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第四十七話 休息

 ザグロと合流したアリス達は、そのまま何事もなくナルアラに帰ることができた。集落で待っていた人々から歓声で迎えられた後は、全員一度休息を取ることになった。戦いで皆疲弊していた上に、怪我を負ったものも多い。

 その夜、アリスとハンナは向かい合って、一つ考え事をしていた。ヴァルメのことである。


「ねぇ、本当に言わなくても大丈夫なの?」


 少し心配そうな表情を浮かべるハンナ。ヴァルメの首元に見えた印。シリスの力を継いだ証を彼女が持っている事は分かったものの、それをヴァルメ自身に伝えるのは避けようと、アリスは言うのだ。


「うーん。やっぱりいきなりそんな話したら、ちょっと怪しいでしょ? 変なこと言ってると思われたちゃったら、アースフィルムまで一緒に行ってくれるかも分からなくなるし。ヴァルメは最初からアースフィルムまで行くつもりみたいだしさ、無理に話す必要はないんじゃないかな?」


「うーん、まぁね……。それとさ、このままヴァルメとアースフィルムまで行くとして、家族やみんなのことはどうするつもり?」


 首を傾げて質問するハンナに、アリスも首を傾げる。脈絡もなく言われたので、理解に時間がかかった。それからすぐに、口を大きく開く。


「あ、そうじゃん! 私アースフィルムへの当てが見つかったからって浮かれてた……。そっか、アースフィルムに着く前にみんなの事探さなくちゃ……」


 アリスの頼りない様子に、ハンナは頭を押さえる。ハンナ自身分かってはいたが、アリスはどうにも考えが一直線になりがちである。


「うん……まあ、薄々そんな気はしてたけど。それでもこの先、こんなチャンスもそうそう回ってこないでしょ。どうする?」


「それはそうだけど……。けどみんなのことも確認したいし……」


 どちらがより優先すべきなのか、悩むアリスにハンナは息を吐いて笑う。


「まあ、こっちの方がアリスらしっか。私の体感だけど、今私たちの居た村をぐるっと回り込む形でここまで来てるはず。それでヴァルメが向かうアースフィルムの方向を考えると、丁度村の周囲を周る感じになるんじゃないかしら。とりあえずそれで何か分からないか様子を見ましょ」


「……そうだね。でもここまで来てみてザグロさんもそれらしき人は見てないみたいだし、本当にみんなどこ行っちゃったんだろう」


 二人とも、村の人達を心配する気持ちは一緒だ。何の手がかりも見つからないことに、よりいっそう不安は増す。


「それに加えて明日になれば捕まえたグリムの事とかも考えないといけないし、とりあえずはそっちを優先するべきかも。はぁ、考えることが多いわね」


 溜め息混じりに上を向くハンナ。それから欠伸をして寝る体勢をとった。そんな彼女の様子を見守りつつ、アリスは思いを巡らせる。ヴァルメのこと。捕まえたグリムのこと。しかしその不安はなによりも、もっと遠くにあるような気がした。村の人達への心配だろうか。自分の力への疑心だろうか。

 ただ、やはり今そんなことを考えていてもどうしようもない。ハンナに倣い、アリスもまた今日のところは寝ることとした。横になり、微かばかりの声色で呟く。


「おやすみ、ハンナ」


「ん、おやすみ」



 翌日、朝早くから二人はヴァルメの元へと足を運んでいた。印の件とは関係なく、今後の話をするためである。グリムとの戦いを前にしていた時はアースフィルムの話は出来なかったし、昨日は疲れも溜まり、お互い帰ってからは身体を休めることを優先していた。


「けどさ、今ヴァルメどこにいるんだろ?」


 周囲に目を走らせながらも、アリスは困ったというように腰へ両の手を当てる。


「うーん、ほんとに見当たらないわね。別に広い場所じゃないのにここまで見つからないんじゃ、どこか屋内にいるのかも。まだ寝てるとか」


 ハンナが言い終わらないうちに、唐突にアリスが遠くの方へと大きく手を振った。ハンナは少し驚いたが、そちらに目を移せばファルの姿が見えた。ファルもそれに気づいた様子で、彼女達の元へと駆け寄る。ファルの挨拶に、二人も「おはよう」と返す。「それでさ」と続け、アリスはファルに問いかけた。


