第3章
盗賊団のアジトを脱出した宝石商・清水とンデゲ。無事逃げ切ることは出来るのであろうか。そして占い師・細木の呪縛から逃れることは可能であろうか---タンザニアを舞台に希少石「ドラゴンズ・ソウル」を巡るそれぞれの思惑はどちらに傾くのであろうか---乞うご期待!
~幻の秘宝を魔術で射止めるべく黒魔法使いはダンジョンで今日もインチキ宝石商と果てなきバトルを繰り広げ~第三章
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Scene.07 ドドマからの逃避行
首都ドドマの空港に向かう二人。
どうやら盗賊団の追っ手を巻くことに成功した二人は先へと急ぐ。
ジープは尚も速度を上げてゆく。
街路樹の連なった市外を抜けると、やがて広々した空港の景色が目に飛び込んでくる。
ああ、なんとか無事にここまでたどり着けたか・・・
偽者と偽り細木の手から奪ったこの「ドラゴンズ・ソウル」の原石。
これにどんな魔力が秘められているのか知る由もなく。
パイパーチェロキーは空港の真ん中に準備されていた。
メインテナンスを追え清水たちを待ちわびている様子。
かれこれ1時間ばかり走ったであろうジープは小型機の側へと向かう。
「嗚呼ご無事で。お待ちしておりました、ミスター・シミズ。」
係員が小型機のハッチを開け、ジープからザックや荷物を運び込む。
もちろん大事な原石の入った鞄は清水が携える。
ンデゲはコックピットに乗り込み計器をチェックし始める。
そう、ンデゲは敏腕パイロットでもあった。
既にパイパーチェロキーのエンジンはアイドリング状態にある。
「さぁ行きましょう、清水さん!」
ンデゲがシミズの搭乗を促す。
言われるまま従う清水。
係員がハッチを閉めるとンデゲは操縦桿を操る。
徐々にスロットルの回転を上げてゆく。
「いざ、出発!」
ンデゲの一声で身の引き締まる想いのシミズが座席に身を沈める。
まだ気は抜けないな、無事にロドリゲス公爵のもとに戻るまでは。
清水は兜の緒を締めるように自分を戒める。
期待が滑走路を走り始め、ようやく飛行に必要な速度域へと達し始める。
エンジン音が唸りを高めたその頃、機体がふわりとノーズを上昇させた。
青空の中へと歩みだすや、先ほどまでの不安は取り除かれてゆく・・・
窓外の景色がドドマの市街を小さくして行く。
盗賊団から無事脱出することができた実感がこみ上げる。
さあ、あとは無事を祈るのみ。
小さな機体はダル・エス・サラーム国際空港へと進路を向けてゆく。
眼下にはジープで辿った広陵とした大地が宛ても無く広がっている。
ンデゲの操縦をよそに、清水は眠気を拭えずにいる。
そして・・・安堵からどっと疲れが押し寄せた清水は眠りに着いた―――
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Scene.08 込み上がる怨念
細木はどっぷりとソファに深々と身を沈めている。
なにやら感慨深げに虚ろな目で思案している様子を、さぞ恐ろしげにガードマン達は見守っている。
「う~む。」
細木が込上げるように唸り声を発する。
まるで獲物と対峙している女ヒョウの如く―――
その響きがガードマンたちを震え上がらせる。
「ん、そうよねぇ・・・」
何やら思案に暮れていた細木が覚醒されたようにギラリと目を輝かせる。
そしてテーブルのスマホを手にとるとスクロールする。
「・・・あ、お父ちゃん?」
その一声にガードマン達は想定外な展開にポカンとたたずむ。
「うん、あたし。あのね、実は相談なんだけどぅ・・・」
細木の話は30分に及んだ。
黙ったままのガードマン達は話の一部始終に聞き耳を立てている。
ようやく話がついた様子で、細木がスマホを元の場所に戻す。
「さぁて、と。」
そう言うと、細木は側にある水晶球を目の前に鎮座させる。
「ルゥルル ボンヌゥ フェリプティチ~ アンナタ ハセソキ フォンデゥルブ!」
細木が呪文を唱えるや、辺り一面がサッと暗闇に変わり、例の如く水晶球が閃光を放つ。
すると壁に閃光は投影されて行くや、ぼんやりと景色を浮かべて行く。
次の瞬間、上空からの景色が浮かび上がった!
