3.1 全てを照らす太陽
「やなちゃん、おはよう。はい、紅茶。」
「ありがとうございます。」
「うん?どうしたの?なんか元気ないですね。」
「あぁ、大丈夫です。ただ、卒業式の日だったので。」
「卒業?」
「はい、中学の卒業式だったんです。」
義孝とすんなり話してるやなを見て、綿は少し微笑んだ。
「すっかり馴染んだみたいだね。」
「えへへ~夏休みはたった一ヶ月、ちゃんと大事しなくちゃですよ。」
「時間を大事することは悪くないけどね。」
綿は相変わらず一気で飲んでる、やなは少しずつ飲んでる、義孝は優雅に飲んでる。
「黒沢、どうしていつもそんな面倒な?」
「君が勝手過ぎです!」
綿は気にならずでふーんと、義孝もやなも笑うしか。
そして、電話が鳴った。
「朝田、大変です。」
綿は少し眉をしかめた。
一緒に行動してる義孝が大変だと言ったってことは、相当の事件だってこと。
「どうした?」
「今回はすぐ終わらせるんだ。とりあえず出かけましょう。」
「今回は誘拐事件で、誘拐されたのはひなちゃん。」
「ひなちゃん!」
「僕も聞いたことがあるってことは、かなり有名だな。歌手か?」
「歌手ですが...まさか朝田が聞いたことがあるとは。
「話を戻して、昨日ひなちゃんは撮影が終わったあと、マネジャーと一緒にタクシーに乗ったけど、ファンにただいまメッセージを送っていません。
「そのあと、マネジャーは会社に置かれて、誘拐犯の要求を伝えました。
「要求は一千億円ですが、この会社はそこまでお金持ちではないし、一人の歌手のためにお金を出すわけにはいきません。
「しかし今晩、ひなちゃんが毎年でやってるライブがあるので、キャンセルできないし、会社もそうしたくありません。」
「前のように、素早く解決して欲しいのか?」
「そうです。」
義孝から資料をもらい、綿とやなはまとめ始めた。
光石ひな、芸名はひなちゃん、十六歳。
親友のよるちゃんとユニット「ひとよる」を組んでデビューしたが、解散したことでソロ活動を始め、人気アイドルになった。
歌うだけではなく、ダンスや芝居、ファッションショーまでうまい、その上礼儀も正しい、先輩たちとファンに愛されてる少女、「アイドル界の光」と呼ばれている。
なので、警察は犯罪動機を持ってる人を見つけ出せず、ただの誘拐だと判断した。
暫く時間をかけて、三人はひなちゃんの会社に辿り着いた。
「よぉ、くそ野郎。悪いな、またよろしく頼む。」
「よぉ、バカ長。バカだから仕方ないもん。」
「久しぶりです、佐藤さん。今回もよろしくお願います。」
「こちらこそ。この間助かったよ、真田さん。」
「佐藤さん、よろしくお願います。」
「おぉ、黒沢、前は君お前が役に立ったと聞いたよ、今回もよろしくなぁ。」
四人が挨拶をしている頃、二人の人物が入ってきた。
「こちらは会社の担当者の神田誠さん。
「で、こちらはひなちゃんのマネジャーの小山奈々さん。」
「こんにちは、朝田です。こちらは黒沢で、こちらは真田です。」
「事情は黒沢から聞きましたが、何か思い当たりはありますか?」
「このあたりの公園で...そう、その平和神社の隣の平和公園、そこで倒れた運転手を見つけて、今は病院で休んでもらっています。」
「そうか。ところで神田さん、このライブがはキャンセルできない理由がありますか?」
「はい。このライブは一年一度、『ひとよる』のためにやっています。」
「もう解散したのでは?」
「はい。ひなさんとよるさん、つまりひとよるのデビューステージがそこなので、ひなさんは毎年のこの日でそのステージを使って、『ひとよる』の結成を祝います。」
「そうですか。たしか二人ともすごい歌手でしたよね?」
「はい。」
返事したのはひなちゃんのマネジャーの小山。
「私は『ひとよる』のマネジャーでもありますので、色々知っています。ひなちゃんはダンスが得意で、よるちゃんは天才です。
「今のひなちゃんがすごいのも、よるちゃんが導いてあげたからです。」
「これもまた、ひなちゃんの祝い方っていうのはあります?」
「難しいと思います。今まではいつもひなちゃんのソロライブってのは、よるちゃんの行方がわからなかったからです。
「大切なステージで、他人に任すわけにはいきませんかと。」
「そうですね。」
手がかりをまとめたが、綿たちに閃きがなかった。
相手の連絡を待ってる四人は、ひとまずGLOWWORMで待つと決めた。
「もう二時半。」
やなの瞳に元気がなく、ただぼーっとして、時計を見つめてる。
六時から始まるライブまで、あと三時間半。
「あの...」
ホタルが電話を持って、四人のところへ来た。
「みなさん宛です。」
「こんにちは。みなさんは知恵でこの私を掴もうとしてるようで、実に恐ろしいことです。
「はっきり言えば、私の目標は一千億円ではなく、あなたです、朝田綿さん。
「あなたに挑んで、あなたが朝田綿として、探偵として生きられる資格を試したいです。
「がっかりさせないでくださいね。」
切れた電話を見て、四人は黙っていた。
「エコーがあって、地下室にいたみたいですね。」
ホタルの一言で、四人の推理脳細胞が働き始めた。
「ひなちゃんを掴むことは、決して僕を狙ってるだけじゃないな。」
「ホタルさんの推理が正しいのでしたら、地下室を中心に調べてもいいが...このあたりはビールだらけで、地下室があっても、誘拐に使うわけには…。」
「神社。」
義孝は急に言った。
「平和神社なら、地下室あります。」
「黒沢は陰陽師の家族で働いてるんだ。」
「陰陽師って...そんな仕事まだありますか?」
「隠してるだけです。でかい家族だと気にしますから。」
義孝は淡々と言っていた。
自分の仕事に関しては、かなり慎重で穏やかになっていた。
「神社の方は僕に任せてください。」
「僕も行く。」
綿と義孝は笑いあって、まるで相手の行動を読んだみたいに。
「念のため俺も行こうか。真田さんは?来るのか」
やなは少し悩んだあと、断った。
「会社に残ります。ライブの方に何があったら、対処の手伝いができますから。」
「じゃあ頼んだよ、真田。黒沢、バカ長、行こう!」