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第二十九話 集落ナルアラ

  ハンナとアリスは少年に案内され、森の中を進む。道中で魔物に襲われることもあったが、苦戦することなく撃退できていた。


 「もうすぐ集落に着くはずです」


 少年が振り返る。少年に語りかけようとして、アリスはその少年の名前をまだ聞いていなかったことに気がついた。


 「そういえば名前、聞いてなかったよね。何ていうの?」


 「ファルといいます。今目指してる集落の方は、ナルアラという名前です」


 アリスの問いかけに、ファルがそう答えた。


 「そっか」


 次に、アリスの目線がオウムの方へ行く。


 「オウムの方は? ナルアラではみんな、そんな風にして飼ってるの?」


 オウムは不思議そうに首を傾げる。アリスもつられて首を傾げた。


 「ホークって言います。ホークは怪我をしていたところを僕が手当をしてしばらく保護していたら、懐いちゃって。それからずっと一緒だったんです。僕が捕まってる間、どうしてるか心配だったんですが、無事でよかった。」


 ファルは自身の肩に乗るホークに目をやり、笑みを見せた。心底安堵している様子である。アリスとハンナにとっても、それは不思議と心が暖かくなる光景だった。


 「あ、見えました。あれがナルアラです!」


 ファルが指差す方に、民家が幾つか建ち並んでいるのが見える。あまりしっかりとした居住地とはいえないまでも、建物をようやく見られて、二人はとりあえず胸を撫で下ろした。そのまま近づいていくと、一人の声に呼び止められた。


 「お前、ファルか!?」


 3人が振り返ってみれば、一人の男が口を開けてファルを見ていた。ファルの知り合いだろう。彼の目の前に、とても信じられない光景が広がっているといった顔だ。


 「ロイドさん!」


 ロイドと呼ばれた男は、我に返ったように表情を戻す。すぐに喜びの滲む顔でファルの方へと歩いてきた。


 「よかった。無事だったんだな! それにしても、どうやってあいつら魔族から逃げてきたんだ? 他の奴らは? あと、そっちの二人は?」


 ロイドが嬉しそうにファルへと話しかけるが、矢継ぎ早に質問が飛んでくる。


 「ああ、ええと。実は」


 「いや、話は長のところでいい。こっちだ」


 そう言ってロイドは先に進んで行く。最初は質問の多さはそれだけ驚いているからだと二人は思っていたが、どうやらそれだけが問題ではないらしいことを察した。


 「なんだか、忙しない人ね」


 ロイドを見て、ハンナがそう溢す。アリスとファルも頷いた。


 ロイドの案内で、三人は一つの家の前にたどり着いた。他の家に比べると整った印象がある。


 「ここは?」


 アリスが質問する。ここにくるまでほとんど、何の説明もなかった。そのままロイドが歩くのについてきた形であった。


 「この集落の長が住んでるんだ。取り敢えず状況の報告を頼む」


 「私たち初めてここに来たのに、そんな偉い人に会っても大丈夫なの?」


 「大丈夫って?」


 ハンナの話に、ロイドは首を傾げる。


 「いや、この村の状況もあまり良くないみたいだし、新参の私達はもうちょっと警戒されないのかなって」


 「そうか? まあ、別に大丈夫だろ」


 アリスが顔を引き攣らせてファルを見る。


 「なんだか、すごい人だね……」


 「いや、でも悪い人じゃないんですよ!」


 「ほら、早く来いよ」


 ロイドは三人の様子に構うことなく、ドアを開けて家に入っていく。


 「あ、ちょっと!」


 三人も続いて家に入ると、初老の男と少女の姿が見えた。少女の方はこの気候に合わない、厚手のコートを着ている。


「あれ、取り込み中だったか?」


 ロイドの言葉に二人が振り返った。男は怪訝な顔で睨んだ後、後ろから入ってくる三人に気づき、驚きの表情を浮かべる。


「ああ、後にしてくれ……ん? お前、ファルじゃないか! まさか、逃げてこられたのか?」


 男がファルに歩み寄る。つい先程とは声の調子もその剣幕もかけ離れている。よほど動揺しているようであった。魔族に攫われた子供が一人帰ってきたのだから無理もないが。少女の方も男の様子に戸惑っている様子であった。


「なんだか急用みたいなので、私はここらへんで」


「あ、ああ」


 男の様子に気を遣ったのか、コートの少女がそう言って家から出て行く。男はそれを見送ってから、アリスとハンナの方へ視線を移した。


「あんたたちは?まさか、あんたらがファルを助けてくれたのか?」


「いえ、私たちは……そう言えば、ファルのことは誰が助けてくれたんだっけ?」


 アリスがファルへと尋ねる。アリス達もファルがなぜ逃げてこられたかは知らなかった。ファルが一瞬躊躇するようなそぶりを見せた後、話を始めた。


「実は、僕を助けてくれたのは、僕を捕まえた魔物たちの内の一人だったんです」


「え?」


 アリスが驚いて口を開ける。アリスだけではない。その場の全員、信じられないという様子だ。当たり前である。魔物が人を助けるというのは、この場の誰も、考えたこともなかったのだから。どんな時と場合においても、人を乱し奪う者。それがこの場の全員から見た魔族に対する総意であった。


「ど、どういうこと? 自分で攫って、自分で逃したっていうこと?」


 自身で言いながら、その支離滅裂な内容にアリスはさらに混乱する。


「い、いえ。多分村を襲った魔物の中にはいなかったんですが、あいつらの仲間だったんだと思います。それに、僕が捕まっている時にも何度か庇ってもらって……僕だけじゃなくて、ほかの人達も」


「なるほど……」


 なんとも釈然としない気持ちを三人とも抱いたが、その場では深く聞かなかった。当のファル自身、まだ困惑している様子なのだ。これ以上聞いても困らせるだけだろう。男が思い出したかのように話を変える。


「ああ、そういえばあんたらは?今の話には出てこなかったが」


「あ、私たちは途中でファルと会って。こっちがハンナで、私はアリスって言います。」


「そうか、私はザグロ。この集落の長だ」


 先程は少し動揺した様子であったザグロだが、少し落ち着きを取り戻したようであった。ザグロは二人を測るように交互に観察する。そこへファルが前に出た。


「ザグロさん、二人ともすごいんだよ! ここに来る中で襲ってきた魔物達、全部返り討ちにしちゃったんだから!アリスさんなんて、体から電気を出せる不思議な人なんだ!」


「電気? ほう」


  ザグロが目を見張ってアリスを凝視する。突然ザグロからの関心が高まり、アリスも目を逸らしそうになってしまう。


「その力、ちょっと見せてくれないか?」


「え? は、はい」


 言われた通りに、アリスは自身の手の上で軽く電流を流す。高い音と共に一瞬の光が走る。ザグロの視線が、痛くなるほどアリスに向けられた。


「やはり、君もヴァルメ殿と同じなのか」


「ヴァルメ?」


 聞きなれない名前に、アリスが聞き返す。


「ああ、先程私と話していたのがヴァルメ殿だ。ほら、あの暑そうな服を着た。彼女もまた、君と同じように特殊な能力を持っているんだ」


 それを聞いて、アリスは先ほどのコート着た少女を思い出す。彼女もまた、アリスやセリーナと同じ、能力を持ったもののようである。


「へー、あのこが……」


「そうだな……そういうことなら、一つ頼み事をしてもいいか?」

 

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