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第2章

~幻の秘宝を魔術で射止めるべく黒魔法使いはダンジョンで今日もインチキ宝石商と果てなきバトルを繰り広げ~第二章

作: 大丈生夫 (ダイジョウイクオ)




-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-


Scene.05 アジト



広陵とした大地は宛ても無く広がっている。

ンデゲが隣で眠気を押さえ込みながら運転を続けている。

「ドラゴンズ・ソウル」を取り返すべく、ジープは突き進んでゆく―――


そろそろ休憩するように告げるとンデゲはジープを停める。


「大分来たな。」


「ええ、丁度休みたかったんですよ。」


「それにしても何にも無いな、この辺りは。」


「コーヒーでも沸かしましょう。」


「ああ。」


ジープのハッチを開けると荷室にあるザックの中からコンロを取り出す。

ンデゲは手際良くインスタントコーヒーを沸かす。


一口すする清水。辺りを見回す。

遠くに立ちはだかっている山脈は遥か遠くに揺らめいている。



すると一点の車であろう影が陽炎の向こうに浮かび上がる。

そして土煙を上げたトラックだと判る。

2台が連なってこちらに近づいて来るのがうかがえる。

そしてトラックの輪郭がはっきり浮かぶ。

荷台には数人の人影。


ジープに近接したそのとき、人影が何かを携えているのが映る。

その先端が黒く照り輝く。銃だ―――


のけぞる二人。恐怖に両手を挙げる。

銃を構えた一人が清水たちのほうへ歩み寄る。



「おまえらは何者だ?」


ンデゲが応答する。


「こちらの日本人バイヤーをある場所へ連れて行くところだ。」


「何のバイヤーだ。」


「宝石商だ。」


「名前は。」


「俺はンデゲ、こちらはシミズ。」



それを聞いたその男は銃を降ろすよう一同に合図を送る。

そしてシミズの元へ近づいてくる。


「ようこそ、シミズ。よし、ここからはトラックについて来い。いいな。」


清水の名前を出すや事情を把握した様子で男はトラックへ向かう。

トラックはもと来た道を戻ってゆく。


「どうする、シミズ?」


「ああ、下手に逃げ出すと銃殺されるな。ここは従おう。」


遠く霞む山脈のほうへとトラックは走り出す。

ジープは追いかけていく。


夕暮れ時に首都ドドマに到着する。


トラック隊は郊外のある邸宅へと入って行く。

清水たちのジープも続く。


「さぁ、降りたまえ。細木がお待ちかねだ。」


どうやら細木の黒魔術によって居場所を突き止められたようだ。

名前までわかるなんてなんとも恐ろしい奴。

そうか、ここが盗賊団のアジトなのか・・・


二人は彼らに誘導されながら邸宅の中へと入って行く。

特に装飾品もない殺風景なロビー。リビングに細木は座っていた。



「清水さん、ね。遥遥遠くまでご苦労様。それにしてもあんたいい男ね。」


そういうと屈託無く笑う細木。話を続ける。


「しっかし参っちゃったわよ、だってあんたの頭ん中透視しようにも、何にも見えないんだもん。それでね、そのお隣さん、ンデゲさんね。その人を透視して貴方がシミズだってわかったんだから。私も歳ね。」


