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家を出る朝、泣く昼。

作者: 杉将

 私はアンちゃんに、さぞかし眠いだろうけど一本の映画を作ろう、と言いました。アンちゃんは眠そうな目をこすりながら、ござい、と言いました。

 私たちは靴を履いて外に出ました。外に出れば映画の一本くらい撮れるものです。

 カメラを回しながら、前を歩くアンちゃんに、寂しい人ですかー、と聞きました。アンちゃんはこちらを振り返らずに、左右に少し揺れました。何かを表現しているようでした。アンちゃんは、道に生えていた草をちぎって、それを人差し指に巻いて、ほどいて、捨てました。

 アンちゃんが靴紐を結び直しました。結んであった靴紐を一度ほどいて、硬く結び直したようです。しゃがんだアンちゃんの背中にブラ紐が浮かんで、私はそこに好感を持ちました。ズームをすると、それはただの衣類になって、退屈なものになったので、ズームはやめて、やはり、全体を映すことにしました。するとまた、ブラ紐は素敵なものになりました。

 アンちゃんが手を後ろに回して、チェンジアップのサインを出しています。私とアンちゃんはソフトボールチームでバッテリーを組んでいたことがあるので、あれがチェンジアップのサインだとわかります。私はわかったことが嬉しいような、恥ずかしいような心地がして、カメラを空に向けました。空は青くて、うん、ただ青いだけでした。少し持ち上げていた腕には毛が生えていて、その毛は、口に含んでもケバケバしないだろうと私は思いました。私はカメラを手に持っているから、今はこんなことを考えてはダメな時でした。だから、しっかりカメラを前に向けて、アンちゃんを映すことに専念しました。

 アンちゃんは退屈そうに歩いていました。それを撮っている私も退屈な気がしてきましたが、それはは本当の気持ちでしょうか? 目に見えているもので自分の全部が決まるのは少し違う気がして、でも私にはよくわからなくて、腕の毛が逆立って、私は私の見ているものしか映せないと思って、でもそれって当たり前で、私の頭がダメなんだと思って、ならもう生きてもしょうがないんじゃないかと思って、コンビニに入って行くアンちゃんを仕方なく映して、そうして出てきたアンちゃんが渡してくれたスイカバーをかじって、うまく撮れてる? とアンちゃんに聞かれて、私は泣いてしまいました。なんだか世界に二人ぼっちになったような気がしたんです。

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