失意のうちに転生した ~前世の功徳を無駄にはしない
転生異世界物書いてみました。
※R15は保険です
失意のうちに死んだ。
と思ったら異世界に転生した。
気が付いたら、14歳の男の子の中に居た。
彼は流行り病で意識不明となったが、奇跡的に復活したらしい。
どうやらその時彼は1度死んで、中身が俺と入れ替わった様だ。
彼は異世界の高位貴族の長男でケニーという。
彼の記憶と自分の記憶、両方が頭の中に存在しているが、混在はしていないらしく、たまに日本語で話そうとしてしまうくらいで、それほどの混乱は無い。
両親をはじめ使用人の皆さんには恵まれていて快適な生活だ。
このままケニーとして人生を送るのも悪くない。
俺はそう思った。
だが健康状態が戻って余裕が出るにつれて、前世での失意が大きく頭の中を占める様になった。
田舎に生まれたモブの俺は、何をしても人並み以下だった。
1つとして望みが叶った事もなかった。望みを持つ事さえも途中で諦めた。
目立たない学生生活を送り、生まれ育った田舎の会社に入社し、目立たない業績で出世もできず、結婚相手もおらず、母親は親父に愛想を尽かして家を出、父親は飲み過ぎで死に、親父の残した借金を細々と返済し、年老いた祖父母の面倒をみて、ただ日々に追われて過ごす人生。
そう、死んだ33歳まで純潔だったが、魔法使いにもなれなかった。
結局急に体調を崩し、祖父母より先に他界。
そんな過去を振り返ると、この恵まれた環境で、自分に何が出来るか挑戦してみたい。そんな謙虚な気持ちになれた。
そうなれば話は早かった。
まずは、神殿に行き自分自身を鑑定してもらい適正をはかって、向いている事に挑戦してみよう。そう決意し父上に相談する。
神殿の鑑定の儀が15歳にならないと受けられないというのは知識として知っていたが、14歳でも希望者は受けられるはず。
親のコネと権力を期待してお願いしたところ、すんなり許可が出て、父上と一緒に神殿に行き鑑定を受けた。
【名 前】ケニー・アクセリオン
【レベル】10
【身 分】アクセリオン侯爵家 長男
【年 齢】14歳
【称 号】神の慈悲に救われし者
【ジョブ】魔法使い
【スキル】元素魔法(火)Lv.1
元素魔法(水)Lv.1
元素魔法(土)Lv.1
元素魔法(風)Lv.1
神聖魔法(癒)Lv.1
凄い事になっていた。
前世に守った純潔のお陰なのか?報われなかった人生のお返しなのか?
俺は魔法使いとして、前途が約束されていた。
何しろ元素魔法4種類フルコンプの上に、神聖魔法まである。
元素魔法フルコンプは希少だし、神聖魔法使いに至っては、時代に数人しか現れないほどの存在。
そしてそれを両方持っている。
父上であるアクセリオン侯爵は、びっくりして腰を抜かし、神殿は大事件と王宮に使いを出す。
その後、数日して父上に連れられ王宮に上がった俺は、このドライアン王国の王であるレムスル陛下より直々にお言葉を頂き、第一王子殿下の学友として共に学ぶことになり、将来を約束された。
我が家はお祭り騒ぎとなり、父上も母上も私を持ちあげ、聞いたことの無い遠縁も縁故を繋ぐ気満々でひっきりなしに来訪した。
そんな喧噪の中で、我が侯爵家の明るい前途に嬉しさを隠しきれない父上と対照的に、俺はある事について冷静に計画を立てていた。
30年純潔だったら、魔法使いになれたって事だよね?
これ、更に継続したら賢者になれるんじゃね?
