第三十六話 奇襲作戦
「行くぞ!」
ザグロの号令により、戦いの幕が開けられた。アリス達を含んだ十数人が、猛烈な勢いのままグリムの拠点へ一気に攻め込んだ。
突然の襲撃、グリム達に動揺が広がる。防壁として柵を組まれてはいたが、勢いのままに破壊して突き進む。彼らが状況を掴めていない内に、集団は拠点内へなだれ込んでいった。その有様はまるで、坂を下る激流かの如き侵攻であった。
「おい! なんだ!?」
「人間共だ! 見張りは何やってんだ!」
グリム達の動揺は未だ収まらず、狼狽えるものも少なくなかった。その隙に乗じて、アリス達はグリムを次々と攻撃し始める。そのタイミングでようやく、敵襲を知らせる角笛が響いた。見張りのグリムがようやく状況を把握したのだ。対応が遅れているうちに、多くのグリムが犠牲となっていた。高台から拠点を事前に見ることができたため、アリス達は上手く見張り台からの死角になりやすい位置から攻め込むことができたのだ。そもそもグリム達は人間側から攻められる可能性はあまり警戒しておらず、その点も僥倖であったと言える。
アリス達が次々とグリムを戦闘不能にしていくが、次第にグリムも体制を立て直し、戦いは徐々に均衡に向かいつつあった。そんな状況下で、ハンナは一人アリスの様子に不安を感じていた。憎しみが完全に癒えたわけではないのだろう。アリスの顔には深い焦燥と憤りが見えた。
「アリス、……さっきからなんだか焦りすぎてるんじゃない? 戦い方がいつもより雑だし、辛いのは分かるけどここは戦場よ」
「……それはっ――」
「アリス、今は冷静に行動するべきよ。みんなが一つになって戦ってるんだから、あんた一人が感情に任せて動いたら……」
「分かってるってば」と一言残し、アリスは再び戦線に戻る。
「アリス!」
ハンナの心配を他所に、戦闘は苛烈さを増していく。ハンナも思いを振り切り、目の前の戦いに集中するしかなかった。
しばらく交戦が続いたタイミングで、ザグロが撤退を叫んだ。その声を聞いて集団はみるみる内に後退を始める。
「おい、あいつらもう逃げ始めたぞ」
「所詮人間、大した力もないくせに俺たちに反抗しやがって。追え! 逃すな! 皆殺しだ!」
戦線から退いていくアリス達に、グリムは勢いよく追撃を仕掛ける。ここまでは当初の予定通りである。一行はグリムを引きつけつつ、列を乱さぬように退却していく。
「アリス、少しは落ち着いた?」
「私はずっと平気。そんなことより、このままうまくいくかな?」
話を逸らされてハンナはもどかしい気分もあったが、取り敢えずは触れないでおくことにした。気にかかるが、やはり今は深く追求している場合ではなかった。
「そうね。ここまでくれば、もうヴァルメ達が動くだけだから、一旦は成功と見ていいんじゃないかしら。こうも上手くいくとは思わなかったけど、まあ所詮魔物は魔物ってところかしら」
アリス達の作戦では、一度奇襲でグリムに痛手を与えた後撤退し、それを追いかけてきた者たちをヴァルメ、ロイドを含んだ少数精鋭が挟撃に持ち込むという流れであった。そのために、潜伏しているヴァルメ達の方へ進んでいるのだ。距離はもう目と鼻の先であった。




