第四十一話 ヴァルメ対オロバ
グリムの拠点にて、オロバは襲撃への対応に頭を抱えていた。元々奇襲を受けた時点で形勢は良いと言えなかったが、何よりもオロバの言葉を聞かずに先行したグリムが多かったのだ。
「あの馬鹿どもめ。敵に誘き寄せられている可能性も考えんのか。奴らが無事に帰ってくるのは期待せん方がいいだろうな。おい、今どのくらい残ってる?」
「ああ、さっき確認したら十二程度は……」
その返答に、オロバは舌打ちする。
「かなり持っていかれたな……。すぐに次が来るはずだ。警戒を怠るな」
オロバ達が待ち構えていると、すぐにその時は訪れた。
「来たぞ! 人間どもだ!」
怒声と共に角笛が辺りに鳴り響き、すぐにそれは戦いの騒音へと変わった。アリス達がグリムの拠点内へ押し入り、グリム達との交戦が始まる。全員が必死に武器を振るう中、その内の一人がオロバに対して刃を向けた。グリムの支配から逃れるため、その一心で目の前の敵に全身全霊をぶつける。
「グリム! 俺たちの生活を返してもらうぞ!」
しかしその決死の攻撃に武器同士がぶつかることはなく、オロバが持つ斧の一振りでその男は吹き飛ばされた。あたりに血が舞う。あまりに理不尽にも思えるその強さを前に、アリス達に衝撃が走る。しかし同時に、そのグリムこそがこの集団のリーダー格であるのだと、直感的に分かった。
オロバの存在と脅威はヴァルメが事前にバッシュから聞き出していたため、警戒していたのだ。すぐさま手筈通り、ヴァルメがオロバの方へと足を早める。それを遮ろうとするグリムは、アリスとハンナが止めて道を開いた。ヴァルメの槍が、オロバに向けて突き出される。だがヴァルメの攻撃にもオロバは動揺を見せない。少ない動きでそれを回避すると、斧をヴァルメの首元に向けて全力で振るった。ヴァルメは服の袖部分を凍らせて硬度を上げ、斧がそのまま掠めるようにして受け流した。ヴァルメは一度オロバから距離を取り、服全体を凍結させて防御を固める。周囲には冷気が立ち込め、温度の急激な変化はオロバにまで届いた。
「体力の消耗なんて考えてる余裕のある相手じゃないみたいね。もっともこれぐらいじゃあ、気休め程度の効果しかないかもしれないけれど」
「なるほど、顕現持ちか。当然だが、勝算なく攻撃を仕掛けてきた訳ではないようだな」
オロバはヴァルメの能力を見て冷静に分析する。彼はバッシュを含む他のグリムとは違い、顕現を持った人間と相対するのは初めてではなかった。
お互いに警戒を崩さず睨み合いが続く中、先にオロバが強く地面を蹴った。そのまま斧を下に振り下ろし、重い一撃が放たれる。直線的な動きであるものの、それ故に速い。その一撃にはオロバのとてつもない膂力、そしてそれに対する強い自信が見て取れた。この絶対的な力を乗せた攻撃を、ヴァルメは躱した。オロバの目に驚愕の色が浮かぶ。オロバは先程の立ち回りで、ヴァルメの身体能力を測っていた。そしてその結果、ヴァルメはこの攻撃を避けられないだろうと踏んだのだ。にも関わらず外された。これはオロバからしてみれば、驚きでしかなかった。
だが、オロバの読み自体は間違っていない。なにもヴァルメの身体能力が飛躍的に上がったわけではなく、彼女はオロバの攻撃を読んだのだ。最初の踏み込みから既にオロバが仕掛けてくる軌道を予測し、そこから身体を逸らした。こんな芸当ができたのは、ヴァルメの能力があってこそである。彼女から放たれる冷気は、自身までその流れを伝える。そのためオロバの全身の動きまで肌で感じ取ることができ、次の動きを予測することができたのだ。しかしそれを踏まえても、非常に高い技量が要求される。そう何度も成功するものでもない。オロバの実力を見た時点で、ヴァルメは短期決戦を覚悟していた。そして一突きに賭けて槍を突き出す。冷気を帯びた槍先が、オロバの喉元に迫った。




