2.3 儚い光に頼って
ホタルは女の子を見つめて、マスクを外した。
「ケイ先生...!」
「違います。私は彼の妹です。」
名前は言わないのか。やなは思う。
「兄は、よく君のことを話してくれました。君が作ったケーキは本当に好きだったと、羨まされるくらい話しました。」
「先生が...!」
「浮気のことについては、心配不要です。それは多分、私ですから。
「先に言うけど、私は君を許すつもりはありません。
「兄が死んだあとで、誰かに憎まれることが嫌なだけです。」
無感情で語ったホタルは警察を見て、頷く。
「それではすみませんが、京子さんと名瀬さん、一緒に行きましょうか。」
ホタルの代わりに店の標示をCLOSEにしたあと、やなは席に戻った。
「ホタルさん強いですね、泣きもせず、語るべき言葉を語っただけです。」
「うん。僕もこういう場合をいくつか見たったが、そこまで冷静でいられる家族はそんなにない。」
「そういえば、まだ少し疑問があります。どうしてケイさんは女子トイレで?」
「そうだな...黒沢、君はどう思う?」
「僕?簡単だと思いますよ。だって男子トイレだと、京子ちゃんは言い訳を作りづらくなるじゃありませんか。」
「おぉ!」
やなと綿と同時に驚いた声で叫んだ。
「そうですね...でしたら、どうやってケイさんを女子トイレに呼び出したのですか?」
「黒沢、神のような考え方で何かヒントを!」
「君たち!ケイさんには少し難しい...ホタルさんの方が楽...だって似ていますし、実際もそうですし。」
「おぉ!!」
二人は再び、同じタイミングで叫んだ。
「さすが黒沢!京子ちゃんは多分ホタルさんの秘密を気づき、それを手札にしたいってことね。」
「そうですね。」
「ところで朝田さん、質問あります!」
「さっきの質問も君じゃないか?言って!どんな質問?」
「FWは?」
「FW...」
「Wなら、この店の名前にありますよ。GLOWWORM、二ついます。」
「おぉ!!!」
「急に黒沢さんを尊敬したくなりました!」
「WWは二つってことは、FFも二つ…あぁ!FIREFLY!」
「ということは...蛍の英語の二つ!まさか!」
やなは驚いたが、謎が解けた喜びで微笑むことができない。
そのFWは、ケイの深い感情の証。
「やなちゃん、おはよう!」
「黒沢さん、おはようございます!手元にいたのは...?」
「さっき佐藤さんがくれた調書のコピーです。」
「佐藤さん?」
「あぁ、その時は紹介しませんでした?あの日、一緒に調べた警察官は佐藤徹さん。いつも朝田と喧嘩するが、一緒に仕事することが多いです。」
「そうですか。調書の内容はどうですか?」
「推理と基本的には同じです。京子ちゃんはホタルさんの正体に気づき、それを相手に脅そうとしましたが、目の前にいたのはケイさんだと気付きませんでした。
「京子ちゃんから見れば、ただ大好きな先生が他の女の子の名前を呟いてる。結局、彼女はケイさんを殺しました。」
それから少し時間がたって、やなは事件の続きを知った。
京子はホタルの優しさで、懲役一年だけ、一ヶ月後は仮出所可能。
当時は罰が軽すぎたと、人々に議論されていたが、ホタルが何とかして抑えたみたい。
兄が死んだあと、ホタルは自分の夢を諦めて、そのまま「GLOWWORM」の経営を続けると決めた。
「お待たせしました。ご注文は?」
二人の女性の客を見て、ホタルは親子だと思いました。
「カプチーノ。君は?エスプレッソ?」
「いいえ。ミルクティーでお願いします。」
「なんだ、飲まないのか?まったく、年をとったら苦味がダメになった?」
「小さい頃もそこまで好きじゃありませんけど?」
「あの日はエスプレッソ?」
「君の息子のせいじゃないですか!」
二人のやりとりを見て、ホタルは思わず笑っちゃった。
「お恥ずかしい所を。」
「いいえいいえ、ただ、母親とこんな風に話せていいなと思いました。」
一瞬で、ケイの笑顔が浮かんだ。
「ホタル!」
「お兄ちゃん!」
その手を繋いで、幸せな帰り道。
「ねぇ、ホタル。僕が旅に出て、もう一緒に歩けなくなったら、悲しい?」
「うん!でもお兄ちゃんは言った、君は蛍の光、夜空で瞬く星の光、だから一緒じゃなくても、一人じゃない!」
「うん。ホタル、僕はずっと君の側にいてあげることはできないかもしれないけど...」
君が迷った時、僕が君の道しるべ。
「あのう?」
「あ!すみません!」
自分が泣き出したことに気付き、ホタルはすぐ涙を拭いた。
「すみません、急に兄のことを思い出した。」
「兄?」
「彼は旅に出て、長くなりそうで、つい...」
「あぁ、寂しいですか?」
「はい。」
もう待っても、あの灯が見えない。
毎年夏に一緒に見た蛍、一匹増えるかな?
「大丈夫ですよ。あなたにこんな風に待ってくれて、彼もきっと幸せです。」
幸せ…どこが幸せなの?
彼はその幸せのために、自分の命まで失った。
「ところで、どうして名前はGLOWWORMなのですか?」
「蛍の意味ですよね?」
ホタルふと思い出したのが、最初の頃。
「シンプルでいいじゃない?」
「いいえ!GLOWWORMでいい!」
「お兄ちゃんはどうしてそこまで拘るの?」
「だって...!」
「これは後半です。」
「後半?」
「兄は言いました、蛍には二つの英語の名前があります。」
FIREFLYと、GLOWWORM。
重なったFとWを合わせたら、FW。
Forever Wish、永久の祝福。
「ケイ。ホタル。」
「朝田さん、まだ気にしていますか?」
「そうでもない。ただ、蛍は長く光ることはできないよね。」
「確かにそうですね。」
「どうしてケイさんはそこまでできるの?」
「愛してるからじゃないですか。」
「愛...わからないな。」
「短くても美しい、失っても心では永遠です。」
「真田……」
やなを見て、綿は微笑んだ。
「話してくれてありがとう、その言葉も、心では永遠です。」