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第6章

~幻の秘宝を魔術で射止めるべく黒魔法使いはダンジョンで今日もインチキ宝石商と果てなきバトルを繰り広げ~第六章





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Scene.15 困ったときの神頼み



戦いに敗れた細木は恐れの窮地となりながら途方に暮れている。

傭兵達はその様子をただ黙ってみつめているしか出来ないで居た。

少しでも慰めようとするように、一人が手持ちのスマホからblue toothでクラシック音楽をかけ始める。曲目はそういう意味で選択したのか、ビバルディーの「春」であった。

と、その曲調の明るさに我を取り戻したような細木は、天を仰ぎながら何故か涙を流し始める。そして・・・・


「オゥ~!神よぅおうおうお~・・・お父ちゃ~わぁんぅっう・・・」


あたかも洞窟の奥深くに潜むまるで魔物のような雄叫びの如く、それは、おおよそ人にあるまじき雄叫びが、細木の喉奥深くから発せられたことによって、周辺一同が狼狽する・・・


なんともおぞましいその光景が目の前で引き起こされていることにより、その場を逃げ出すものさえ現れる始末であった。


「ほ、細木さん!大丈夫?」


「え、何がよ!」


「だって・・・凄い声が・・・」


「何よ、私が何をしたって言うのよっ!あんたたちが不甲斐ないから私一人で戦いに行ったんじゃないのよ。よりにもよってあんたたちがそんなにもこんなに弱虫だとは!」


「ええ・・・ですが、お言葉ですが細木さんが一人で行くって申していましたが。」


「はぁ?そんなこと言ったっけ?大体あんた達が何もする気が無いからでしょう。少しは仕事しなさい!ったく。」


「はい・・・ですが、何からやれば良いのか。」


「そうねぇ。じゃ、作戦会議よ!」


細木主導の下、清水たちに対する攻防の幕が開かれようとしていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



その頃、清水たちは夕べの「ドラゴンズ・ソウル」による威力について口々に語り合っていた。


「ンデゲ。お前があの原石を操る筈じゃなかったのかな?血筋を使って。」


「何故か長老ミュウラはそう申していましたが・・・僕は呪文など知る由もなく。」


「そえもそうだ。結局ミュウラ頼みだったもんな。」


一同はミュウラが操った原石について議論を深める。


「しかし、ミュウラは僕らに呪文さえも教える事は無かった・・・どうしろと?」


「多分・・・ミュウラは操り方を独り占めしているような。」


「それは何故?」


「僕らにもそれはわかりません。勿体無いのでは?」


「は?勿体無い?この期に及んでミュウラは絶体絶命の状況も考えられたのに、何故?」


「だから、僕らに教えると何かまずい事でも有るんではないですかね。」


清水は思案する。

この原石には途方もない力が備わっている。

途方も無いとは、一体どのようなレベルなのか。

そういえば、旧知のロドリゲスもこの原石を操れるという話だったな。

そうか、ロドリゲスが何かキーを持っているのかもしれないぞ。

そう思いつくや清水がスマホでロドリゲス公爵に電話する。


「ああ、ワシじゃ。そうだね、例の原石は手元に戻ったかね?」


「とりあえず、ここにはあります。ですが盗賊団率いる細木の魔の手がとうとう此処まで及んでいまして・・・夕べはミュウラの呪文のお陰で「ドラゴンズ・ソウル」が目覚めたお陰で救われたのですが・・・」


「ナニィ!ミュウラが操ったというのか?」


「はい、然様です。」


「アイツ・・・オレの承諾もなくよくも・・・」


「あのぅ、つかぬ事お聞きしますが、何故ミュウラ長老はあのように原石の魔力を引き出すことが出来るので?」


「それは・・・・血だ。それは彼らの部族の血縁のみが有している。そしてこの部族に昔から言い伝えられている呪文がその鍵となっているのだ。しかしだ、今まで彼らの良心に頼ってその力が利用されることは無かったが、ともすれば裏切りも考えられる・・・そこでだシミズ君。こっそりとその原石を持ってそこから脱出できないかい?」