「なるほど。あ奴らは無事にドドマを脱出したようね・・・だがね・・・」
再び思案に暮れるようにソファに身体を沈みこませる細木。
そして唸るように呟き始める。
「奴等、このまま無事に帰れるとでも思ってるのかしら?この私が誰だと思っているのよ。馬鹿にしちゃってさ!」
そう言うや再び水晶球に向かうと、今度は唸るような小声で呪文を羅列していった。
どのくらいの時間が流れたであろう、ようやく呪文を終えた細木は戸外へと出て行く。
暫くして再び戻るや、今度はガードマンたちに言い放った。
「さぁ、私達も出発よ!長期戦になるから早く荷物を準備してっ!」
命令に従うやガードマン達はそそくさと戸外へと駆け出す。
暫くしてガードマンの一人が細木に準備完了と告げる。
細木は傍らに水晶球を抱えると彼に導かれる。
屋外には清水たちを誘導してきたトラックの車列が待っていた。
細木は乗り込むと指令役に行き先を告げる。
やがて車列はアジトを後に走り出す。
「待ってなさいよ、清水!赦しゃあしないからね!」
細木は怒鳴るように興奮を抑えきれないでいた。
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Scene.09 夜間飛行
ンデゲは傍らで眠る清水に大声を浴びせた!
「清水さん、大変です!」
「あ、ああ?どうしたそんな大声で・・・」
「あのう・・・何かがおかしいのですが・・・」
「何かって、何だ?」
「計器盤の燃料ゲージが既に空になっていて、このままでは・・・」
「燃料?で?」
「誠に申し訳にくいのですが・・・このままでは墜落です!」
「なにぃっ!」
「ええと、何とかしてみますが・・・」
「何とかって・・・どうする気だ!」
「はぁ、とりあえずこの辺で着陸態勢に入ります。」
「着陸?真っ暗で何も見えんぞ!」
「しかし燃料が・・・あっ!」
ンデゲが同様の声を上げるや、次の瞬間、「プスプスッ」という音とともにエンジンが止まる。
ンデゲが必死の様相で操縦桿を操る。
機体は滑空の体のまま、徐々に高度を下げて行く。
窓外は霧の中の様子。視界は既に失われていた。
清水が青ざめると黙り込んだ。
エンジン音の無い機体には風切り音しか聞こえないでいる。
沈黙の中、機体はゆらゆらと不安定に漂い始める。
前傾姿勢で高度を急速に落としてゆく。
必死で安定を保とうとンデゲは声も出ない様子で悪戦苦闘する。
視界は尚も失われたままでいる。
そして・・・大きな衝撃が機体を襲うと同時に記憶が失われていった―――
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「あ、目覚めたようね。よかった無事で・・・」
清水は虚ろに浮かんだ目の前の一人の女性の声に起こされる。
同時に体中に痛みが走る。
ああ、やはり墜落したようだ。しかし・・・
ふと、ンデゲの様子が気に掛かるも、清水は深刻な痛みに耐え切れず、再び記憶を失ってゆく―――
明くる朝であろうか、寝床の隙間から差し込む光で目を覚ます。
すると、夕べの女性が目の前にいた。
心配な面持ちでこちらを覗き込む。
「大丈夫そうね。」
「あ、ああ。ンデゲは?」
「お連れさんですか?まだ目が覚めないけれど大丈夫でしょう。別の場所で休んでいますよ。」
「そうか・・・」
再び思い出すように痛みが体中に押し寄せる。
夕べよりは幾らか落ち着いてきたようではあるが。
ンデゲも無事か。とりあえず助かったわけだな。
清水は静かに眼を瞑る。
「おお、そうか。どれどれ・・・」
その声に再び目を開けてみると、今度は老人が覗き込む。
先ほどの女性より真っ黒に日焼けしたお爺さん。
「大変だったねぇ・・・何よりご無事なのが不幸中の幸いじゃな。」
「ええ、助けていただきありがとう御座います。私は清水と申します。」
「シミズか。私はこの村の長老、ミュウラと申す。暫くここで休んで行きたまえ。」
ミュウラはそういい残すと、杖を突いて戸外へそろそろと出て行った。
清水は居室の様子を伺う。
古ぼけたその場所はどうやら円形の空間からするとパオにも似た住居のようだった。
すると彼らは原住民なのであろうか・・・
まだ事の成り行きを掌握しきれぬままの清水は痛みに耐えるのが精一杯であった。
「お茶でも沸かしてきます。」
そう告げると、彼女は先ほどの長老が出て行った入り口を後にする。
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数日後、介護してもらったお陰でだいぶ回復した清水。
一人で立ち上がれるまでに至った。
ンデゲは相変わらず眠りに着いたままだと言う。
ンデゲの身が気がかりになる。
「あのう、ンデゲに会いたいのだが。」
「そうですね・・・では案内しましょう。」
ようやくパオを初めて出る清水。
外の光に目がつぶれそうな気さえする。
ここはやはり部族の集落のようだ。
子供達が駆け回って戯れている。
朝飯の支度の煙が方々で細く棚引く。
彼方には畑が見える。
至って平穏な暮らしが展開されている。
彼女の手助けでよろよろしながら歩みを進める。
少し離れたパオにたどり着く。
