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コンタクト=グラス  作者: りく
1/1

硝子の花



あぁ、何も見えない。


目の前に広がるのはぼやけた世界。


こんな世界早く抜け出そう。そんなことを思いながら体を起こし、洗面台まで向かう。手を洗い、顔を洗い、歯磨きをし、今の世界を抜け出す準備が整った。コンタクトレンズを付け、ぱちぱちっと瞬きをする。すべてが鮮明な世界。これが僕のいる世界の本当の姿。


毎日思っている……見えるって素晴らしい。

さあ1日の始まりだ。



いつもと同じように朝の準備を終え、食事でパンとコーヒーを視覚と嗅覚、味覚を十分に使って楽しみ、学校へと向かう。


「おはよう~」


挨拶してきたのは幼なじみで隣のクラスの斉藤テトラ、クラスの友達や幼なじみからはテトと呼ばれている。和む雰囲気を持っている少し天然な女子高生だ。


「今日は寝癖ついてないね。偉いじゃん。」


「昨日の寝癖なんてほんとにちょっとはねてただけだよ~。あんなの気づくの瑠璃くらいだよ~?」


からかい気味で言うと、むっと頬を膨らませて少し恥ずかしそうにしている。テトが言う通り昨日の寝癖とはほぼ寝癖と言えるものでなく、髪の量が多めなテトにとっては許容範囲のものだったが、髪の膨らみ方、少し不自然な曲がり方、ほんとに細かいところから寝癖だと判断したのだ。


「いつもテトと会ってるから少しの違いでも気付くんだよ。デリカシー無いこととは思ってたけどついね。」


笑いながら言うと、テトは何故か顔を赤らめて顔を逸らした。なんでだろう。そんなことを思っていると、いつものバス停にたどり着いた。


バス停の列が道路沿いに長蛇の列を作っていた。


(ん……?なんで今日こんなに人が多いんだ?いつも混雑を避けるためにピークの時間より1時間早く来ているのに。)


そんなことを思いながら並んでいる人を見てみると、高校生しか並んでいない。瑠璃が住んでいるのは住宅街で確かに学生も多い、が、こんなに早い時間にこれだけ集中するなんてありえない。


前の方から知り合いがいないかと少し眺めていると一人の女の子と目が合った。その瞬間、頭にキィン!という音が響いて目の前が真っ暗になった。


「ん……なんだ今のは…それに、何も見えない。目を開けている感覚はあるのに、何も見えない。何が起きてるんだ。」


黒い真っ暗な箱に閉じ込められたようなそんな錯覚を起こすような感覚だった。何も見えない、見えないことは情緒を狂わし、平静を保てなくする。突然起これば尚更だ。


始めこそ冷静だった瑠璃だが、次第に動悸が起こるほどに動揺し、いつこの暗闇から抜け出せるのか、不安が巡り、思考は負のスパイラルに陥っていた。


(なんだ、なんなんだ、何が起こってるんだ。見えない。見えない見えない見えない。見えないと怖い。周りの状況がわからない。)


「瑠璃……」


誰かが呼んでいる。


「起きて……瑠璃……」


(僕は……眠っているのか……?)

声を聞いて眠っていることに気付いた次の瞬間、お腹に痛みが走り、目を覚ました。


テトがお腹にチョップを食らわせてくれたらしい。なぜチョップなのか。そして少し誇らしげである。


「もっと優しく起こしてくれると嬉しかったんだけど。」


「そんなこと言ってる場合じゃない、周りみて。」


テトの言葉に周囲を見渡すと、大草原が広がっていた。

とても深い青色の青空に沢山の草花、空気の湿度も低く澄んだ空気が風に運ばれて体に染み渡る。


「ここは……?近くにこんなとこあったか……?」


そんなことをいいながらも頭ではわかっている、ここは日本ではない、まず記憶が正しければ今は梅雨の季節だったはず、このカラッとした空気はありえない。それにさっきまでバス停に居たはずだ、なぜこんな草原にいる。人が住んでそうな住居もまったく見当たらない。ここはどこなんだ。


