第5章
~幻の秘宝を魔術で射止めるべく黒魔法使いはダンジョンで今日もインチキ宝石商と果てなきバトルを繰り広げ~第五章
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Scene.13 不安の行方
夕べは一同、話しこんだせいでまだ眠気から覚めないでいる。
出された朝食も虚ろな面持ちで飲み込んでいる。
清水は長老ミュウラの夕べの昔話を辿ってみる。
旧友ロドリゲスとの採掘、そして発見した「ドラゴンズ・ソウル」
そして秘めたる未知のパワーと、それを操れる血筋。
果たして操るのは誰なのか。そして来るべき戦いとは・・・
清水にえもいわれぬ不安だけが残る。
「おはよう、シミズ。いい天気だね!」
すっかり元気を取り戻したンデゲがやってきた。
夕べの眠気も見せず、屈託の無い笑顔で。
清水の不安とは裏腹に、朝食を搔きこむ。
「ンデゲ、夕べのミュウラの話からすると、あの原石を操れるのは君かもしれない。来たるべく戦いの時にはお前の力が必要になるだろう。」
清水の言葉に頷くだけのンデゲ。
ただモクモクと食べている。
あ~あ、一体こいつは宛てになるのやら・・・
と、そこへ一人の若者が息を切らせながら走り寄ってきた。
そしてミュウラの傍らにたどり着くと、慌てた様子で話し始める。
「・・・長老、大変です!今朝私が高台まで散歩に出かけたのですが、彼方に車列のような影が近づいてくるのに気がつきました。もっとも私は視力が人一倍良いのですが、まだはっきりとはしない距離に居るようでしたが、どうやら武装したトラックのようでして・・・そしてこちらへ近づいているようなのです!」
それを聞くや長老は眼を瞑り、そして思案し始める。
一同は長老の様子を黙って見つめる・・・
暫くして長老が呟く。
「んん・・・何やら良からぬ事態が迫っているやも知れぬ。気のせいであれば良いのだが・・・お前達、一応用心のため武器を準備しろ。女子供は家の中で待機するように伝えなさい。」
ミュウラのその只ならぬ形相に一同の不安が高まる。
まさか!清水の焦りがンデゲにも伝播する。
こんなに早く戦いの火蓋が切られようとは・・・いや、まだわからない。早まるな!清水は自分に言い聞かせるような、祈るような気持ちに変わってゆく。
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その頃細木はスマホで会話している最中であった。
「あ、お父ちゃん?何かね、うちの傭兵の一人がシミズの居場所が判るみたいで・・・うん、そうなの。それでそっちに向かっているところ・・・え、ダメ?何でよ。だってもうすぐ取り返せるかもしれないのに・・・いいえ、心配は要りません!私の力を馬鹿にしないで!だから~大丈夫よ!心配要らないから・・・」
話し終わると再び傭兵の言う場所の方角の彼方を見渡す。
ただ草原が広がっている。その先に小高い丘が見えてくる。
「細木さん!そう、あの丘の向こうに部落があるんだ。昨日の細木さんの水晶球から映し出された景色の場所だ。多分・・・・」
傭兵は近づくにつれ、何故か自信なさそうな態度になっている。
「何よ!多分って?どういうこと?」
「ですから、私の記憶は大分昔の記憶でありますから・・・すいません。」
「このごにおよんで何を恐れているのよ!まったくお父ちゃんにしても、お前たちまで!いいから私がちゃんと型をつけてやるから、待ってなさい、シミズ!」
トラックの車列は、尚も平原を南下してゆく。
丘に近づくにつれ、先ほどまでの晴天から徐々に雲行きがあやしさを増していった。
来たるべくバトルに一同は身を震わせる・・・
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「武器は揃ったか?」
「ええ、長老・・・ですが何せ何年も使っていなかったのでまともに使えるかどうか。俺達も訓練してこなかったのでまともに動けるかどうか・・・」
「ハッハハハ、とりあえず格好だけ整いておけ。何たってこっちには強い見方が居るからな。なっ、ンデゲ君!」
急に振られたンデゲがビクッとする。
それを見た清水がフォローするように遮る。
「ですが、長老。ンデゲはまだ原石の使い方は何も知らない筈ですし・・・」
