第六話 力の保持者
ともに手を取り合い、戦うことを誓ったハンナとアリス。彼女たちは今、全力で逃走していた。後ろからは、巨大なカタツムリのような魔物が追いかけてきている。
「はぁ、はぁ、はやっ! カタツムリはやっ!」
アリスがうんざりしたようにそう叫ぶ。
まる一日近く休憩し、アリスの体力も持ち直したところで再出発した二人であったが、慎重に移動しようと言った矢先、岩だと思いもたれかかったのがこの魔物の殻だったのだ。
「はあ、はあ、この、くらえ!」
アリスがカタツムリの魔物へと指をむける。指から放たれた電撃は魔物へと直撃。一瞬怯んだものの、すぐにまた追いかけてきた。
「私弱っ! カタツムリが強いの!? そんなことある!?」
「アリス、そんなに叫ぶと余計な体力使うわよ!」
半ば自暴自棄になるアリスへとハンナが言う。しかし、ハンナも内心この状況はまずいと感じていた。このままでは、他の魔物にも見つかってしまうかもしれない。
「アリス、倒すわよ。あのカタツムリ」
このまま振り切ることは不可能に近いだろう。先程あの魔物はアリスの電撃で多少怯んだため、そちらの方がまだ可能性が高いと踏んだのだ。
「え!? ど、どうやって!」
「どうにかするしかないでしょ! あんたは電撃撃ちまくって!」
アリスの攻撃で怯んだところをハンナが攻撃する。即席の作戦だがこれしかない。アリスは両手から電撃を撃つ準備を、ハンナは足元の大きめな石を手に取りそれぞれ向き直った。
と同時に、カタツムリの魔物が爆炎に包まれた。
「「へ?」」
間抜けな声をだして二人が同じ方向を見る。白い髪の女がいた。手には背丈ほどある錫杖を持っている。彼女の真っ赤な瞳と目が合う。
「「あ、ありがとうございます」」
「……あなたたち、こんなところで冒険ごっこ?」
女性は信じられないとばかりに二人へとそう尋ねた。
その後、アリスたちは女性へとことの経緯を説明した。
「なるほど……。辛い思いをしたのね。さっきは冒険者かぶれの頭の悪い二人組みだと思ってごめんなさい」
「そんなふうに思ってたんですか」
アリスがツッコむが女性は意に返さない。
「私はセリーナ・テイルス。あなた達は?」
「私は……アリス・ローレンです」
「ハンナ・ハンスです」
アリスは若干の不満をいだきつつ答えた。
「それにしても魔族が……。この辺じゃあ悪魔なんて滅多に現れないのに、そんな強力な個体がね……。私たちも気をつけた方がいいかもしれないわね。……まあとにかく、今はあなた達の身の安全が優先。ついてきなさい。近くに私の住んでいる村があるから」
セリーナの言葉に、二人は目を輝かせる。
「ほんとですか!」
「よかったぁ……。私はこのまま餓死するんじゃないかと」
セリーナは村近くで狩りをしていたところ、アリスの叫び声を聞いて駆けつけたそうだ。「バカみたいに叫んでよかった」とこぼすアリスの頭を、ハンナが軽く叩いた。
「そういえば、さっきの炎。あれってどうやったんですか?」
ハンナが、魔物を燃やした炎について訊いた。突然の出来事だったが、アリスの力と似た感じがしたのだ。
「驚くと思うけどね、私炎を出せるのよ。初めて出したときは自分でも信じられなかったけど」
やはり、セリーナも特殊な力を持っているようだ。
「あの、首元にこんなのありません?」
アリスが、自身の首元にある月のような形をした印を指差して見せる。
「え? ……ないわね、そんなの」
セリーナの答えにアリスは肩を落とした。どうやらセリーナは、シリスの力を受け継いだというわけではないようだ。しかしシリスから、特殊な力を持った人間自体かなり少ないとアリスは聞いていた。そう思えばここで出会えたこと自体運がいいと考え、気を取り直す。
「あの、実は私も似たようなことができるんです」
そう言ってアリスは、手のひらに電流を流した。それを見たセリーナは目を見開く。
「うそっ、あなたもなのね! 驚いたけど、話が早くて助かるわ」
セリーナは安堵したように胸をなでおろす。
「私も、同じこと言おうと思ってました」
アリスが得意気な顔を浮かべて目を細めた。
「ふふ、言うじゃない」
アリスもハンナも、セリーナの言葉に微笑み返す。
セリーナの村へついたときにはすでに、彼女たちは打ち解けていた。