そう!純潔死守を心に誓ったのだ。
そして父上に相談した。
「お父様、私は魔法使いとしてこれより研鑽を積んで参ります。国王陛下からもご期待を頂いた身として、アクセリオン侯爵家繁栄のためにも、ご期待以上の成果を出さねばなりません」
「それは良い心掛けだが、それがどうした?」
「万難を排し、研鑽を積むために。私が世俗を捨てる事をお許し下さい。具体的には、生涯独身で通したいと存じます。ですので、アクセリオン侯爵家の後継はまだ幼いですが、弟のジーンにして下さい。お願い致します」
俺の予想外の相談にびっくりして、しばし考え込んだ父上だったが、俺の才能で家名が歴史に残るという誘惑には勝てなかったのか、または、息子の好きにさせてやりたいという父親の愛ゆえか、ひとまず俺の要望を受け入れてくれた。
◇
それから研鑽の日々が始まった。
第一王子殿下の御学友として学んだ期間は、結局3年だけだった。
俺は才能に恵まれるだけじゃなく、その理解力と習熟速度が常人離れしており、王宮の家庭教師をはじめ、魔法団の団長、筆頭王宮魔術士に至るまで「もう教える事は無い」と匙を投げた。
そんな私は、どこまで行けるのかと興味深々のレムスル陛下の勧めで、この世界で魔法の最高峰である、スピカ魔法国の高等魔法研究院に留学する事になった。
スピカ魔法国は、このドライアン王国より東へ数か月旅した世界の果て近くにある事くらいしか知らなかったが、もうこの国では先が無いと思っていた俺は二つ返事で快諾した。
ちなみに3年の間に俺のステータスは確実に成長している。
【名 前】ケニー・アクセリオン
【レベル】15
【身 分】アクセリオン侯爵家 長男
【年 齢】17歳
【称 号】神の慈悲に救われし者、研鑽に身をささげし者
【ジョブ】魔法使い
【スキル】元素魔法(火)Lv.9
元素魔法(水)Lv.9
元素魔法(土)Lv.9
元素魔法(風)Lv.9
神聖魔法(癒)Lv.9
全ての魔法がレベル9に達している。レベル10が通常のMAXなのであと一歩だ。ある特殊条件でレベル10以上を目指せるらしいが、今のところ詳細は不明である。
また、あまりにも魔法以外の事に目を向けずに俗世を断った事が原因なのか、称号に「研鑽に身をささげし者」というのが追加されていた。
いい感じで世捨て人だなぁ。
スピカ魔法国出発の日、俺は、見送ってくれた父上と母上と弟のジーンに、次に戻る時には世界でも指折りの魔法使いとして凱旋しますと宣言し旅立った。
◇
スピカ魔法国の高等魔法研究院で過ごした4年間は、毎日が刺激の連続だった。
常に新しい仮説と検証、トライ&エラーを繰り返し、理論を構築し直し、データを分析し、考察と議論を戦わせ、アカデミックな雰囲気の中でお互いを研鑽し合った。
ここでは神聖魔法使いは珍しいものの、奇異の目で見られる事も無く、匙を投げられる事も無かった。まあ何をやるにも全てが自己責任だしね。
世界の魔法の頂点だから当たり前か。
そして俺は21歳になっていた。
そう、転生して7年、前世から数えれば都合40歳である。
その間守り通した俺は、期待半分にスピカ魔法国の中央神殿で鑑定を受けていた。
【名 前】ケニー・アクセリオン
【レベル】25
【身 分】アクセリオン侯爵家 長男
【年 齢】21歳
【称 号】神の慈悲に救われし者、研鑽に身をささげし者
【ジョブ】賢者
【スキル】極元素魔法(火)Lv.1
極元素魔法(水)Lv.1
極元素魔法(土)Lv.1
極元素魔法(風)Lv.1
極神聖魔法(癒)Lv.1
創造魔法Lv.1
鑑定魔法Lv.1
転移魔法Lv.1
とうとう達成した。ジョブ賢者を取得した。まさに歓喜だった。
前世の俺の33年間が報われた。
才能がある事より、経済的に何不自由ない事より、努力が報われた事が、過去の自分の失意が無駄じゃなかった事が何より嬉しかった。
元素魔法は全て“極”が付きレベルが初期に戻った。
新しく、創造魔法、鑑定魔法、転移魔法も取得した。
世界で賢者の伝説はあっても、現世の実在は寡聞として知らず、多分俺1人しかいない。やったのだ。俺は。
◇
その夜。
研究室で、4年の間いつも一緒に研究していたうちの1人である、ド近眼メガネ娘のルーシーと一緒になった。
相変わらず、2人で直近のテーマについて議論を交わす。
彼女の頭脳は明晰であり、かつ目の付け処が斜め上なため、過去何回も難題に突破口を開けた才媛である。
もう20歳も過ぎているので、軽くお酒を入れてリラックスしながらだ。
議論の合間に、俺のいつになくハイテンションな様子を敏感に感じ取ったのか、ルーシーが話題を変えた。
「ケニーは今日何かいい事あったの?いつも冷静な感じなのに、今日のテンションの上がり方凄くない?」
そんなフリに対して、いつもより気分が良くて若干飲み過ぎていた俺は、あろう事か仮定の話として自分の話をしてしまっていた。
4年間も一緒に研究して来た仲間という信頼感から、俺は不用意にペラペラと経緯を話していく。
仮説・検証を繰り返して来た4年間ですっかり要領よく話すスキルを身に着けた俺が気分よく話終えると、彼女の様子がおかしい。
どうした?とのぞき込むと、号泣していた。
いやいや俺の過去そんなに壮絶かな?今は報われたんだから良くね?
