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第二十二話「魔境と闇市」

「シノ殿の仇探しに協力する、と言いはしたが情報収集はお前の仕事だぞサコン」


「えっ」


 湯治宿の自室にて。

 黒川シノを開放した後、一段落ついたところでウコンはそう冷淡に言ってのけた。


「なにせ護衛役だからな、調べ物は手の空いてる時にお前がやれ」


「へーへー、めんどーごとを素直に引き受けると思ったらそーゆー魂胆ね、いいよいいよ」


「軽傷とはいえ奥方様は片腕を痛めている、当分そばを離れがたいんだ」


「ただでさえ一日十五時間も多い日は寝る人だしねぇ」


 ふたりの傍らには、まだ昼下がりだというのに布団に入っている奥方のすやすや寝顔がある。

 ウコンはふぅと深くため息をついた。


「今回のことで痛感した。私はやっぱり弱い」


「そう? 忍び里では褒められてる方なのに」


「それは下忍としてだ。黒川シノ、あの者、かなりの手練だった。上忍でも危うい。つまりは下忍として優秀だと評される程度では、太刀打ちできないということだ。幸い、シノ殿とは敵対せずに済むとしても、今後ああした難敵に襲われることは考えねばならない」


 はぁ、とウコンは黒毛の狐耳をくいくいとつねりながら考える。


「しかしだ」


「しかし?」


「めんどーすぎる! 修行だ特訓だとしちめんどくさいことやってられるか!」


「えぇ……、いや、ウコンらしいけどもさぁ」


 強欲がゆえに努力を嫌わないサコンにしてみれば、ウコンの怠惰さは引くほどらしい。

 長年の付き合いでよく理解してくれていても、なおだ。


「いいか? 私とて日々の鍛錬はこなしている、そこは渋々と義務として嫌々にやっている」


「煮え切ってない汁物の菜っ葉でも噛み潰すように言うねぇ」


「辛いこと苦しいことは必要に迫られなければやりたくないんだよ。しかしいずれ必要になると理解してしまうとやりたくなくてもやるしかなくなる」


「不真面目なのに真面目だよね、そこんとこ」


 褒められてるのか呆れられてるのか、サコンは微妙な言い草をする。


「で、だ。サコン、楽して強くなる方法を考えてくれないか」


「……あ、あはははは、でーもそゆとこ好き」


 苦笑いしつついわれても、である。

 サコンは尻尾を膝上に乗っけて、手入れしながらうーんと唸っては考える素振りをみせる。


「いや、ウコンの言うこともわかるにはわかるよ。もし今から修行したとして、普通は一週間そこらで劇的に強くなれるわけじゃないってのは。まず年齢や種族のこともあるから、大人の強豪種族が十分に鍛錬してたら勝てる訳がないんだよねー」


「ああ、五年十年後ならいざしらず、今、この旅路の中で役立つ補強案でなくては意味がない」


「うーん、楽して強くねぇ」


 ウコンとサコンは不真面目なりにだらけながら考える素振りをする。

 畳の上で毛づくろいしたり、あくびをしたりと到底そう見えずとも、少なくともウコンは考えた。


「よし、金で解決しよう」


「忍者らしからぬ発想するよねホント!」


「だがしかし、鍛錬は一朝一夕に結果はでないが、金は正しく使えば一朝一夕でも結果につながる。今より強力な武器や道具を調達する、というのはどうだ?」


「軍資金がある、といっても奥方様の帯びてる上玉竜魔刀みたいな反則めいた武器はとても……」


 上玉竜魔刀『鬼切真夜綱』。


 奥方の二振りの竜魔刀は、いずれも法外な値打ちもののはずだ。

 長首の竜魔を打ち倒したことは記憶に新しいが、ああして倒した本命一匹につき、ようやく一振りの上玉竜魔刀を作り出すことができるのだから貴重さは言うまでもない。


 黒川シノの手にする竜魔刀は異能を宿さないが、それでさえ下級武士の家にあっては先祖代々家宝として受け継いでいるような代物だ。無論、ウコンの操るただの鉄製の苦無では勝負にならない。


 代わりに、ウコンとサコンにはそれぞれ竜馬忍術を操るための竜玉が支給されている。

 しかし竜魔忍術があるからといって、接近戦で竜魔刀なしでは心許ないのは確かなのだ。


「心当たりは三つ、くらいかなぁ」


 サコンは自信なさげに、そう零した。

 ウコンはろくでもないことを言い出しそうだと身構えつつ、「聞こう」と催促した。


「一つ、盗む」


「却下」


「二つ、買う」


「闇市か」


「そう、おおっぴらに売買できないものを闇市で調達するの」


「……アリだな、三つ目は?」


「三つ、探す」


「まさか魔境で……?」


「そうそう、危険はまぬがれないけど一攫千金にはうってつけだよー」


「どれも危ない橋を渡る策じゃないか」


「訳ありでもなきゃ格安で手に入るわけないってのはわかってるくせに」


「くっ、正論を言ってくれる」


 闇市か、魔境か。

 先々の危険に備えて、今すぐ自ら危険を冒そうというのは本末転倒にみえる。


「……奥方様に相談してみるか」


 それにつけても自分らしからぬことだ、とウコンは自分を笑った。


 “強くなりたい”


 等と、自発的に思ったことはこれまでになかった。嫌々だとか、渋々そうしてきただけだ。

 しかし今回は必要だと感じたにせよ、誰に指図されたわけでもない。


(……なぜ、奥方様の怪我を防げなかったことがこうも悔しいのか) 

第二十二話、お読みいただきありがとうございました。

不真面目ウコンにも変化の兆し…? 

ウコンサコンの苦無は使い捨てられる暗器とあって力不足は否めない。

されとて易易とは手に入らない憧れの竜魔刀、さていかに。

今後ともよろしくおねがいいたします。

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