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第1章

~幻の秘宝を魔術で射止めるべく黒魔法使いはダンジョンで今日もインチキ宝石商と果てなきバトルを繰り広げ~第一章

作: 大丈生夫 (ダイジョウイクオ)




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Scene.01 たくましき商魂



「はい、では3:00の便でタンザニアに飛びます。」

清水はスマホを切るとフェラーリのハンドルを握る。予約の時間は理不尽にも迫ってくる。頼む、間に合ってくれ・・・派手な赤いボディが颯爽とハイウェイを突き進む。



成田の国際線パーキングのゲートを顔認証でパスし、いつもの貸切エリアに愛車を乗り入れる。このところのウイルスの影響でパーキングはガラガラ。特別に貸切にしておかなくてもいつでも駐車可能なのに見栄張っちゃって、あの若社長。



既に搭乗ゲートは解放され、乗客たちが既に乗り込んでいる。

指定の席に着きCAの指示のもと、ベルトをつける。


アナウンスが流れジェットは起動し、やがて滑走路へとゆっくりと走り始める。

ようやく規定のエリアから発車体制になると、勢い良くジェットの音を轟かせる。


そして堰を切ったように猛ダッシュで微かに室内にこもる爆音と共に機体は急加速を始める。

揺れる座席に収まる清水は、覚悟を決めたような横顔で固唾を呑んで離陸を待つ。

そろそろ速度が乗った頃、静かに機体を上へと傾けながら浮き上がった。


中々の腕前のパイロット。さすが軍で鍛えた国際線乗りは違う。

まるで腕前を見せ付けるかの如く、急角度で旋回を始め上昇して行く。

窓際の座席の清水はその角度によって眼下に映る海を眺める。

毎度のことながらこの瞬間だけは、命を預けていることを実感せずに居られない。

彼が彷徨った世界の数は今や70カ国になろうか。マイレージもタップリある。


高度を十分に上げたことで旋回を終えた機体はやがて安定して滑空する。


ベルトのサインが消えると、CA達は忙しくお茶の支度にかかる。

忙しく辿りついた清水はこれからの長い旅の始まりをウイスキーで祝う。


さぁ、トレジャーハントの幕は開かれた。



今回の買い付け量は未だかつて無い量になるであろう。

ウイルスが蔓延する世界のご時勢に、うちのJr若社長が賭けに出たのだ。

経営難による企業によって崩壊に近い相場であるこの情勢に乗っかるため。

はたまた雇用の悪化も見込まれる中、自宅待機の客層をターゲットに通販事業で消費者が増加するだろうと踏んだのだ。


まさにハイエナだ。



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Scene.02 タンザニアの夜明け



成田からドバイを経由し、22時間の長旅を経て目的地タンザニアのダル・エス・サラーム国際空港に到着。空港から程近くのホテルに滞在してから今日で既に一週間。


清水にもいよいよ焦りの色が浮かんでいた。


何故かと言うと、先手はとっくに買い付けを終えた頃であり時既に遅し、良いものから買い漁られていた。こんな筈ではなかった・・・



若社長からの執拗な要求でスマホが鳴り止まない。無いものはないのに。

更にそれを良いことに行商人達は残りのクズ原石でさえも吹っかけてくる。

ひたすら歩き回ってお宝を巡り右往左往する強行は修羅場と化してきた。


「なんだと、まだそれだけしか入手できないのか?」


若社長の罵声が大声で耳を劈く。


「はい、申し訳御座いません・・・ですが吹っかけてくるので。」


「なら良い、一旦引き上げて来い!」

容赦の無いスマホの向こうの鬼からようやく許しが出る。

しかしだ、今度はウイルス蔓延による急な減便により帰ることさえまま成らなくなってしまった。日本へのフライト予定は今のところ未定だという。

それでは迂回するルートを探すが、やはり接続が困難で1ヶ月の予約が埋まっていた。

もはや八方塞の体と成ってきた。


清水の額に焦りが滴る―――


ようやく若社長に事情を把握してもらい、再び宛ての見えぬトレジャーハントに走る。

そして、ある有力な情報筋からとんでもない「秘宝」が流出したとのウワサを入手する。


ハナシはこうだ――――――



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この地の有力者が長年隠し持っていた巨大な原石がこれまでのタンザナイトとは異なる希少石だったことが判明。鑑定士の予測では同等のタンザナイト比で凡そ200倍の価値があると言う。そしてそれを狙ったマフィア絡みの窃盗団が入植し持ち去ったのだと。


これに怒った有力者が日本からある黒魔法使いを呼び寄せ、その魔術によってどうやら行き先を突き止めた。

だが、窃盗団は有力者よりも多額の報酬をこの魔法使いに渡し、ヘッドハントに成功。自分達の側につけたというのだ!