促されてソファに着く二人。

二人のガードマンが銃を構えて細木の背後に立ってこちらをけん制している。

その一人に向かって細木が言い放つ。


「おい、そんなとこ突っ立てないでお茶でも沸かしなさいよ。それと、例のもの持ってきて!」


一人を残しガードマンが戸外へと駆け出す。

暫くして給仕の女性と現れる。一つの箱を持って。


「よろしい。そこへ置きなさい。」


偉そうに細木は命じるとテーブルの上に箱を置く。

なにやら堅牢そうな手持ち金庫のようだ。

清水はそれを察知すると息を呑む。


「折角だからあんた達が死ぬ前に見せてあげましょう。」


そういうと細木は首に吊るしていたキーを金庫の鍵穴に差し込む。


「ほうら御覧なさい。これが例のものよ。」


細木がそういうと金庫の蓋を大事そうに開ける。

そこには黒い握りこぶしほどの大きさの原石が入っていた。


「これが例の「ドラゴンズ・ソウル」よ。こんな石がどうしてそんなに価値があるのやら、全く不思議なものね。」


確かに清水の目にもそんなに価値があるようにはパット見みえない。

ンデゲも黙って見つめている。


「それで、あんた達の目的はなんなの?」


そして本題に入ることになる。

ようやく清水の話術の出番だ。


「私は宝石商です。本当にこの石がどれだけの価値があるか見抜こうと思いましてね。」


「へぇ、まるでそんなに価値がないとでも仰りたいようね。それで?」


「ぜひ鑑定させて戴きたいのですが。」


というとンデゲに目配せする。

ンデゲが抱えている鞄を開ける。

そこには清水が使い慣れた鑑定用具がギッシリ詰まっていた。


「さて、如何いたしましょう。鑑定なさいますか?」


唐突な清水の質問に考え込む細木。


「いやよ、清水さん。そんなこと言っちゃって、どうせ私を騙すおつもりでしょ?」


「と、申しますと?」


「低い金額に見積もって買い戻そうって魂胆なのね。判るわよ、そのくらい。」


「私は国際宝飾機関の中で3本の指に入る鑑定師の一人なのですよ。ある意味私が世界の宝石の価値を決定しているようなもの。ですのでご安心ください。」


細木は清水をの眼をじっと見つめる。

まるで透視でもしようとするように・・・


「ま、いいでしょう。あんた達の冥土の土産とすればお安い御用よ。って言いたいところだけど、ほら、あんた達にすり変えられちゃうかもしれないし、いやよ。」


なかなか納得してくれない細木に戸惑う清水。

ここは一旦引き下がることにする。




-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-


Scene.06 ドラゴンの行方


その夜は盗賊団の監視下の元、外へ出ることは禁止された。

もはや敵陣の囚われの身となった二人。


「どうします、シミズさん?このままでは殺されちゃいますよ。」


「ああ、だが私にも商魂がある。これを諦めるわけには行かないんだよ。」


すると清水のスマホが鳴る。

ロドリゲス公爵からだった。


「シミズ君、一つ言い忘れていたのだが・・・その石にはあるパワーが秘められていて、ある状況下においてそれが発揮されるそうだ。祖父がそのように申していた。私にもそれがどういう意味なのかは判らないのだが。」


不思議な内容を告げると向こうから電話が切られた。

その夜は中々寝付かれずに居た。



~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~


明くる朝二人は部屋の電話のベルに呼び起こされた。


「ちょとあんたたち、何時まで寝てるのよ!さっさとリビングに来なさい。」


大声のそれは細木からの電話。

朝から妙に血圧の高いバアサンだ。

言われるままにリビングへと螺旋階段を下りてゆく。

細木は既に朝食を済ませ、お茶を飲んでいる。

二人のモーニングはテーブルに用意されていた。


「さあ、そこに座って早いとこ食べなさい。そして食べながら聞きなさい。そして銃を持ってるあんた達、もういいから表でラジオ体操でもしてらっしゃい!」


威勢よくガードマンを追い払う細木。

自分も雇われの身だということを既に忘れて盗賊団を牛耳っているように。

扉の鍵をかけると二人に何やらひそひそと話し始める。


「実は夕べ私も色々と考えたんだけど、確かにこの石がそんなに価値があるように思わないのよ。そこでね、黒魔法でこの石を奪い取るまでの経緯を辿って行ったら、どうも納得できないことが映っていて・・・もしかしたら既にこの石、偽者に掏りかえられているかもしれないの。」