清水はロドリゲスの言葉に怪訝な表情を浮かべる。

果たして僕らがひそかにこの原石を持ち出してロドリゲスに手渡すことが全ての答えとなるのであろうか。

すると、自分のテントに行っていたンデゲが、慌てた形相でこちらにやってくる。



「清水さん、大変です。夕べの攻防の後にミュウラ長老から授かったあの原石、夕べ確かに持ち帰り、今しがた探してみたのですが、無いのです。」


ンデゲの言葉に唖然とする清水。

原石は一体何処へ消えたというのか・・・


「あのぅ・・・」


夕べの攻防の際もそばに居たサリュウが口火を切る。


「実は・・・長老からあの石を取ってくるように言われて、今朝長老に渡したのです。」


それを聞くや一同が口を閉ざす。

清水の電話の向こうでロドリゲスが話し続けている。


「清水君。どうだね、脱出できそうかね?」


「それが・・・実は今朝長老があの石を持ってどこかに行ってしまった様なのです!」


「な、ナンダトゥ!亜奴さては・・・ようし、こうしてはおれぬ、今からワシがそこへ向かう!」


そういうとロドリゲス公爵の電話が切れる。


清水たちは事の成り行きを把握できぬまま、顔を見合わせる。




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Scene.16 困ったときに神来たる



「トントン」細木が乗っているトラックの扉から音がする。

傭兵の一人がその扉の外を伺う。

すると、青ざめた血相に変わる。


「た、大変です!ミ、ミュウラが・・・」


それを聞くや細木がそこへ近づく。

窓越しミュウラが立っている。

流石に細木もこれには仰天する。


「やぁ!夕べはお疲れさん。」


「あ、あんたね、よりにもよって何しに来たのよ!」


「ああ、これは失礼。いえね、ちょっとした取引をしたいのだが。」


「取引ですって?一体どの面下げて此処までやってきたというのよ!」


「だから~、アンタにも悪いハナシではないと思うんじゃがね。」


「なんですって?」


「ちょっと二人きりで話せないかね?」


訳もわからないままの細木は、ミュウラのその行動に怪訝な面持ちのままトラックから降り立つ。そしてミュウラに促されながら草原の先へと二人は歩き始める。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



ようやくトラックが遠くに見えるほどの距離まで歩きついた二人。

するとミュウラが向き直り、細木に向かって話し始める。


「夕べはすまんかった。こんなこと言えた義理じゃないんだがね。実のところ私も長老としてここでの生活が長くて辟易としていたところなんだ。そんな折にひょんなことでかつての「ドラゴンズ・ソウル」に出会ったわけなのだが。

そして以前同様に古来から伝わる呪文によって私は原石を操ることになった次第だ。咄嗟のことであったが、あなたがこの原石を欲しい理由を聞くこともなくね。」


細木は何やらおかしな話をする長老に耳を傾けたまま突っ立っている。


「で、何しにきたのさ。夕べは散々な目に合わせて置いて、どういうこと?」


「だから~、わしと一緒に心中しないか?ほれ、此処にあるぞよ!」


するとミュウラは傍らにぶら下げていたカゴの中から夕べの原石を取り出す。

これには流石の細木も口をポッカリとあけたまま立ち尽くす。


「ほれ、これこれ。お前さんの欲しい石だ。」


まるでエサを欲しがる犬の前で挑発するような態度のミュウラ。

細木も思わずヨダレが滴り流れんばかりに肥え弛んだ顔の大口を開けている。


「ほほれ、ほれほれ~」


すると、何ということか、こともあろうにミュウラは原石をあたかもお手玉のように放り投げ始める。これには細木も驚愕する。


「ほいっ、あそれ、あらよっ!」


たまらず細木はミュウラに飛び掛る。

細木の肥満な巨体に襲い掛かられそうになるや、ミュウラは慌てて身をひるがえす。

そんなこんなが10分ほど無意味に続く。

息を切らせた細木は、そして草原に仰向けに突っ伏した。


「ほれ、ほしかったんじゃないんかい?意気地が無いぞ!」


「あんたねぇ~一体どういうつもりよっ」


「では、本題に入ろう。私は永い間この村の住民のために身を粉にして働き続けたもんさ。ようやく豊かな暮らしにはなったのじゃが、時としてそんな生活がちっぽけに思えてねぇ。そこに清水とンデゲが現れたのじゃ。それも、あの「ドラゴンズ・ソウル」を携えて!」


