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第七話 力の使い方

 「魔女様!」


 「魔女様だ!」


 村へつくと、セリーナのもとへと村の子どもたちが駆け寄ってきた。


 「人気者ですね、魔女様」


 「セリーナでいいわよ。私がいつも魔物を倒してたらかっこいいってなつかれちゃってね」


 アリスがからかうと、セリーナは照れ笑いで返した。セリーナの嬉しそうな顔を見て、なんだかアリスも心が温かくなるような気がした。


 「セリーナ、そちらの方々は?」


 アリス達に気づいてやってきた村人たちが、セリーナへと尋ねる。


 「この二人は、村を魔族に襲われてしまって、行く宛がないそうです。出来れば私は、この村に住んでいただけたらと」


 「セリーナさん。気持ちは嬉しいですが、私たちはずっとここにいる訳にはいかないんです……。もちろん、しばらく滞在させてくださるというなら、できる限り村のお手伝いはさせていただきますが……」


 ハンナはセリーナと村人たちへとそう頼んだ。


 「そう……。それはいいけれど……」


 セリーナは戸惑いがちに答える。村人達も不思議そうに首を傾げていたが、やがて頷いて歓迎を示してくれた。


 「そういうことなら、私たちも歓迎しま

す」




 村人たちの了承を得た二人は、セリーナに村の案内をしてもらっていた。


 「けれど、本当に行ってしまうの? 外は危険よ」


 「はい。この力で人を助けたいんです」


 「その力でカタツムリに殺されそうだったんじゃないの?」


 「うぐっ」


 アリスは痛いところをつかれたと目をそらした。仕方ないというように笑みを浮かべ、セリーナはアリスの頭にポンと手を添える。


 「勇気があるのはいいけれど、それで何も成せないなら意味はないわよ」


 「はい……。けど、このままでいる訳には……」


 アリスも、自分の力が人を守るには遠く及ばないことは自覚していた。このままではハンナが自分のせいで危険に晒されるのではないかとも、ずっと悩んでいた。


 「もし良ければ、私が教えましょうか? 力の使い方。独学だから教えられることは少ないかもしれないけれど、あなたよりはできるわよ」


 セリーナの提案は、アリスにとってはかなり助かるものであった。


 「いいんですか!? ほんとに!?」


 感極まっている様子のアリスに、セリーナも微笑する。


 「ええ、じゃあ明日から始めましょ」


 「良かったじゃないアリス! これであんたも強くなれるわよ!」


 「ハンナ。あなたもアリスと一緒に村を出るなら、剣の扱いくらいは覚えておきなさい」


 「え?」


 「私から頼んでおくから、あなたも明日は村で剣の扱いを習いなさい」


 「はっ、はい!」

 

 なんだか希望が見えてきた気がして、その嬉しさに二人は抱き合う。


 「「ありがとうこざいます!!」」

 

 二人は、セリーナの家にとめてもらえることになった。アリスたちがあとから聞いた話だと、セリーナはこの村のみんなから慕われているのだそうだ。アリスとハンナが村でここまで親切にしてもらえるのも、セリーナの人徳によるものでもある。


 その日のアリスの頭はずっとセリーナへの感謝でいっぱいだったが、夜、寝る時間になればどうしてもあの夜のことが頭を支配する。家族は、クロッツやターナー、村の人たちはいまどうしているのか。何人くらいが生き残っているのか。


 ベルが追いかけてきたらどうしようかという考えもあった。ベルはアリス自体への関心はそれほどないように見えたし、どこへ逃げたのか分からないはずだった。可能性はかなり低いだろう。しかしもしそうなれば、この村を巻き込んでしまうのではないかという恐怖が、どうしても頭から離れなかった。



 翌日、アリスはセリーナとともに村の外へと出ていた。ハンナは村で剣の稽古中である。


 「今日はお願いします」


 改めてセリーナへと挨拶するアリス。


 「よして。できれば、固くならないで接して欲しいわ」


 セリーナはアリスへと、笑顔でそう言った。


 「まず、能力の使い方だけど、自分の能力を正しく理解することが大切よ」


 「自分の能力……」


 思えばアリスは、自分の能力について電撃がだせる程度の認識しかなかった。これでは重要な場面で能力が最大限発揮できない。


 「私は炎をだせるわ。温度は魔物でもそうそう耐えられないぐらいにはできるし、自分が操れる範囲の熱は効かない。自分でつくった炎は消すことができる。あなたは?」


 「私は……電気を、出せる?」


 アリスは自分で言っていてため息がでてしまった。道のりの長さが、見えないまでも分かるような気がした。


 「大丈夫よ。分からない分だけ可能性があるってことなんだから」


 「そ、そうですよね!これからこれから!」


 少し落ち込んでいたアリスだったが、セリーナにそう言われて気持ちを切り替える。


 しばらくのあいだ二人で能力の実験を行った。結果としては、電流をながせる。電撃を放てる。自分が操れる範囲の電撃は効かない。電流による熱も効かない。程度のことが分かった。