清水は意外な展開に食事の手が止まる。

ンデゲは空腹が勝っている様子。

細木の話は続く。


「そうよ、私だって金で雇われた身ですもの。このミッションが無事終了すれば消されてしまうかもしれない・・・そこでね、本当にこの石が本物の「ドラゴンズ・ソウル」であるか、あなたに鑑定していただきたいのよ。今ここで。そして間違いなかったら二人で盗み出しましょうよ、今日から私達、グルね!」


呆れた細木のその話に清水は食事を噴出しそうになる。

細木はジッと清水の様子を伺う。真顔で。


「ええ、宜しいでしょう。但し、あなたとグルになる気は・・・」


「何よ!憎たらしい。いい男の振りしちゃって!いいわよ、私をここから脱出さえしてくれたらそのままお家に帰るから。アタイのお父ちゃんだって心配しているし・・・」


「お、お父ちゃんって、プッ!」


とうとう堪えていた清水が噴出す。

細木はキッと清水をにらむ。

ンデゲは相変わらず食べ続けている・・・




-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-◆-


Scene.07 ドラゴンの行方2



「こ、これは・・・」


そういうと清水は鑑定している手を止め、原石を一旦箱にしまう。

清水の様子を細木が覗き込む。


「で、どうしたのよ。急に箱にしまったりして。」


清水がグラスの水を飲み干すと、息を切らすように細木に向かって小声で呟く。


「これは、偽者です!」


それを聞いた細木の顔面が見る見る青ざめて行く。

と、同時になにやらメラメラとした怒りがこみ上げる。


「やはり、アイツ・・・私を弄んでいるのね!」


そして細木は水晶球を取り出すと、何やら呪文を唱え始める。


「フュンギリ クンギリ キリプリス エフェッタ パッシモ ジュリムッタ!」


すると辺りが暗闇となり、水晶球から閃光がきらめくと壁に何やら映像を映し始める。

どうやら盗賊団のボスが誰かと談合している様子。

細木は水晶球の声でも聞くような仕草で耳を傾ける。


「そうね、どうやら盗賊団と国絡みの幹部とが密約を交わしているようね。ということは、どっちかが本当の「ドラゴンズ・ソウル」を持ってるのね。」


細木の話に聞き入る二人。


「私にも意地ってものがある。幾らなんでも偽者を掴ませといて私達を弄んでいることが赦せないよ。ちょっと調べものしてくるわ!」


そう告げると細木は部屋を出る。


「いまだ!」


ンデゲに目配せすると清水は置きっぱなしの原石を掴み鞄の中へ放り込んだ。

当惑するンデゲを連れ、脱出を試みる。


何とかジープに辿りつくと、辺りの様子を伺う。

まだ僕らの脱出に気付いていない様子。

ンデゲはジープを急発進する。


銃を構えた門番がジープ目掛けて発砲する。


「おい、逃げたぞ!」


ンデゲの鮮やかなドライビングで発砲をかわすと、ミラー越しに盗賊団達が駆け出してくる。何とかうまく巻いたようだ。ンデゲが質問する。


「シミズさん、もしかしてこれって?」


「ああ、本物さ!」


「す、凄い、清水さんの話術!」


「いいや、まだまだ。だが捕まるのも時間の問題だぞンデゲ!そうだ、空港へ向かえ!」


そう告げると清水はロドリゲス公爵に電話を入れ、取り返したことを告げる。

そして首都ドドマの空港に小型機パイパーチェロキーが用意されることになった。


~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~


「え、あいつら逃げたの?」


それにしてもあの偽者の原石を持って行ったことに細木は不思議に思う。

もしかしてこれは・・・

細木はもう一度水晶球に向かう。

何やら呪文を唱えながら・・・


やはりンデゲの脳波によるとあの原石は本物だったことを知る。

ふつふつと細木の怒りがこみ上げる。


「あいつら~!私を馬鹿にしたら承知しないよ!」



この日から細木の攻撃は清水たちに向けられるのであった。







~次回へつづく~



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