更に憤慨した有力者は職業軍人を大勢雇い集めてその「秘宝」を取り戻すべくプランを計画し始めたという。



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このハナシをジュニアの若社長にするや、大いに興味を持ち始めた。


「ナニィ!それはもしかしたらチャンス到来ではないかい?」


「と申しましても、途方も無い金額が既についておりまして・・・」


「で、幾らだ?」


「約50億円です。」


「ふぅむ・・・ヨシ、親父に相談してみよう。」


流石に桁違いなその金額を聞いたジュニア社長の一存では決定できない様子だった。

原石でその金額だと最終的には・・・オークションものだな。

それよりもこれによって我が会社の世界的な宣伝効果が大きくなろう。

長年の実績でも未だ未経験な領域。

もしも清水にそれを一任されたところでどうしたものか・・・


新たな試練の予感が、清水に険しい表情を浮かびあがらせた。



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Scene.03 孤独な勇者



あくる朝、清水は物騒なニュースに飛び上がった。


なんと、その秘宝の持ち主の有力者がコネクションを使って国に働きかけ、人民防衛軍をも巻き込むことに成功したというのだ。そして国外への流出を防止するために国際空港他にバリケードを組み始めたというものだった。


と、言うこと即ち俺はとうとう日本への帰国ルートを完全に絶たれたということが決定付けられたことを意味した。まずい・・・帰れない。

その事情を早速ジュニア社長に伝える。


「ああ、そういうことかね。な、ナニィ?」


「ですから・・・帰れません。」


「まぁ、いずれにしろその「秘宝」とやらを手にするまでは君は帰れませんがね、ハハッ。」


「と、申しますと?」


「そう、先ほどオヤジからの正式な許可が降りたんだ!後はヨロシク。」


何と!スマホを思わず落としそうになる。

清水の両肩に50億もの責任が託されたのだった・・・

その事の重大さに思わず震えが走る。

ああ、全く感覚的に計り知れないその重圧に呼吸が困難になる。

今朝のモーニングが吐き出されそうな感覚に陥る。


「ど、どうしよう・・・・」


孤独な戦いの幕が今、開かれたのであった。

その日から清水は極度の睡眠不足に苛まれていった―――



明くる朝、早朝にチャーターしたタクシーで下調べに向かう。

この情報をくれた情報筋である行商人の元へと急ぐ。

そしてそのアポをとるため流暢なスワヒリ語を駆使して掛け合う。


「だから、今はできないんだよ。君がどんなに欲しくても相手が黒魔術師である以上、こっちの探りは筒抜けなのだから・・・それよりも他にもいい品あるから、それで我慢してくれ!」


強い口調で行商人が拒む。

清水は持ち前の話術で尚も続ける。


「実はね、君にとっても悪いハナシではないと思うのだが・・・一つだけでいい、教えてはくれないかい?褒美は弾むよ。もちろんキャッシュで。」

そういうと電卓を弾く。


現れた数字に考え込む行商人。奴もプロの端くれ。中々すんなり答えは出さない。


「では、こうしよう。私が動くと目立つから、君がこっそりとある目的地に潜入するってことではどうかね?そのための案内人は付けてやるが。どうだい?」


「と、いうと?」


「ま、ひとまず行ってみればわかるよ!」


行商人は執事に何やら耳打ちすると奥の部屋へ出て行った。

暫く待つ―――


そして執事は一人の若者を連れて戻る。


「始めまして、わたくしはンデゲと申します。ここからは私の車でご案内しましょう。」


そう告げると建物の裏手の駐車場へと清水を案内する。

停まっている一台のジープに二人は乗り込んだ。

ンデゲは軽やかなハンドルさばきでジープを走らせて行く。

港町の郊外を抜けると海岸線伝いに車を走らせて行く。

海風がそよぐ中、突き進んで行く。


そして間もなく一軒の邸宅へと車を横付ける。

ゲートの両側にはガードマンが銃を携えてこちらを警戒する。

なんとも物騒なその一人が近づく。

ンデゲがアポをとってあることを告げるとゲートが開く。

ジープを中へと滑り込ませる。


真っ白なその邸宅のロータリーには噴水が湧いている。

丁寧に手入れされた芝生や木々が大きな建物の格調を引き上げている。

何とも立派な風情だ。


支配人らしき燕尾服のご老体がこちらへ近づく。


「さぁ、お待ちかねですよ。」


二人は大扉のエントランスの中へと案内される。


ロビーには数々の調度品が鎮座している。

広いロビーの大理石の床に鎮座している宝石がちりばめられたライオンの置物を中心に、まるで宝石店のような無数の調度品が吹き抜けからの陽光に照り輝いている。

夢のような世界がそこに広がっている。


更に奥へと案内される。

ご老体が白い扉を開けるとリビングとなっていた。

奥のデスクにはここの主であろう白髪の老紳士がこちらを伺っている。

清水はそれが誰であるか気付かされた。


「やあ、そこへ座りたまえ。」


白髪の主は目の前にあるソファーを指差す。

ガラステーブルはショーケースとなっており、無数の宝石がきらめく。

大きな宝石箱を開けたような神々しさがそこに潜む。

そう、その人こそこの町の有力者であり例の原石を盗まれた張本人のロドリゲス公爵である。ンデゲが早速話を切り出す。


「こちらの方がバイヤーのミスターシミズです。」


杖を付いた老紳士はこちらに向かってきて着席する。


「ようこそ、シミズ。お会いできて光栄です。私の大事な原石が盗まれたことは既知のことだろう。あれはある品評会でオークションにかけるために展示していたものなのだが、翌日に控えたオークションの前夜に忽然と消えてしまった―――

