第4章
~幻の秘宝を魔術で射止めるべく黒魔法使いはダンジョンで今日もインチキ宝石商と果てなきバトルを繰り広げ~第四章
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Scene.10 龍の魂に導かれ
細木の興奮は未だ抑えきれないままに、車列は清水たちを追って進んでゆく。
遥か地平線はやがて広々とした草原の大地へと変わっていった。
「細木さん、如何ですか?方角は間違いないですか?」
「ううむ、今考え中なんだから黙っておいでよっ!ほら、ハンドル切り損ねないように用心しなさい!」
暗闇をライトの明かりのみで猛スピードで突進して行く車列。
ともすると野生動物が飛び出してくる危険なルート。
運転手は手に汗握る様子で荒れ果てた道なき道を右へ左へとさばいて行く。
どこまでも続く大地が、やがて訪れる決戦のときへ、そう、今や清水の手の中にある奪われた「ドラゴンズ・ソウル」を求めて細木は焦っていた。
そして細木はスマホを手に取った。
「・・・ああ、お父ちゃん?うん、無事・・・でね、これからどっちに向かったらいいのか判らなくなっちゃって・・・そうなの、清水が持ってるの。え、こっちじゃない?でもね、水晶球がこっちだって・・・え、掏り返られてる?いえ、そんな筈ないわよ・・・え、そっちからも判るの?それで?う、ウッソゥ!!」
細木はスマホを切る。
そして何やら水晶球を取り出すや呪文を唱え始める・・・
「ルゥルル ボンヌゥ フェリプティチ~ アンナタ ハセソキ フォンデゥルブ!」
細木のおぞましい雄叫びが車内に木霊する。
車内の傭兵がびくびくしはじめる。
しかし・・・どうしたことでしょう!それまでンデゲの脳波を読み取った映像を映し出した水晶球の光は一向に輝きださないでいる。まさか・・・
再び細木がスマホを取る。
「あ、お父ちゃん?やっぱりダメだった・・・うん、それで?・・・え、お父ちゃんたら!」
細木はそれまでの興奮とは裏腹にうつむき始める。
そして傭兵に車を停めるよう指示する。
「一体どうしたのですか?」
「ええ、・・・あのね、お父ちゃんのハナシによると・・・掏り返られたの、水晶球を。」
「それで、何故に?」
「うん、お父ちゃんによると、私の身に危険が迫っているから取り上げるようにと指示したらしいの・・・それで持ち去ったみたいなの、ガラス球とすりかえて・・・まったく余計なことするわね・・・でも私、愛されているのね。」
傭兵達がくすくすと笑い始める。
すると細木は先ほどまでの俯いた表情が一変する。
「ああ、そうよ!アタイはおとうちゃんに愛されてるのさ!悪い?」
その時突然、先ほどの水晶球から閃光が走る。
車内の一同が動揺する。
そして細木のスマホが鳴る。
「もしもし!何よお父ちゃん。え、アタイをからかってるの?もう、知らないっ!」
そう言うや細木はスマホを投げつけた。
水晶球のその閃光はンデゲの脳波を辿って、おおよそンデゲが寄宿しているだろう集落の映像を映し出している。
すると傭兵の一人が呟き始める。
「ああ、オレ、この場所知ってる・・・だってオレの育った場所だから・・・」
細木はその言葉を耳にするや、先ほどまでの態度と打って変わってネコナデ声を出す。
「あら、ホント?アナタそうなの・・・じゃあ~案内してくれるぅ~?褒美は弾むわよん。」
おぞましくも気持ちの悪いネコナデ声ともつかぬ細木の雄叫びに一同が嗚咽を憶える。
そんなポンコツ珍道中の中、行き先を得た車列は暗闇の大地を突進して行く。
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Scene.11 ミュウラの遠き回想
その夜はンデゲの無事を祝って、集落では宴が催された。
清水も今夜は大分酔っていた。
ンデゲも次々ともてなされる料理を前に悦楽のときを堪能している。
人心地着いたところで、何やら長老ミュウラが口を開き始める。
「あれは世界大戦も終わりようやく採掘場にも活気が戻りつつある頃、そう、ロドリゲス1世がこの地に到着したのだ。
最初は私達も不信感で警戒したものだったが、宝石に対する熱意には並々ならぬこだわりが見られたため、やがて共に採掘に当たったものだった~~~」
夜も更けてゆく頃、一人、二人と人々が宴を終えてゆく。
キャンプファイヤーの火も大分小さくなった頃、長老と清水とンデゲだけがそこに佇む。
「ロドリゲス・・・彼は気さくな奴でね。酒を飲むといつも宝石への想いを熱心に語ったものさ。原石がやがて輝きを見せることで、ようやく神が宿るとまで言ってたっけ・・・
それからロドリゲスの努力によって採掘場は広がっていった。しかし、価値のある石はなかなかどうして簡単には見つからない日々は続いた。
露天掘りの深さは途方も無く深くなってゆくばかり・・・私も経験を生かして挑んできたのだが、二人の希望は儚い失望へと変わりつつあった。
そんな折、横穴の崩落事故があって、ロドリゲスはそこで瀕死の重傷を負ったことで、これまでの野望は終焉を迎えることになる筈だった・・・
しかし、瀕死ながらもロドリゲスにはある確信があったのだった・・・」
ミュウラの熱心な、まるで子供のように純粋な目をして話は展開されてゆく。
焚き火の日は静かに火の粉を巻き上げながらパチパチと弾けている。
話は続く~
「それから私はロドリゲスの辿った後を引き継いで掘り進めて行ったのさ・・・と、岩盤の表面の様子が、そう、その表面の色合いが徐々に変化し始めたのだ。
私は尚も削り続ける。 と、突然、ガサッと岩盤が崩れ落ちてきたのだ!