「ああ、大丈夫。かの言い伝えではそういうことになっているから。何れ来る戦いのときにこの原石のパワーを血筋のある天使が操って治める筈じゃ。それがンデゲじゃ。」
「またぁ、決め付けるのは早いですよ!」
ンデゲはポカンと口を開けたまま放心状態となる。
無理も無い。戦った経験などゼロに等しいのだから・・・
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Scene.14 暗黒へのドア
その頃、細木たち一行は既に丘のふもとまで到着していた。
ここで一時ビバークし、地の利のわかる傭兵に偵察を指示する。
その傭兵は不安な足取りで部落のあるほうへと歩き出す。
ほかの者は高台の上で様子を伺うために待機した。
細木は再び水晶球を取り出すと呪文を唱え始める・・・
すると閃光が走り、部落の様子が映し出される。
ンデゲの脳波により映し出された景色は、ぼんやりとしたものだった。
無理も無い。ンデゲは尚も放心状態の中に居るから。
「えいっ、おかしいわね、ぼやけた景色しか浮かばないわ!一体どうなってるの?」
投げつけるように憤慨する細木。
雲行きは加速度的に怪しさを増してゆく。やがて雨が降り出した。
高台から傭兵達ののぞく双眼鏡の先に、ずぶ濡れのまま歩いてゆく先ほどの傭兵が見える。
頼りない足取りに一同は見守ることしか出来なかった。
夕方過ぎにようやく偵察を終えた傭兵は無事帰還する。
細木は興味しんしんで尋ねる。
「で、どうだった?」
「ええ、部落の家々は昔見たままあまり変わった様子はありません。」
「いや、そうじゃなくて、住民達は?」
「それが・・・変ですね、人っ子一人表には誰も見当たらないのです。」
「ナニィ、それは・・・バレタカ?」
「ということは?」
「決まってるじゃない、私達が来たのに気付いたのよ!」
「ええ、そんなぁ・・・」
「えい、こうなったら奇襲するしかなさそうね!その前にっと、アタイが見てきてやるからここで援護の準備してなさい!」
細木はそう告げるとそそくさと部落のほうへ歩き出していった。
一同は勇気あるオバサンに、ただ呆気にとられていた。
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ンデゲはようやく自分の立場を理解したかのように我に帰った。
そして小走りに原石を取りに向かった。
清水はただその後姿を見守っていた。
長老ミュウラは何やらウンウンとうなずいている。
その横顔は、どうやら戦い慣れしているようにも伺える。
少しばかり清水に安堵感が訪れる。
ようやく部落にも雨が降り出した。
ミュウラと清水は部落の真ん中に一番近い家の窓から辺りを伺う。
「ところでミュウラ、戦法は?」
「そうだな、先ず話し合いかな。」
「え、マジで?」
「ああ、とりあえずワシが話してくる。」
「は、はぁ。」
「そこでじゃ、話の折り合いがつかなくなったところでンデゲが登場し、そして皆に援護してもらいながら戦う。」
「あのう、先ほど武器と申しておりましたが、どのような?」
「ああ、俺達は昔から基本的に弓と矢じゃ。ま、ワシは話術じゃがな!」
「え、そんだけ? それと~話術ですか・・・ならば私の得意分野でもありますが。」
「ほう、じゃあ、相手方をご存知なら試しに君から交渉してみてくれ。」
「ん?今なんと申されましたか?」
「じゃ清水君、後は頼んだぞっ!」
長老ミュウラはそう言い残すと、まるで逃げるように雨の中へと駆け出していった。
ぽつんと残された清水。ンデゲもまだ帰ってきていない。
心細さに思わず泣きそうになる。
それにしても無責任なミュウラの奴。
結局何故かオレが矢面に立つなんて・・・
と、背後の入り口のドアがギィッと音を立てる。
開かれたドアの前に一人の人影が。ようやくンデゲが帰ってきたな。
しかし、何だか様子がオカシイ。
その人影はざんざん降りだというのに中々部屋へと入ろうとしないまま突っ立て居る。
薄暗いこちらからは何となくだが、太っちょの小ぶりな姿が見えている。
ンデゲではないようだ・・・
「あ~ら、しばらくっ!待たせたわね?シミズちゃん!」
その奇妙な人影からおぞましい声の、そして何故か聞き覚えのある声がする!
