第五十一話 答え
ヴァルメが腕を組んで大きく息を吐く。
「分かったわよ……ザグロさんにまでそう言われたら食い下がれないし。彼の言うことに理がないわけじゃない。ただ私達ももうすぐここを出る予定だし、何かあっても助けてあげられないわよ。それでもいいのね?」
「ああ、構わない。我々が決めたことだ。」
ザグロの言葉を受け取った後、バッシュの方へと面を向ける。
「そういうことだけど、信じていいのね?」
「勿論だ」
力強く頷くバッシュに対し、ヴァルメは冷めた顔つきで鼻を鳴らす。
「私の用も終わったし、私はそろそろ失礼するわ。あなた達は?」
「あ、じゃあ私達もこの辺で。ザグロさん、私たちの意見も聞いてくれてありがとうございました!」
ザグロに頭を下げた後、アリスとハンナも外へ出るヴァルメの後を追った。二人に構わず進んでいくヴァルメにアリスが呼びかける。
「これからどこに行くの?」
「どこって、別にそんなのないけど。私に用があったんじゃなかった?」
急に立ち止まり振り向くヴァルメに、二人が驚きつつ小さく下がった。
「あ、そうだったね! 忘れちゃってたよ私」
「正直私も……」
気恥ずかしそうに目を見合わせる二人に対して、ヴァルメは呆れたというような顔になる。
「いや、ごめんごめん。アースフィルムまでのことだったよね? 私達地理がよく分かってなくてさ、近いって言ってたけどどのくらいかかるの?」
「どれくらいって……。別に目算立てられる程私も知らないけど……。そうね、近いとは言ってもまだ領地にすら入っていないから、そこそこかかるかしら。早くて二ヶ月くらいはあると思った方が良いわ」
アリスには距離の感覚がいまいちピンと来なかったが、とりあえずはすぐに着くわけではないようだ。
「うーん。まあ、けっこう離れてるんだね。あ、そうだ! ハンナ、あれのこと気にしてたよね。今聞いたら?」
「え? ああ、そうね」
アリスの提言に、ハンナは左腕をヴァルメの方に向けた。
「これなんだけど。腕時計が壊れちゃって、直せる場所とかあるのかしら? 今までこれ一つしか見てないからわからないのよね」
差し出された方の腕を見て、ヴァルメがキョトンとした顔を浮かべる。
「これ……? どれのこと?」
「いや、これよ。腕時計」
今度はハンナも指で示す。
「ああ、この腕輪みたいなの? これがどうかしたのかしら」
「うん。壊れちゃって、ヴァルメなら直せる場所なんかも知ってるんじゃないかと思ったんだけど。その感じじゃヴァルメも分からないみたいね」
「残念」と、ハンナが肩を落とす。そんなヴァルメはムッとした顔を浮かべる。
「何よ、私が悪いみたいに。どうせ大したものじゃないでしょう」
フンとそっぽを向くヴァルメに、アリスが両手を横に振って否定する。
「そんなことないよ! 細かい時間まで分かって便利なんだから」
アリスの擁護に対して訝しげに首を傾げるヴァルメ。あまりピンときていないようだ。
「時間が分かる? まあよくわからないけど、そういうものをつくってる都市もあるのかもね。こんなの見たことはないけど」
「そっかあ。まあ、きっと何かわかるよ。ハンナ、元気だそ」
「別に落ち込んでない。というか、元々を言えばあんたが……」
「聞きたいことって、それで全部?」
アリスは首を横に振った。
「あと一つ、ヴァルメはどうしてアースフィルムを目指してるの? 答えたくなければそれでいいんだけど、聞いておきたいと思って」
ヴァルメの瞳孔が少し開いた。彼女はその柔い髪を指で梳く。
「そうね。まあ、知り合いとの約束……かしら。別にアースフィルムにこだわるわけでもないけれど、私が求めるものがそこにあった。それだけよ。……あなた達は?」
「え! 私達!? え、ええと……」
アリスの目が泳ぐ。見かねたハンナが先に答えた
「似たようなものよ。私達の村が魔族に襲われたから。こんな簡単に人々から平穏が奪われるような世界を変えたいの」
「そう。よくある理由って感じね」
そのとき、後ろから誰か走ってきた。二人が振り向くと、視線の先でザグロが手を振っていた。
「あれ、ザグロさん?」
「いやあ、すまんな。渡したいものがあったんだが忘れていた。こちらに来てくれないか」




