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第五十八話 朝食

五十七話

 その夜はシシルの兄オウゼンの同席する気まずい晩餐を済ませ、眠りについた。床の上に布を敷いて寝るだけではそれ程心地よくなかったが、外と比べれば幾分もマシである。

 朝になってアリスが目を覚ました。もう部屋には彼女一人が取り残されており、窓から覗く陽光はアリスだけを照らしていた。みんなすでに起きているようだ。まだ重い身体を起こす。

 

「おはよぉ。えーと、ピピンだっけ……」


 人気のない空間の中、シシルのペットである芋虫へ取り敢えずあいさつをして、気分を整えて部屋を出た。籠の中は覗かなかったが。

 書斎にて、本棚の裏側に人の気配を感じた。アリスは心を弾ませて回り込み、顔を覗かせる。起きてすぐに誰もいないというこの状況が、存外寂しかった。


「ハンナぁ……?」


 そこには、オウゼンが椅子に腰掛けて本を読んでいた。気に食わなそうな目で、アリスは一瞥される。


「……すみませんでした!」


 その出来事で目が冴えたアリスは、小走りで部屋から出た。扉をバタンと閉めて、額を拭う。オウゼンの冷ややかな態度に、アリスは少し苦手意識を感じていた。


「はぁ、ヴァルメなら怖くないんだけどなあ……」


「私が何?」


「ひゃあ!?」


 後ろからいきなり話しかけられ驚いた彼女は大きな声をあげて背後へ飛び、先程閉めた扉に勢いよく身体を打ちつけた。


「しー!!」


 声の正体であるヴァルメの口元に人差し指をつける。


「いや、うるさいのあなたよね……?」


「と、とにかく! 部屋の向こうにシシルのお兄ちゃんがいて、それでさっき変な空気になって……もう! ややこしいなぁ!」


「朝から元気ね……」


 呆れるヴァルメに対して、アリスは不満気にその顔を見つめる。その後周囲を見渡した。昨日食事をとったリビングだが、ここにいるのはヴァルメだけのようだ。


「そういえば、ハンナは? もう起きてると思うんだけど」


「今、朝食を作ってるみたいよ。シシルと一緒に。……あなたはよくこんな時間になるまで寝ていられるわね」


「そっか。じゃあ私も手伝ってくる!。って、キッチンってどこ?」


「とりあえず、先に顔でも洗ったら? 今起きたところでしょう」


「あ、うん。そうだね」


 そう言って踵を返そうとしたアリスの足が止まり、ゆっくりと向き直った。


「どうしよう……この部屋通らないと……。一緒に来てくれない?」


「なんでよ……さっさと行きなさい」


「お、お願い! ね?」


 若干無理矢理にヴァルメを連れて、アリスはオウゼンのいるその部屋を抜けた。


「なんでそんなに苦手なのよ。彼のこと」


「うぅ。ちょっと怖いというか……ほら、ずっと怒ってる感じがして」


「あなたってそんな物怖じするタイプだったかしら。もっと図太いと思ってたけど」


「んー。ほら、ヴァルメと違ってオウゼンって強そうだから?」


「は?」


「ほら、怖くない」


 ヴァルメのジトッとした目に軽く揶揄うような笑みを返した。

 二人は洗顔の出来る水の湧き場までつく。そこは水の出口と受け口があり、木製の鉢が流れ出る水を受け止めていた。


「でも、こんな感じで水が湧き出てくる場所が家の中にあるって便利だよね!」


「あの子の能力で作ったらしいけど……この家自体が樹を丸ごと作り変えたような物に見えるし、なんだか不思議な力ね」


「ぷはっ、新鮮な水は違うねー」


 洗顔のついでに水を飲んでいると、後ろからまた人が入ってきた。ハンナだ。


「あれ、ハンナ。おはよ。今から丁度台所まで行こうと思ってたんだよ」


「おはよう。アリス、起きたのね。ちょっと料理に水を使うから、そこ借りるわね」


「うん。もう洗顔終わったし、私も手伝うよ。ヴァルメも来るでしょ?」


 汲んだ水を持ち、三人で台所へ向かう。質素な雰囲気だが、必要そうな物はあらかた揃っている。丁度シシルが何かを捏ねているところだった。


「あら。みなさんいらっしゃったのですね。アリスさん、おはようございます」


「おはよー。広いねここ! 何作ってるの?」


「ペネレです」


「ぺねれ?」


 アリスは不思議そうにシシルの捏ねている物体を見つめる。緑色をしていて、見たことのない食べ物だった。


「簡単に言うとアモという植物の一部をこね混ぜて作る、南の地域でよく作られる食べ物なんですが……パンなどに近いですかね」


「そうなんだ。楽しみ! 私も手伝うよ」


 3人で協力して作業を進め、ペネレを焼き上げた。独特な草の香りがまろやかになり、鼻に優しく触れるような甘さが出た。


「んー! いい香り! 私、作ってるうちにお腹すいちゃったよ」


「では、兄も呼んでお食事にしましょうか」


 5人は食卓を囲み、アリスもいつもより口数の少ないながらも朝食を食べた。ペネレはパンと比べると水気があり、もちもちとした食感だった。よく噛むと自然な甘みが口に染みる。次にスープに手をつけようとアリスが髪を後ろにかき上げた時だった。


「あれ……」


 シシルが彼女の首筋に視線を向けていた。


「その、アリスさんの首筋……ちょっと見てもいいですか?」


「首? ええと、いいけど……シシルってそういう……」


「違いますよ!? 私はただ……。あ、やっぱり! この変わった痣、私のと全く同じ!」


「え?」

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