盗賊段一味が潜入し盗み去ったことは情報筋が突き止めている。そこでだ。君に取り返してもらうことをお願いしたい。既に国の人民防衛軍にもルート摘発に乗り出してもらっているが、それはある意味おとりである。そして君の卓越した話術については評判を聞いている。

そこでだ、君には別ルートで奴らと接触してもらいたい。その暁には取り返して貰いたいのだよ。」


唐突なその老紳士の懇願に動揺を隠せない清水。

ンデゲも黙って事の成り行きを見つめる。


「お話はわかります。ですが私は一介のブローカーに過ぎません。その私にこのような重要な任務をお預けになるその意味とは一体どのようなものでしょうか。」


ロドリゲス公爵は遠い眼で窓越しの景色を見つめる。


「私はね、祖父の代からあの原石を大事に授かってきたのだ。その祖父は常々この原石を最高の加工技術が達成されたその時に最高の宝石に仕上げて欲しいという切なる願いがあった…


そして月日が経過し、そしてあなた方のグループの加工技術がトップであることを知る。実のところ私達もあれを持て余していたところなのさ。ウチの内情もあってね。そんな中急な資金の焦げ付きもあって原石のままオークションに出品することに決めた。だが早まったせいで私はセキュリティーもそこそこの状態で預けてしまったのがいけなかったのだ。祖父には非常に申し訳が立たない・・・そしてあの「ドラゴンズ・ソウル」は消え去ってしまった―――」


「「ドラゴンズ・ソウル」?」


「ああ、その名は父が名づけた名前だ。祖父の魂の意味合いからだろう。」


「いい名前ですね。それにしても私のメリットとは?」


「要するに、君のグループ企業の加工により最高の宝石に仕上げていただいた暁に、最高の価値において取引を成立して欲しいのだ。金額については君達のほうで設定してくれたまえ。その上で私達は取り分を戴ければそれでいい。


事は急を要している。このままでは私は近いうちに破産する。


それから敵の雇った黒魔法使い、そう、あれは私が先に雇い入れたのだが買収されたのだが・・・そいつから君の巧みな話術で奪取して欲しいのだ!」


自体の深刻さに清水は固唾を呑む。

中々決断できぬ自分がそこに居る。


「それにしても・・・で、貴方の希望額とは?」


「50億。」


清水はその数字にハッとする。



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Scene.04 黒魔法使い現る


その頃、窃盗団に雇われの身となる黒魔法使いの細木は公爵率いる軍勢の様子を伺っていた。持ち前の魔術を使い様子を偵察して行く。


常に携えている大きな水晶球をカバンから取り出し、机上に鎮座すると、なにやら呪文を唱え始める。


「ファンダ-ラクンダラ アジスアベ ドロミチスキューネ クワレッツオ レオニッシ  コレチヲーゾ コプンシュテニッヒ ビャリッツワネコフュ!」


何語とも言えぬそのおどろおどろしい罵声にも似た呪文に、周りの輩も背筋が凍る。

老婆の細木はそして水晶球に手を翳すと、何やら景色が浮かび上がり、閃光と共に白壁に映像が映し出される。と、それはロドリゲス公爵の邸宅から出てくる清水たちの様子だった。


「おやおや亜奴等は一体何者か?さぁ、あんたら、あいつらにも用心しな。」


「しかしどのような形で・・・」


「では、あの男の脳波を解析しよう。」


老婆の細木がまたも奇妙な呪文を唱える。

壁面に清水の顔が拡大されていく―――

唸るように呪文を続けていく。

時折フラッシュのように水晶球が閃光を上げる。

だが・・・


「おかしい・・・読めない。」


幾度と無く繰り返されるおどろおどろしいその呪文、そして細木の体力が限界に差し掛かったところで椅子にもたれかかる。


「ダメダメ、幾らやっても!どうなっちゃってるの?もしかしてアイツは宇宙人?」


疲れ果てた老婆が妙なことを口走る。

それはこれまで幾多の敵と対峙してきた細木にとって侮辱に値する。

今までは脳波を解析し、敵の行動パターンから作戦を遂行していたのだが、脳波を読めないことには相手の考え方さえも理解することが不可能であった。

細木に妙な焦燥感が走る。

その日は細木は早めに床に着いた。



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ンデゲは西へ西へとジープを走らせていた。

ンデゲは一睡もすることなく走り続けていた。

そう、彼らは既に敵陣に近づいているのであった。


それにしても、とふと昨日公爵から告げられた「50億。」という言葉が気にかかる。


私達の準備金と同額であることを不思議に思う

どこかで情報が漏れてやしないか。それにしても公爵の素振りには何も不信な様子が無かった。いきなりンデゲに案内されたときは流石に面食らったが・・・


ンデゲの助手席で回想しながら遠くの景色をぼんやりと見つめている―――






                           ~次回へつづく~







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