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第五話 新たな決意

 見渡す限りの平原の中、二人の少女がその地を踏みしめて歩く。二人とも、同様に絶望しきった表情をしている。


 「ねえ、ハンナ。私たちこれからどうなっちゃうのかな」


 銀髪の少女、アリスがこの先に不安をこぼす。


 「分からないわよ。村もなくなって。家族や友達の安否だって分からない……こんなことになるなんて、昨日までは考えてすらなかったのに」


 ハンナもアリスも、今は何も考えられなかった。それ程までに、壮絶を極める出来事が続いてきた。


 しばらく走って、アリスが再び口を開く。


 「ごめん、私がしっかりしないといけないんだよね……。きっと」


 アリスの独白とも思えるその呟き。ハンナはその真意は理解出来なかったが、アリスが先程の事件のことを思い詰めているのは痛いくらいに分かった。ハンナの胸の内も、疲れ以上に精神的な痛みに深く締め付けてられている。



 その後も二人は走り続け、やっとのこと隠れやすそうな場所を見つけて一度休憩をとることにした。二人とも、魔族からの逃走に長距離の移動と、もう体力は限界であった。特に、アリスは魔族の群れを倒す時に放った電撃にかなりの体力を消費させられたため、もうこれ以上は手足もまともに動かない程に疲れが溜まっている。ここまで何度もハンナに背負ってもらい、なんとかここまで来たのだ。


 「あのさ、やっと聞けるけどあの時、魔族を倒したときに使ったあれ。あれって何だったの?」


 ハンナは、ずっと気になっていた問いをアリスへとなげかける。当然、アリスが出した電撃のことだ。唐突な事の連続で頭も疲弊し切っていたが、彼女の頭の隅にずっと残っていた疑問であった。アリスは一瞬悩む素振りを見せたあと、正直に答えることにした。


 「うん。その前に言わなくちゃいけないことがあって。信じてくれるか分からないけど私、前世の記憶があるの。ていっても、思い出したのはさっきだし、結構あやふやなところも多いんだけど……」


 アリスの告白に、ハンナはキョトンとしたような表情で目を大きく見開いた。が、すぐに表情を戻して真っ直ぐアリスを見つめる


 「信じるわよ。あんたはこんなときに嘘はつかないし」


 ハンナにまっすぐとそう言われ、アリスは小さく「ありがとう」と呟く。アリス自身も自分が突拍子もないことを言っているのは分かっていた。だからこそ、ハンナが理解を示してくれて心が軽くなった。


 「で、それとあの力になんの関係があるの?」


 アリスは、これまでの経緯を話した。そのひとつひとつをハンナは真剣な表情で聞いていく。アリスが思い返してみれば、ハンナはいつもこうして自分に寄り添ってくれていたと思う。それを今こんな状況になって強く認識させられ、目頭に熱がこもった。


 「なるほどね。だからあの悪魔、アリスの力を見た途端態度が変わった訳ね。きっとあいつ、そのシリスって人と会ったことがあるのよ。……まぁ、その関係は良好じゃないだろうけどね」


 ハンナの考えに、アリスも頷く。あの魔族は、あきらかにシリスへの敵意があるようだった。それはアリスも感じていたことであったし、向こうも隠す様子はなかった。


 「けど、力を使うたびにそんな状態になるの? そう考えたら結構危険な気もするけど」


 ハンナの問いにアリスは首を振る。


 「能力が発現した時、同時に一度だけ自分の限界以上の力が出せるんだって。だから、多分もうあんな状態にはならないけど、あそこまでの威力も今のところは出せないんだと思う」


 それは転生前に、シリスが言っていたことであった。限界は引き出されるが、それ以降は疲労で動けなくなると。


 「なるほどね。けどあのくらいの力がこのさき出せなくなるなら、外の世界で生き残るのはまた難しくなるわね……」

 

 村などの人が住む場所はある程度の安全が保証されるが、このような平原ではいつ魔物などの危険な相手と出くわすか分からない。そんな状況で抗う術が限られるというのは、かなり心もとないものであった。


 「ひとまずそれは置いておいて、アリス。本当に行くの?」


 ハンナが不安げにアリスへと尋ねる。アリスはシリスから、他の後継者たちを探すよう頼まれている。そのことについて聞かれているというのは、アリスも分かった。


 「うん。さっきのことで、改めて思ったの。私は魔族が許せないし、これ以上悲しい思いをする人が出てほしくない。それにやっぱり、約束もあるから」

 

 アリスがそう答えると、ハンナの顔が曇る。


 「死ぬかもしれないのに? ううん、死んでしまう確率の方がきっと高いのよ」


 「それでも私には、果たさなくちゃならない使命があるの。思い出したの……。ハンナ。この先クロッツやターナー、家族とか村の人達が今どうなってるのかが分かったらさ。確認できたら。私、行こうと思ってる。そしたらさ、お別れ……だね」


 ハンナが首を振り、アリスの両の手を握る。


 「私も行くわ」


 「だめっ、危険すぎる」


 ハンナの言葉に対して、アリスはすかさず否定する。アリスは、ハンナを巻き込みたくはなかった。あくまでアリス自身がしたい事、しなければならない事だ。ハンナが無理をする必要はない。しかし、彼女も引かなかった。


 「危険なのは、アリスも同じでしょう? どうして私はだめなの? 特殊な力がないから? そんなものなくたって抗うことくらいできる。死なせたくないから? 私だって、アリスを死なせたくないの。アリス一人を危険な戦いに放り込むなんて、私にはできない。あんたが逆の立場だったら、黙って見てるの?」


 ハンナの勢いに、アリスは押し黙った。そしてゆっくりと、そしてぎこちなく口を開く。


 「分かった……。まずは安全な場所を目指そう? 話はそれからでも、遅くないよ」

 

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