 「ひとまずは、こんなものかしら。分かってないだけでまだまだあるかもしれないけどね」


 「でも、威力が……」


 アリスが不安げに呟く。そう、アリスの発電できる範囲だと、かなり威力が弱かったのだ。そのことをアリスは気にしていた。


 「そこは安心していいわ。鍛えていくうちに強くなるはずだから。私だって最初のころはちょっと暖かい位だったのよ?」


 セリーナが話していると、草影からなにかが飛び出してきた。魔物である。巨大なカエルにイボが増えたような外見をしていて、さらに下半身には、足が四本ついている。アリスを見て、カエルの魔物は喉を鳴らす。


 「うわっ……」


 アリスがそのあんまりな見た目に引いていると、セリーナは後ろに下がった。


 「この魔物はあんまり強くないわ。練習にはちょうどいい相手ね」


 「そんな! いきなりこれと闘うんですか!?」


 アリスがあんまりだとばかりに抗議する。少し目が潤んでいた。


 「そんなのでも魔物にしては普通の見た目よ。人を魔族から助けたいんじゃないの?」


「そ、それは……そうなんですけどぉ……」


 セリーナが発破をかけると、アリスも覚悟を決める。向き直って両頬を叩いた。


 「もう、どうにでもなれ!」


 涙目になりながらも、アリスはカエルへと指を向ける。電撃が放たれ、まともに受けたカエルは怯むが、やはり致命打にはならない。カエルはそのままアリスへと飛びかかってきた。


 「きゃあ!」


 アリスは後退してそれを躱す。しかし、躱すさいに体勢を崩してしまった。そこをカエルが舌を伸ばしてつかまえようとする。


 なんとかアリスが体勢を整えてまた後退しようとするも、カエルもまたアリスのもとへと距離を詰めていた。


 カエルの舌がアリスをつかむ。


 「いやぁぁ!」


 咄嗟にアリスは体中にありったけの電流を流した。突然の強い電流に、カエルはうめき声をあげる。


 カエルがすぐに舌を戻すが、既にボロボロになっていた。


 「ハァ、ハァ、気持ち悪い! 悪いけど! さすがにきもすぎる!」


 アリスは舌に捕まった足の部分へ付着した唾液を、必死にそこらの草で拭いながら叫ぶ。


 「いい動きね。わざと舌を巻きつかせて、そこを狙うなんて」


 「意図的じゃないですから!」

 

 関心するセリーナへ、アリスは不本意だとばかりにそう返した。


 「でも、このままじゃ厳しそうね。アリス、これを使ってみなさい」


 「えっ?」


 そう言ってセリーナが渡したのは、いつも彼女が持っていた錫杖であった。


 「その杖は、熱を通しやすい素材でできてるみたいなの。これならもしかして、あなたの電流もより強力になるかも」

 

 「わかりました……。って! 重いですね、これ!」


 渡された杖の重みに、アリスの腕が下がる。アリスが必死にふんばろうとすると、アリスの腕に電流が走った。途端、杖の重みを感じなくなる。


 振り回してみてもなんともない。しかし常に、腕を電流がまわっている感覚があった。


 「体に電流を流して、局所的に身体能力を上げられるんだ……」


 アリスは自身の体に起こっていることを分析し、新しく見つけた自身の能力について確認するように呟いた。もう一度杖を振り回してみるものの、やはり先程とは比較にならないほど軽くなっている。


 再び、カエルがアリスへと迫ってくる。アリスは、そのまま杖でカエルの顔面を思い切り殴りぬいた。激しい電流の流れる杖に触れたカエルはそのまま感電し、殴られた衝撃で吹き飛ばされる。


 倒れたカエルが、立ち上がることはなかった。


 「はぁ、はぁ……、勝った……!」


 「良かったわよ。杖なしでも勝てるようになれば上出来ね」


 そう。アリスが勝てたのは杖によるところが大きかった。電流を通しやすく、リーチも伸ばせて身体強化をすれば軽くふるえるこの杖は、アリスには不思議なほどピッタリであったのだ。


 「この杖って、どこで手に入るんですか?」


 アリスがセリーナへと訊いた。


 「分からないわ」


 「え? 自分のものなのに、分からないっておかしくないですか?」


 アリスはセリーナへと詰め寄る。彼女は困ったような顔をする。


 「だから、貰いものなのよ。シリスって人からのね」

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