むしろ転生とかそっちの方が気にならないの?
「何だよ、急に泣くなって。物語だって、物語。俺作家になれるかな?」
焦った俺が胡麻化そうと変な言い訳を言い始めるが、ルーシーの号泣は止まらず、そして泣きすぎてメガネを取った。
いや、ビックリ
定番中の定番過ぎてビックリ。むしろあり得る展開過ぎて無いと思っていたらまさかの直球。
ハイ、超美女でした。
泣き顔もとてもカワイイ。
いきなりの事態にとっさに、ポケットに入ったままのきったないハンカチを渡して、無言で頭をなでてやり、しばらく過ごして落ち着かせ、解散した。
頭をなでているとき、何だか心がホカホカしたけど、気のせいだ。
そんなハプニングはあったけど、翌日からは、特に変わった様子もなく、通常に戻った2人。
他のメンバーも含めて、相変わらずの研鑽の日々が過ぎて行った。
◇
それからまた1年が過ぎ、俺は22歳となり、研究室を出て帰国する事になる。そして、ルーシーも同じく自国に帰るとの事。
研究室の皆で食事に行こうぜ!といつもの居酒屋に行こうとすると、何だか設えがあるらしく、別の場所を指定される。
そこはスピカ魔法国首都一番の高級店だった。
格式の高さに若干緊張しながら入店すると、個室に通された。
ルーシーが既に来ていたが、席が2つしかない。
他のヤツらは?と聞くと、何かゴニョゴニョ言っていたが、要は彼女が俺と2人で食べたかったらしい。
まあ、お互い帰国したらもう会わないだろうから、最後の晩餐てわけだ。
雑談しながら和やかに食事をしていると、ルーシーが少し言いづらそうに、でも決意を持って話を変えた。
「ケニーは、帰国したらどうするの?」
「そうだなー、王宮に勤めて、研究成果を元に国の発展に尽くさなきゃな」
俺のわがままに文句も言わず送り出してくれた家族、そして研究院に入れてくれた国王陛下に恩返しをしなきゃ。そんな想いがあふれている。
「じゃあまた一緒に居られるね!」
ホッとしたような笑顔でルーシーが意味不明な返しをする。
ん?
何で??
「いや、ルーシーも帰国するんだよな?そういえばどこの国出身だっけ?ここにいると個人の事より魔法の事の方が気になりすぎて、聞いてなかった気がするよ」
「ケニーらしいね、じゃあせっかくだから私を鑑定してみてよ」
【名 前】ルシル・ドライアン
【レベル】15
【身 分】ドライアン王国 第一王女
【年 齢】26歳
【称 号】真理を探究する者
【ジョブ】魔法研究者
【スキル】聡明Lv.7
元素魔法(火)Lv.7
元素魔法(水)Lv.7
え?
ちょっまっ?
俺の国の第一王女ぉ?
いやいやいや、聞いてませんよ!
そういえば、第一王子殿下に家出して好き勝手している姉がいるって聞いた記憶はあるけどさ!
「ちょっと、待ってよ。ルーシーは分かってたの?」
「そりゃ、アクセリオン侯爵家の神童を行かせるから頼むって、お父様から言われたし。こんな歳になっても帰国も結婚もしないで好き勝手してるんだから、少しは役に立てって。だから同じ研究室だったのよ。」
そうか、そういう事か。
何か繋がった。
そういえば最初の頃、ルーシーがいろいろ案内してくれたり面倒見てくれたっけ。
まあ、ルーシーとはマブダチだからな、帰ってからもやり易いってもんだ。
「そうだな、これからも宜しく頼むよルーシー。いや、宜しくお願い致します。ルシル王女殿下」
「止めてよ、2人の時は今まで通りルーシーでお願い」
確かに俺もそっちの方が楽。
そんなこんなでこの日は飲みながら一緒に帰国する事で大いに盛り上がり、そして一月後俺たちは帰国した。
◇
これから先、生涯純潔を守り魔法の道を極めようとする俺の人生が、年上で可愛くて聡明で面倒見の良いルーシーに翻弄されるのは、また別のお話。
勢いって大事。
興味を持っていただけたら、続きも含めて連載化しようかと