ミュウラはそう言うと遠くを見るような眼で思いをめぐらす。


「それがどうしたって言うのよ。私に何の関係が?」


「まぁ、関係など無かろう。じゃが、君は何故この石を欲しがるのじゃ?」


「それは・・・盗賊団から雇われているからよ。団長がその石を欲しがっているから、その石を魔術によって取り戻すのが私の役目よ。ちゃあんとお給金も貰ってるんだから!」


「それはそれは。では、その団長とやらは何故これが欲しいのだい?」


「それは・・・多分、その石の価値が法外な金額で取引されていることに眼が眩んだのね。そして魔力が必要なのよ、その石の。」


「だが、この石の魔力は血筋のものしか操れん筈さ。」


「そんなこと知らないわよ。私は唯単に給料なりの仕事をしているだけ。あ、そういえば団長の奴、その石で世界を牛耳るとか言ってたっけ。」


「なんじゃと?さては魔力を悪用しようというわけじゃな?それについては君はどう思う?」


「そんなこと知らないわよ。いいからその石をちょうだいな!」


「いえいえ、そこでだ。君と取引がしたい・・・・


話はこうだ。今のところこの原石から魔力を引き出すことが可能なのはこのワシのみじゃ。というのも血筋と、呪文を熟知している人間であるわけで。

盗賊団お手に渡れば悪い使い方をするに決まっているだろう。


そこで細木さん。私と君がグルになって、盗賊団から金品を毟り取る、っていうのはどうだね?」


細木は考えもしなかったミュウラのその言葉に呆然となる。

すると、肩にかけていたハンドバックからスマホを取り出すとどこかへ電話し始める。


「あ、お父ちゃん?あのね、ここにミュウラが居てね、何か変な事言っているのよ・・・・そうなの、それでね、私とグルになって盗賊団を騙すらしいのよ・・・え、はい。」



電話を切った細木は何か強い後ろ盾を持ったような勇ましい態度に変わる。


「あのね、アンタが何考えてるかわからないけど、ダメだって。」


「何がじゃ?」


「だから、アンタとグルになること。お父ちゃんがダメだって!」


「なんぞやわぁ~それは?するって~と、お前さんは何でもお父ちゃんとやらの言うなりか?」


「そうよ、何か悪い?」


「お前はバカか。良く考えろ!」


「なんですって?アナタこそどうかしているのよ!だいたいあんたとグルになったところで私に何のメリットがあるというのよ?それよりも私のお父ちゃんのこと、アナタ侮辱する気?そうなったら容赦しないよ!」


そういうや、先ほどまで寝転んでいた地面から重たい図体を跳ね上がらせるや、ミュウラ目掛けて飛び蹴りを食らわす。

ミュウラは咄嗟の細木の豹変にひるむが、寸でにかわす。


「わかったよ、お前は身体の割りに動きがいいなぁ。ワシも年じゃ。持久戦には向かん。別に侮辱などしとらんよ。もしワシらが協力の下、盗賊団をうまく手中に収めたとしたらどうだい?君が悪の親玉になれるんだぞ!悪い話じゃないだろ、ナッ!」


「それもそうね。」


「その暁には宝石業界も牛耳って、君が専売特許になるということも考えられる。そう、君が世界の宝石の値段を決める立場になるのさ!」


この話に流石に眼から鱗の様子の細木。

またまたスマホを取り出す。


「あ、お父ちゃん?ミュウラの話、悪くないみたい。だって私が宝石業界を牛耳ることになるっていうのよ。え、うん。わかった」


今度はスマホを切るや、先ほどと打って変わって笑みを浮かべる細木。

流石のミュウラもこれには全身に鳥肌が立つ。


「あのね、良いって!」


そして細木は電話の向こうのお父ちゃんに言われるがままミュウラと協定を組むこととなった。何も疑うこともせずに・・・・




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Scene.17 ロドリゲス参上



「清水君、そろそろヘリは君の居るミュウラの集落に差し掛かる。着陸に備えてくれ。」


「早かったですね、公爵。わかりました準備するよう村人に連絡します。」


そしてヘリコプターが集落に無事到着となった。

その夜、例の如くキャンプファイヤーを囲んでの到着祝いの宴が執り行われた。

そこにミュウラの姿は無かった。


「それにしてもミュウラの奴、一体どういうつもりなのか?」


「はい、私にも判りません。しかし同時に忽然とあの原石も消え去ってしまいまして。」


「それは、まずいな・・・というのも、僕らが若かりし頃の、そう、今日のような宴の席での話だったから本気にしてはいなかったのだが・・・「ドラゴンズ・ソウル」の魔力で何でも叶うとしたら、君なら何をしたいかい?と、ミュウラに尋ねたところ、彼は「世界制覇」とマジな目つきで語っていたんだ。例え話だし二人とも大分酒が入っていたから間に受けてなどいなかったのだが・・・経つ年月によって人というのは理不尽にも変わってゆくもの。もしも今の年老いた彼にとって最期の野望とも言うべきものがあるとしたら、決して今の状況は冗談などではないのかもしれないのだが・・・」


清水とンデゲはロドリゲスの強い語気に固唾を呑む。


「昔からアイツには熱い野望のようなものがあったのは確かだ。であるからあの原石も発見するまでに至ったのであろう。そして再びあの原石を手にしたことによって、彼の野望が再燃したに違いなかろう。そう、こうしては居れないな。明日の朝からミュウラの捜索に取り掛かろう。」


そういうとロドリゲスは差し出された杯を一気に飲み干した。






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~ To Be Continued! ~



















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