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第四十八話 長の元へ

「あ、あなた達、いつから……」


「いつからって、まあ、さっき来たところだけど……。ええと、おはようって言ってたあたり?」


 気まずさに耐えかねアリスがハンナの方を見ると、サッと視線を逸らされた。観念してヴァルメの方に向き直り、重々しく口を開く。


「ええと、好きなの? オウム」


 その問いかけにヴァルメは答えず、小さく深呼吸を一つついた。あくまで平静を装うつもりらしいと、アリスは察した。


「それで? あなた達もファルに用事があってここに?」


「……ええと、というよりも、ヴァルメに……かな。これからのこととかさ、話しておこうと思って」


 平然とした態度で話をすり替えられ、流石にアリスも口角が引き攣ったが、しかしあまり追求してもヴァルメの気を損ねるだけだろうことは分かる。取り敢えずはそのまま流されることにした。


「これから?」


「そう。私達アースフィルムまで一緒に行動するでしょ? だったら今のうちに、色々考えておかないと」


 「ああ」と、納得のいった様子の表情を浮かべるヴァルメ。


「そんなことも言ってたわね。けれど今は、それよりも優先することがあるわ」


「……ホークと話すこと?」


「違う」


 ヴァルメは一瞬目を細めてアリスを睨んだが、咳払いを挟んで表情を元に戻す。


「グリムのことよ。特にあの、一度ファルを助けた彼。昨日聞いた話だと、名前はバッシュだったわね。彼はグリムの中でも上の立場だったみたいだから、知ってることも多いはず。まだたくさん聞かなきゃいけないことが多いし、勿論その処遇も考えないといけない」


「そっか。確かにやることはいっぱいあるよね。あれ、でもさっきまでホークと」


 ハンナが、余計なことを口走りそうになったアリスの腕を引いてそれを黙らせる。


「じゃ、じゃあ取り敢えずザグロさんのところに行きましょ。ほら、急いで急いで!」


 ハンナに急かされてヴァルメは外へ出る。アリスが少し不満そうな顔をハンナに向けていたが、こちらも押し出される形で外へ出された。


「じゃあ、僕はこれで……」


 ファルが手を振って三人を見送る。アリスとハンナは気まずい雰囲気に巻き込んだことを彼に身振りで詫びてから、別れを告げた。


「ありがとうね、ファル」


 ファルの家から離れ、三人がザグロの元へ向かっていると、後ろから誰かに呼び止められた。ロイドである。


「よう、ちょうど良かった。三人とも、今時間あるか?」


「うーん、今私達ザグロさんに会いにいくところで……」


 アリスの返答に対し、ロイドは強い力で手を叩く。大きな音が鳴り、三人の肩が小さく跳ねた。


「じゃあ尚更丁度いいな。長は今グリムのところにいるんだ。それで、お前達の意見も聞きたいってよ」


「ああ、うん。分かった……」


「ねぇ、一々騒音出すの辞めてくれないかしら」


「まぁまぁ、ヴァルメ。ほら、色々話が終わったらまたホークとお話しできるわよ」


「子供扱いしないで!」


「あ、ごめん」


 今度はハンナが失言する番であった。


「何やってんだ? お前ら」


「あー……何でもないよ! ほら、行こ」


「おう、そうだな」


 三人はロイドに連れられて、少し大きめの建物の前までやってきた。外観を見るに古いもののようだ。


「ここにグリム達がいるの?」


「ああ、しばらく使われてなかった小屋だ。グリム達のほとんどはここで捕まえてる。もちろん見張もついてな。けど今はこっちじゃあなくて、あっちの小さい小屋だ」


 ロイドの指差した方向には、確かに小さめの建物があった。こちらはそこまで古くないようである。


「長がいるのはこっちだ。あの強いグリムも一緒にな」


 ロイドが戸に手をかけようとしたのとほぼ同時に扉が内側から開き、ザグロが顔を覗かせた。彼はロイドの後ろにいる三人を見て、笑顔を見せる。

 

「おお、来たか。思いの外時間が掛かっていたから、今探しに行こうとしていたところだ。さ、入ってくれ」


 建物の中は外観同様、それほど古いような感じはしなかった。ただその奥に目を向けてみれば、バッシュが後ろに手を縛られ鎮座している。当然ながら暗い雰囲気だ。アリスは前に出てバッシュのそばまで近づいた。


「えーと、昨日会ったけど、覚えてる?」


「当然だろう。殺されかけた相手の顔を忘れるほど馬鹿じゃあない」


「う……まあ、そうだよね。でも、私もあなたに謝る気はないから」


「別に恨み言をいってる訳じゃないさ。オレ達が戦いを始めて、そして負けた。それだけだからな。好き勝手に生きるのが魔族だ。オレはもちろん他のグリム達も、後悔や恨みはないだろう」


「そう……」


 アリスは釈然としない気持ちを抱きながらも、大きく息を吐いて冷静さを崩さないよう努めた。取り乱すほどではないが、やはりグリムが目の前にいるというだけで、心臓がいつもより激しく鳴るのだ。アリスの後ろからは、ハンナが手を少し上げて気まずそうな笑顔で挨拶する。そんな二人を他所に、ヴァルメはザグロに声を掛けた。


「ザグロさん。私達を呼んだのは多分、彼の処遇の話をするためよね?」


「ああ、そうだ。我々でも昨日話はしていたんだが、旅をしていて見識も深いだろうあんたたちの意見も聞きたくてな」


「見識が深い……?」


 ヴァルメの視線がアリスに向く。


「な、なんでこっち見るの……」


「……まぁ、いいわ。確かに私も、旅する身として言えることがあるかもと思っていたし。でもその前に、彼から話を聞いておきたいのだけど。いいかしら?」


「ああ、勿論だとも」


 ザグロの快諾を得て、ヴァルメはバッシュの方へと体を向けた。

 


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