要となった。エルフ達も数が増えたので、創世神ルアンと人類神アラナンに許可を取り、高山ばかりでどこの国の領土にもなっていない、中央大陸レブチアに神域を設け、そこにエルフの里を造った。
こうしてエルフの助力を受けた獣人と人間の国々による人類連合軍VS魔人の国ティナドランという構図が出来上がる。
そして神話は今現在にも受け継がれ、争いは続いている。