やや!そいつはなんと細木に違いなかった!
思いもよらぬ訪問者にギョッとする・・・
「お、お前、どうして此処がわかったんだ!」
「だから~私には全てお見通しよ!さ、礼のものを渡してもらおうかしら。」
「ナニィ、そんなものは在りませぬ!」
「あらら、そんなこと言っちゃって。そういえば相方はどちらへ?ンデゲが持っているのかしら?」
「知りませぬ。」
「何よ!こっちが大人しく出てればいい気になって。早いとこあの石を出しなさい!」
「いいえ、渡せません。」
「しゃあ使用が無いわね。力ずくでいくしかなさそうね。」
細木はそう言うや、懐に携えていた水晶球を地面に置くとひざまずき、手をかざしながら何やら呪文を唱え始める。
そう、いつか聞き覚えのあるあのおぞましい唸るような低い声。身の毛もよだつようなその雄たけびに清水は動揺する。
するとどうしたことでしょう、水晶球が宙に浮き上がり、閃光を発し始める。
その閃光は輝きを増しまばゆいまでになった。
すると、いきなりこちらに突き刺すように飛んできた!
~そして清水と細木のバトルは始まった!
咄嗟に清水は間一髪でそれをよける。
まるで火の玉だ!
次も、その次も細木は火球をこちらに飛ばす。
交わした火球は部屋の壁に当たると燃え上がった!
煙に巻かれながらも清水はそれをかわし続ける。
と、ようやくンデゲが参上した。
「細木!お前の欲しいものはこれかな?」
そういうと、ンデゲは原石を手に走り出す。
細木は水晶球を取り上げると、後を追う。
清水は思わず始まったバトルに動揺するも、細木を追う。
大雨となった部落の中心に3人は対峙する。
「さぁさ、それを渡しなさい。早く!」
「そうはいかないね!」
「じゃ、目に物見せてやるっ!」
細木はそういうと、先ほど清水に浴びせかけたようにおどろおどろしい声で呪文を叫び始める。そして水晶球が浮き立つと火球を二人に浴びせかけ始める。
交わしてはいるが手の出せないままの二人。
そこへ先ほど逃げ出したミュウラが現れた。
「おやおやこれはこれは、さては交渉決裂かな?オバサン一人に手こずってるのかね?」
「それが、中々手ごわいので・・・」
「ンデゲ、何をしとる。お前のその原石に呪文を唱えよ!」
「しかし、そう言われましても何のことやら・・・」
「おお、言い忘れとったワイ、よし俺に渡せ!」
ミュウラがそう言うと、ンデゲが「ドラゴンズ・ソウル」を投げつける。
それをキャッチするや、細木にも負けず劣らずのおどろおどろしい雄たけびを上げてミュウラは呪文を唱え始める・・・すると・・・
先ほどまでくすんでいたこの原石が宙に浮くやグルグルと回転運動を始めた。
そして高速に回転した頃、えもいわれぬ青い光に包まれたかと思うや、四方八方に閃光を発し始めた!そこに居る一同は眼も眩まんばかりとなる。そして尚もミュウラの呪文が雄たけびを増すと、今度は矢のように細木目掛けて閃光からレーザービームが発射された!
細木も矢もたまらない様子で火球を発射して応戦する。
しかし威力は均衡していたのだが、「ドラゴンズ・ソウル」から更にレーザービームの強さが強大化すると、今度は何やら青い竜のような光の塊が細木目掛けて襲い掛かった!
これには細木も溜まらずに引き下がるや、応戦しながらも遠巻きになった。
そして・・・細木は退散していった。
清水とンデゲはこれまでの人生で見たことの無い光景に呆気に取られて立ちすくむばかり。
ミュウラの呪文が静まると、ようやく輝きを弱めながら「ドラゴンズ・ソウル」は手の平に収まった。
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びしょ濡れで自分の陣地に戻った細木は何やらスマホで会話している・・・
「あ、お父ちゃん?何かね、青いの・・・龍よリュウ・・・うん、負けちゃったみたい、シクシク・・・」
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~ To Be Continued! ~