第9章(最終章)
~幻の秘宝を魔術で射止めるべく黒魔法使いはダンジョンで今日もインチキ宝石商と果てなきバトルを繰り広げ~第9章(最終章)
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Scene.23 お父ちゃん・・・
「何よっ!アイツラと来たら!私をよくもコケにしてくれたわねっ。そもそも団長の村岡と来たら私がこんだけ頑張ったっていうのに、村岡の奴、無報酬ときたもんさ!」
細木はたまらずお父ちゃんに電話する。
「もしもし、あ、お父ちゃん。酷いのよ、聞いてくれる~、うん、そうなの。」
細木は事の次第をお父ちゃんに伝える。
グラスにシャンパンをがばがばと注ぐと一気に飲み干す。
酔いつぶれながら水晶球を取り出してンデゲの脳波にアクセスするため不気味極まりないおどろおどろしい声で呪文を唱え始めた。
「いいわよ、アンタたち、憶えてらっしゃい! ルゥルル ボンヌゥ フェリプティチ~ アンナタ ハセソキ フォンデゥルブ!」
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清水がロドリゲス皇帝に向かって話し始める。
「そもそも・・・貴方からの依頼で盗賊団からこの「ドラゴンズ☆ソウル」を取り返す依頼でありましたが、何故盗賊団の団長と貴方は顔見知りなのでしょうか。しかも連絡まで取り合っていて・・・」
それを聞いた盗賊団長・村岡が切り出す。
「清水君、よく気がついたねぇ。君も宝石には詳しいだろう。
その中でも過去に有名な宝石などは必ずといっていいほど不思議なストーリーを持ち合わせている・・・
その付加価値によって当初の価格より上がってゆく。もうお分かりかね、この「ドラゴンズ☆ソウル」にとってもその偉大な魔力がストーリーとして十分効果があるが、さらに価値を高めるために私とロドリゲス君によって、いわば「工作」をしたのだよ。
次々に盗み出しては消えてゆく、まるでこの石が意志を持って次から次へと旅をしているような。
この石にまつわる幾つもの争いがストーリーを作り出し、それは神秘的な魔力として人々の興味をそそり、付加価値を付けてくれるのさ。
必然的に取引価格も高騰してゆくからね。
ウワサによる粉飾、それが当初の目的だったのさ。」
村岡の言う「工作」という言葉に一同が絶句する。
村岡は続ける。
「最初は私もこの原石の魔力とやらを少々信じがたく思っていた。
だが、清水君から聞いた、ミュウラ長老が原石を操り、ドラゴンを実際に登場させたことによって、私は確信したのだ!
そして居ても立ってもいられず、喉から手が出るほど欲しい衝動に駆られて、こうして日本からやってきた次第なのさ。」
と、村岡の話を遮るようにロドリゲスは口火を切る。
「村岡さん、それでは当初の話と違ってきますよね。貴方が欲しいというのなら。
当初の予定は、盗賊団からこの原石を無事奪取し、付加価値がついたところでオークションにて高値で売約し、利益を二人で分けることでしたよね。
もし貴方がこの石を手にしたいのであれば、私から買い取っていただくのが筋では?」
村岡はこれを聞くや「ニヤッ」と不敵な笑みを浮かべる。
「ロドリゲス君、今までご苦労様。
急で悪いが、私の気が変わったのだよ。まぁ交渉決裂ってところかな。
ほら、この石に秘められた魔力の使いようでは人類史上最も偉大な権力を手中に収めることさえ出来るのだよ。
そんな小さな付加価値などどうでもいい、私はそれに気付いたのだよ。
私はこの石が欲しいのさ。というか、戴く。
私はミュウラ長老と共にこの世界を牛耳るのだ、な、ミュウラ君。ハハハッ!」
清水はミュウラのほうに視線を向けると、どうしたことか銃を構えている。
このインチキ長老の奴、いつの間に買収されたのだろうか。
なんとも尻軽なオヤジだ。
ミュウラが切り出す。
「さあ皆さん手を上げて。この石は今日から私と村岡さんのものだ。
最期にこの石をじっくり拝むが良い!」
そういうと二人はリビングを出て行った・・・
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一部始終を見ていた細木は慌てて戸外へと走り出す。
そして階下の廊下を歩く二人の下へ。
たどり着くや細木が声をかけた。
「まあ、どちらへおいででしょうか。私も連れて行ってはもらえませんか?」
村岡が遮るように言う。
「ダメだ!君は任務を全うできなかった。」
するとミュウラが村岡に口添えする。
「村岡さん、ですが彼女の黒魔術も中々のものでして、何かのお役に立てるかと。」
「そうですわ、村岡さん。私、何なりと従いますよ。」
「ううむ、ま、様子見といくか・・・ならば着いて来い!」
そういうと村岡は玄関へと向かってゆく。
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Scene.24 原石の行方
清水はロドリゲスに詰め寄る。
「貴方は・・・なんてことを!」
「仕方ないだろう、私だって家の財政が傾いているのだから、渡りに船と思ったのさ。」
「と、いうことは、オークションに出品したときに盗まれたって言うのは?」
「ああ、私が村岡に手渡したのだ。この話がうまくいけばあの原石が高値で売れるからな。」
「ですが・・・」
すると黙って聞いていたンデゲが呟き始める。
「あのう・・・・ここにある偽物の石ですが・・・」
そういうとンデゲがテーブルの上の石に向かって呪文を唱え始める。
すると石が輝き始めた!