 「ヴァルメ知らないかな? 今探してるんだけど、見つからなくって」


「ああ、ヴァルメさんなら多分、今僕の家に居ますよ。朝にグリムの拠点でのこととか、色々と聞きに来て。僕はその後外に出たんですけど、少し疲れたから僕の家で休ませてもらうって言ってました」


「そうなんだ。ありがと。ファルの家だね。あれ? でも、ファルってどこに住んでるの?」


 頭を掻きながらも顔を綻ばせ、ファルは「こっちです」と指を示してそちらへ歩き始めた。二人もそれに続いて、ファルへと手をあわせて礼を言う。


「ありがとう! いやあ、なんだかいつも道案内させちゃってるような気がするね」


 アリスの言葉を聞いて、ハンナも確かにそんな気がしてきた。特に意識していなかったため気にしていなかったが、考えてみれば少し可笑しくて軽い笑い声が込み上げる。


「最初に会った時も、ファルに案内されてナルアラまでこれたのよね。もしかしたら、ファルは道案内の星のもとに生まれてきたのかもね」


「ハンナ。なにそれ。そんな星があるの?」


 白けたアリスの反応に、ハンナが憤ったような様子を見せる。


「あんたが最初に言ったから私もそれに乗ったんでしょ!? 分かりなさいよ! ちょっと場を和ませようとしただけじゃない!」


 詰め寄るハンナに対して、アリスは悪びれる様子もない。元々ハンナがこういった反応をする時は、本人もそう悪い気はしていない。最近は張り詰めていたが、やはりこちらの方が自分達らしいと、心が少しばかりほぐれた。


「いやでも、ファル。道案内の星のもとに生まれたんだってよ。道案内の星……いだっ!? ちょっと! ハンナ、力強くなってるんだから、叩くなら加減してよ!?」


「知らないわよ! あんただって強くなってるんだから平気でしょ!」


「暴論すぎる!」


 ふとアリスがファルのほうを見ると、彼は困ったように苦笑を浮かべていた。完全に二人のノリに置いて行かれている様子だった。


「あ、ごめんごめん。私達ちょっと騒ぎすぎてたね。ほら、ハンナも!」


「私!? 第一これはあんたが!」


 アリスが冗談半分にハンナの頭を押さえて謝らせようとするのを、ファルが手で制止した。


「大丈夫ですよ。二人がこうして明るく振る舞ってくれてると、なんだかこちらも気持ちがいいので。今まで色々大変だったけど、なんだか救われます」


 呆気に取られる二人だったが、そう言われると照れ臭さもある。結局二人の悪ふざけはそこで一旦途切れた。「そういえば」と、アリスは話題を変える。


「ヴァルメ、どうしてファルの家で休むんだろ? 自分が休む場所はあるはずだよね?」


「あ、それ私も思ってた。まぁヴァルメのことだから、やましいことは別にないと思うけど」


 そんな話題が膨らまぬ内に、ファルの家に到着した。


「ここです。さ、入ってください」


 ファルに連れられて二人が中へ入ると、ヴァルメの姿が見えた。どうやら彼女は三人に気づいていないらしく、背を向けている。自分たちがあまり音を立てなかったからかとアリスは思ったが、彼女が目の前のものに集中しているが故であることはすぐに分かった。


「ほら、もう一回言ってみなさい。おはよう」


「オハヨー、オハヨー」


 ヴァルメの視線の先には、ファルと共に暮らしているオウム、ホークの姿があった。ホークが文字通り彼女の言葉をオウム返しすると、指先でホークの首元をさする。


「偉いわね。じゃあほら、今度こそ私の名前。ヴァルメって言ってごらんなさい」


「ヴァルメ……」


「そうそう! ヴァルメ……って……え」


 何故か後ろから聞こえてきた自分の名前に、彼女は勢いよく振り返った。見開かれたヴァルメの瞳と、薄く細められて困惑が滲み出るアリスの瞳が交差した。



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