「ここは、多分地球じゃないんじゃないかな。」


テトはなにか確信めいた様子で呟いた。テトの目線に目をやると、青空が、途中で途切れている。青空が途切れた先には紫と白が混ざった色の雲のようなものが渦を巻いている。


「たしかにこれは地球じゃありえなさそうだ。雲が紫になってるのは初めて見たね。」


あっけに取られながら空を見ていると、テトが周りを散策し始めた。こういう時の行動力はどこから来ているんだと感心しながら僕も散策することにした。


見たこともないような草花ばかりで、とても幻想的、圧巻の美しさだ。なにかが満たされるように感じる。そんな神々しさすら感じる草花の中に紫陽花のような花を見つけた。紫陽花は僕が一番好きな花だ。雨の鼠色の空ですらいいコントラストになるような淡い色で雨上がりの日差しを浴びた姿はキラキラしていてとても華やかだ。見ていて飽きない。だから好きなのだ。そんな紫陽花のような花に近づき見てみると、花と言えるものなのかと思える硝子のような花弁をしている。


「これは…宝石みたいに綺麗だな……」


硝子のような花弁が何層にも重なり光を乱反射し、様々な色に変化する。赤、緑、ピンク、紫、青、煌めき色を変えていく様子は万華鏡を見ているようだった。いつまでも見ていられる。


そうして暫く見惚れていると、色が瑠璃色に変化した。自分の名前でもある瑠璃。落ち着いた色で、見ていると心が静かになる。とても美しくていつまでも見ていたいはずなのに、なぜか目を瞑った。


ーーその瞬間ーーー


パリン!大きな音を立てて何かが割れる音がした。

目を開けると、花が跡形もなく消えていた。何がどうなっているんだ。訳が分からない。また少し混乱していると。


「おーい~。瑠璃~。瑠璃?」


テトが散策を終えて戻ってきた。なぜ名前を疑問形で呼ぶんだろうか。


「おかえり、どうした?なにかあった?」


「いや、その、瑠璃の……目の色が、変わってるよ?」


「なに!?黒じゃないってこと??」


「うん。これは…青…?いや、瑠璃色…?」


目の色がこんな一瞬で前触れもなく変わるものなのか、いや前触れがないことは無いか、さっきのあの花だ、そもそもここはどこだか分からない上に移動手段も謎と来ればなにが起きてもおかしくない。


「目の色が変わっても僕は僕だよ。今は原因は分からないけどとりあえず後回しにしよう。なにか散策して見つけたかい?」


きょとんとしながら目を見つめていたテトがはっとした様子でポケットからスマホを取り出した。


「来た時は頭まわらなくて電波とか気付かなかったけど、どうなってるかなと思って見てみたの。そしたらこれ。」


画面にゲームのマップのようなものが描かれている。その上に赤い点がある。この赤い点は現在地か、それとも目的地か。ゲームならそのどちらかが多いと思うが。


テトが見てて~といいながら画面をタップすると、マップが浮き出て3Dのようになった。


「うお!すごい、なんだこれ。」


少しドキドキしながら見ていると、なにやら色々な名称が書いてある、トゥルヌソル、テュリプ、赤い点に近いのはこの2つのようだ。これは街の名前かなにかだろうか。名前のところを手で触れるかなと近づけると、タップ音とともに街の説明文と構成人数、名産など様々な情報が浮かび上がった。


「なるほど、トゥルヌソルという街なんだな、フランス語で向日葵という意味らしい。名産も名前の元の向日葵、それと防具、薬草って書いてある。」


防具、薬草…なるほど、ここまで来たら予想が着く。これは俗に言う異世界転生、死んだ記憶が無いから異世界転移なのか。ファンタジーの世界だな。


「これは…もしかして、ゲームの世界かなにかなのかな!」


明らかにテンションが高いテトが目をきらきらさせながらこちらを見てくる。そういえばテトはラノベをよく読んでいた。その影響からか一時期厨二病のようなことも言っていた。そんなことより、ゲーミングマップ。見たことの無い景色、不思議な出来事、今のこの状況を省みるとゲームの世界というのが1番しっくり来る。


「そうかもしれないな。とりあえずこのトゥルヌソルという街に行ってみよう。寝床も探さないと行けない、それに赤い印に行けばなにかわかるかもしれないからね。」


テトはコクリと頷き、2人はトゥルヌソルへと向かうことになった。



ーーーーーTo be continueーーーーーー

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