さすがにあの時ほど、もうダメだと思ったことは金輪際無いがな・・・
すると、どうしたことだろう、崩れた場所がぽっかり大きな口を開ける。
そこには洞窟が存在していた。そしてランプを洞窟の奥へと照らすや、今まで出会ったことも無い眩い世界がそこには存在していたのであった!
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何と申したら良いものか・・・辺り一面に輝きが満ちており、原石の結晶が石柱を形成し、ランプの光が反射して眩くも美しい世界が何億年もひっそりと、その場所に展開されていたのだった・・・ 」
焚き火の灯は3人の影を外側に伸ばしている。
空には満天の星たちが天の川を梳かしている。
吸い込まれそうな銀河がそこには奥深くまで棚引いている~
ンデゲが呟き始める。
「ええ、私のおじいさんもそれを見て立ち尽くしたそうです。私も幼い頃よくその話を聞かされたものです。ですが、その後「ドラゴンズ・ソウル」が見つかるまでの詳細は全く話してくれませんでしたが・・・」
「それは、無理も無い。それは極秘事項に他ならないから・・・当時から盗賊は狙っていたからな。採掘の場所は常に危険にさらされていた。私達もいまだに何度も命の危険を脅かされ続けているのだよ。もっともそのせいで人を見る眼は育ったのだが。君達は始めて見たときから安全だとわかった。この集落の者にも誰一人としてそのことは私の口からも公言していない。墓場まで持っていくつもりだ。君達にも残念ながら告げることは出来ない。しかし・・・この原石の魔力を操れるものにはきっと全てを理解することが出来るに違いないと思っている!」
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Scene.12 ンデゲの夢物語
夜は深深と銀河を携えてゆく。
温暖な大地も深夜には大分冷え込んでいる。
焚き火のぬくもりに3人は尚も巻かれている。
と、清水がンデゲに質問する。
「そういえばお前、夕べある夢を見たと言ってたよな。
ある日、例の盗賊団と占い師・細木が此処にやってきて、原石を奪おうとして、お前がこの石を操って奴等を追い払うとか・・・」
「ええ、私にもよく判らないのですが、実にリアルな夢でした。あの細木の形相もそりゃぁゾッとする目つきで私を睨むのです・・・あまりの恐怖で飛び起きた次第で・・・」
「しかし何でお前は魔法を操ることが可能なのだろうか?不思議だ。」
焚き火をくべていた長老ミュウラが清水に向き直ると、口を開く。
「それはな、「血」だ。
そう、私達部族のみその血筋があるようだ。部族に古くから伝わる言い伝えなのだが、
「その者太古から途絶えぬ血筋のもと やがて来る戦の果てに 大地から授かりし紅色の魔石を手に取りし 神より与えられし使いとなって降臨する そして清く平穏に制圧した暁に魔石は意思を持って姿を隠すなり」と。
ようは、魔法の石を持った天使が何れ来る戦から私達部族を守って下さる、という意味のようなのだ。過去にもそのような場面が展開されたようだが、その後その石の存在は明らかになってはいない。という話だ。」
清水とンデゲはミュウラの話に息を呑む。
その意味深な言葉に自分たちが関係していることに畏怖の念がこみ上げる。
そして、やがて来る戦いに立ち会うことになることに動揺が隠せないでいる。
「ま、その時は私も手伝うから心配はいらんよ。ここにも腕利きの若者がたくさん居るし、武器もそれなりに用意してあるから。」
長老は慰めにもならない言葉で二人をなだめる。
しかしこの古代の生活のような集落に最新鋭の兵器があるとも思えない。
尚も二人の恐怖は高まるばかり。
嫌な予感が振り切れないままに夜は更けてゆく・・・
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~ To Be Continued! ~