中へと案内される。
暗い屋内の片隅の寝床にンデゲとおぼしき青年が横たわっている。
特別怪我をしている様子の無いンデゲがそこにいた。
まだ目覚めてはいない様子。
とりあえず五体満足なのが何よりの救いではある。
傍によって見守る清水。
暫くして長老がやってくる。
「ようやく歩けるようになったのだね。さあさ朝飯を一緒に食べよう。」
長老ミュウラに案内されるまま、彼女の手助けで屋内を後にする。
彼女の名は「サリュウ」と告げられる。
サリュウが料理を並べてゆく。
見慣れぬ朝ごはんに清水は戸惑う。
勧められるまま食事を始める。
思ったよりも美味しく戴くことができた。
数日振りにまともな食事を終えた清水に、ようやく気力が湧き始める。
ふと、「ドラゴンズ・ソウル」のことが気に掛かる。
と、まるで察したようにミュウラが呟き始める。
「シミズ、あの石、どこで手に入れたんだい?」
「と申しますと?」
「墜落した機体の中にあった荷物の中から探し出したのだが。」
「はぁ、ご存知でしたか。」
「ああ。あの石を見たのは何十年ぶりかなぁ・・・」
清水は長老ミュウラの言葉に度肝を抜かれる。
「私の記憶が確かならば、あの原石はある人物と一緒に採掘したものだ。」
「ある人物ですか?もしかして・・・」
「君もご存知であろう。ロドリゲス1世だよ。」
「と、いうと・・・アナタは?」
「ああ、あの石は私が見つけたものじゃった。そしてロドリゲスと固い約束の下、あの石を預けたのじゃよ。いつか来るそのときに備えて安全な場所に避難する意味でね。」
「いつか来るその時?」
「君もご存知だろう。あの石には不思議な魔力があってね。それを使えるのは私達部族の血統だけなのだ。」
「魔力・・・あることは聞いてはいましたが、それはどのようなものですか?」
「それは今に判るよ。」
そう告げるとミュウラはサリュウの耳元に何かを呟くとその場を後にした。
清水は不思議なその意味を理解することなく思案する。
そう、「いつか来るその時」とは一体?
再びサリュウの手助けで元の寝床へと戻される。
まだ清水の体は回復しきれていない。
するとサリュウが部屋の隅から鞄を持ってくる。そう、原石の入った。
「シミズ、これはね、お爺さんから言われているので内緒なのだけど。」
「えっ、内緒?」
「そのうち判るからって。だけどね、シミズなら信用してもいいかなと思って。私の部族の中では古くからの言い伝えがあって、魔法の石が天使を連れてくると。」
「天使?」
「天使はね、何れ来る戦から私達部族を守って下さるって。そして魔法の石の魔力を最大限に発揮することが出来るそうなの。まるで魔法使いよね!」
「魔法使い?オレが?」
「それはどうかしらね。だけど私のお爺さん、ミュウラが言うには、魔法の石が天使を連れて来る為にここに飛行機を墜落させたってね。そして二人とも奇跡的に無事だったし。」
「そうかなぁ・・・ほら、ンデゲはまだあんな状態だし・・・」
「ンデゲさんだけど、先ほど目覚めたそうよ。無事にね。」
「おお、そうだったのか!」
それを聞くといても立っても居られない清水が戸外へと向かっていった。
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「よかったな、ンデゲ。」
「ああ、清水さんこそ無事で何よりです。」
「それで、体はどうなんだい?どこか痛むか?」
「それが不思議となんとも無い。それより・・・」
「ん?」
「それが・・・何故か不思議な夢を見ていたんですよ。気を失っている間。」
「不思議な夢?」
「はい。非常にリアルな夢で、まるで現実のように体験でもしているように・・・」
「というと?」
「ある日、例の盗賊団と共にあの占い師・細木が此処にやってきて、原石を奪おうとするんです。すると私がこの石を操って奴等を追い払うことに成功するのです。」
「ンデゲ・・・まさかお前が!」
「よく判らないのですが、魔法が使えるようになるみたいです。僕が。」
「ということは、お前が天使なのか?」
清水がそう言い終るや否や、気付くと傍らにミュウラが杖を突いて立っていた。
「そうか、そういうことだったのか。ンデゲや。実はな、ロドリゲス1世がこの石を持ち帰る際、私達部族の一員をお供に付けたんだ。それがンデゲのお爺さんなのだよ。な、ンデゲや。お前の一家は代々ロドリゲス家の従事としていたのだろう?」
「ええ、確かにウチは代々ロドリゲス様の従事を司ってまいりました。」
「ほら、間違いない。そもそもこの石の魔力を引き出せるのは我が民族の血統だけなのだから。残念ながらシミズ君では無いのだよ。そしてンデゲ君がいずれ来る災難のときに私達民族を守ってくれる天使ということになるだろう!その時はヨロシク!」
「と、申されましても・・・使い方とか何も聞かされていません。」
「心配ご無用。その日がくればわかるはずだよ。何よりこの石がこの地に舞い降りるように仕向けたのであるから!」
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~ To Be Continued! ~




