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第四十九話 魔族の実情

「話? 今更オレに話せることなどあまりないが」


 バッシュもヴァルメへと目線を合わせる。二人の間に妙な緊張感が流れ、それを見ていたアリスも肩に力が入った。魔族とこう言った形で向き合うことに慣れていない彼女にとっては、なんだか現実感がないようにまで感じられる雰囲気だ。


 「まあ大したことじゃないわ。ちょっと聞きたいことがあるだけよ。……八大なんとかって、心当たりないかしら。あなた達の首領が最期、そんなことを口に出してたのだけど。もしかしてあなた達魔族にとって、大きな意味を持つものなんじゃないの?」


 バッシュは一瞬考えるようなそぶりを見せた後、口を開いた。


「……八大貴龍のことか? あいつはその座を狙っていたな」


「八大貴龍? あー、聞いたことあるかも」


 人差し指を顎に当て、アリスが呟いた。ヴァルメが意外そうな顔で振り返る。


「本当? 私は聞いたことないけれど……」


「うん。私もよく知らないけど、確か魔族の中で1番偉い地位みたいなの……じゃなかったかな。パパから聞いたことあったと思うんだけど……」


「ああ、そういう認識で問題ないだろう。八大貴龍はオレ達魔族を統べる絶対的な強者達だ。奴らの力の前では、多少の知性さえあればどんな魔族だろうと膝を突く。それほどの存在なんだ」


 思案するように、ヴァルメが腕を組む。

 

「なるほどね。それで、あなた達の首領はその座を狙っていたと……。けど変ね、アリス。あなたの父親はどうしてそんなこと知っていたの? 私でも知らなかったのに」


「うーん。そう聞かれても……ただ昔世界を回ってたって聞いたから、その時に知ったんじゃないかな?」


「そう……」


 溜め息を吐くヴァルメ。吐き出した息には、未だ片鱗すら見えない魔族の全貌に苦慮する、彼女の苛立ちがのせられていた。


 「正直、魔族については分からないことだらけね。特殊な力を持ってるのだって知らなかったのだし、一体私達はどのくらい奴らについて分かってるのか……。その八大貴龍について、もう少し詳しく教えてくれる?」


 しかし、バッシュは頭を左右に振った。詳しいことは分からない。彼もまた、魔族の一端に過ぎないのだ。


「悪いがオレも奴らについてはあまり知らなくてな……。だがそうだな……今回オレ達に人間を連れてくるよう命令してきたのは八大貴龍の一人だった。理由は知らんが、奴らは今生きた人間を求めているようだな」


「へえ。そういう事だったの」


 興味深いというように、ヴァルメは頷いた。ただそうなると疑問は深まるばかりである。彼女の後ろから、再びアリスが口を挟む。


「きっとあれだよ! 食べちゃうの! 絶対そう!」


「なんであなたはなんでも食べさせようとするのよ……。というか、そしたら生きたままなんて条件つけないでしょう」


 勝手に青ざめるアリスに呆れ返るヴァルメは、再び大きな溜め息を吐いた。納得のいかないアリスは目線をハンナに向けるが、彼女にすら「それはない」と言われ更に頭をガックリ下げる。


「それにしても、その八大貴龍が命令を出したのがあなた達グリムだけだとも思えないわね。もしかしてもっと大きな規模で、この集落みたいなことが起きているんじゃあ……」


「ああ、その通りだ。オレ達以外にも命令を受けている魔族は大勢いるだろうな。オレ達も直接言われたわけじゃあなく、その配下からの命令が下された。まあ集団で行動できるオレ達グリムに比べて、他の魔族は殆ど単独か限りなく少数だ。大人数の生け捕りにはオレたち以上に苦慮しているだろうがな」


「そうみたいね……」。そう言って考え込むヴァルメの顔には、焦燥が浮かんでいた。


「だったら、きっと他の地域でも人が魔族に襲われているはず。歯痒いわね……」


 ヴァルメがアリスの顔の緩みに気づき、怪訝な顔を浮かべた。


「何? 人が真剣に考え事してるっていうのに」


「いや、優しいなって。……ごめんごめん、怒らせるつもりじゃなかったの。ただ、なんだか安心して。ヴァルメが人の事でこんなに悩めるような人でさ。……あ、いや! 特に深い意味はないんだけどね!? ほんとに!」


 焦るアリスを他所に、ヴァルメは目線を逸らした。


「別に、そんなんじゃないわよ……」


「ヴァルメ?」


 ヴァルメの返答が意外にしおらしく、アリスはハンナと目を見合わせる。よく見れば、彼女の頬がわずかに赤らんでいた。顔を二人から逸らして、ヴァルメはザグロの方へ向き直る。


「とにかく。私の用は済んだし、ザグロさんの話を聞きましょうか。それにうるさいのがいて集中できないし」


「うるさいのって、そこまで言わなくても……。あれ、もしかして照れてる?」


 ヴァルメがアリスの額に人差し指を突き立て、幾度かぶつけながら言う。


「私を、何度も、子供扱い、しないで!」


「う、ごめん」

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