「そうです、ミュウラの奴が持っていったのは偽者のほうで・・・こちらが本物の「ドラゴンズ☆ソウル」なのです。」
これには一同も驚きを隠せなかった。
マヌケなミュウラ。
こともあろうに自分で作った偽者のほうを持っていったのだ!
清水がンデゲに問いかける。
「ミュウラは自分で作った石を間違えて持っていったってことか?」
「いいえ。彼は自分で作ったのですから、そのような事は。
ほら、刻印で判別できますし、先ほどの話のように彼は「世界平和」を熱望しているのですよ。
村岡の考えとはまるで逆の発想です。
その意味においても、ですから私達にこの石を持って逃げろと、いう意味に違いありません!」
するとロドリゲス皇帝のスマホがけたたましく鳴る。
「はい、ああ・・・はい、聞こえております・・・・はい、仰せつかりました。」
ロドリゲスは電話を切ると二人に向き直る。
「さぁ、行くぞ!」
そう言うと、ロドリゲスは足早に戸外へと向かう。
事の次第を把握できぬままの二人も後を追う。
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どうしたことだろう、先ほどまでの厳重な警戒網は既にとかれていた。
というか、まるで人っ子一人としてそこにはいなかった・・・
ロータリーには黒塗りのハイヤーが鎮座している。
ロドリゲスはそれに乗るや彼らを促す。
運転手は待ちわびた様子でロドリゲスに目配せする。
清水がロドリゲスに問う。
「あのう・・・先ほどの電話は?」
「ああ、国王だ。」
なんと、国王からの電話?清水とンデゲはとうとう訳がわからなくなる。
そして無言のままの車は先へと突っ走ってゆく!
やがて車は先ほどロドリゲスたちが宿泊していたホテルへ到着する。
何だか物々しい警戒網、それは軍部及び警察であった。
3人は中へと案内される。
このホテルのスウィートルームへと通される3人。
そして・・・何とそこには国王が待っていた。
「おお、諸君。よくご無事で。さあさこちらへかけたまえ。」
国王に促されるまま一同は席に着く。
「それでは順を追って説明しよう。
そもそもあの「ドラゴンズ☆ソウル」の話は我が父上より昔から聞かされていたのだ。
いささかその存在の真偽のほどは行方知れずということだったので、とうの昔に忘れてはいたのだが・・・
しかしある内通者からその存在が確かであることを知り、ロドリゲス皇帝がオークションに出品したのを見に行く予定だった。
その矢先に盗賊団に盗まれたことで今回の騒動になったのだ。」
国王の話にロドリゲス皇帝がウンウンと頷く。
「そして内通者からこの石が再度盗賊団の手に渡ったということで、盗賊団の捕獲に踏み切ったのだ。」
そう聞くや、ロドリゲスが国王に話しかける。
「と、いうことは・・・村岡たちは?」
「ああ、既に警察部のほうで身柄を拘束している。」
一同は国王の采配に唖然とする。
国王は話を続ける。
「それがだ、彼らが持っていた原石は、実は偽物だったのだ!」
そう聞くや、今度はンデゲが乗り出す。
「こ、国王殿。それですが、こちらに・・・・」
そう言うと、傍らに携えた原石をテーブルの上に置いた。
余りの唐突さに、国王が呆気に取られる。
すると、スウィートルームの扉がけたたましく開かれる。
そして・・・何と、捕らえられた筈の細木がそこに現れたのだ!
これには一同、あごが外れんばかりに驚愕する。
だって細木の顔がそれは物々しい表情であったから!
「んむむむむぅ!これ、これよ!お父ちゃん!」
辺りが静まりかえる。
そして、お父ちゃん?
「おお、無事でよかった!」
国王は立ち上がると、そのおどろおどろしい表情の細木を抱きしめるや、人前もはばからずにブッチューとやる。なんとも世も末だ。
「ああ、私としたことが・・・こちら私の嫁さん。盗賊団のアジトに入り込んでずっとスパイしてもらっていたのだ。皆さんも既にご存知だね。
もちろんこの「ドラゴンズ☆ソウル」はロドリゲス君の所有物であったから、この魔力を封印する上にも私が君の言い値で買い取ることにする。
そしてご協力いただいた君達にも褒美を進呈しよう。」
やっとのことでことの事情を飲み込んだ一同。
なんと細木が国王の嫁だったとは・・・これぞ世も末だ。
これにて一件落着ということか・・・・
3人は部屋を出るとそれぞれの部屋に戻された。
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Scene.25 国王の野望
国王と嫁の細木は久々の出会いに語り合っていた。
「会いたかったわ、お父ちゃん!」
「ああ、心配していたよ。」
「やっと手に入れたわね、「ドラゴンズ☆ソウル」!」
「ああ、私も喉から手が出るほど欲しかったからね。」
「これで世界は貴方のものね。でも、お父ちゃんって、この石の使い方わかるの?」
「いや、わからん。」
「そうなの、じゃ安心ね!」
「な、なんだとおぅ~!!」
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~ FIN ~