第十八話 悪夢への抗い
「そろそろ、あれを出しましょう!」
セリーナの言葉で、村人達が動き出す。弓を打っていた者たちが下がり、大砲を前に移動させる。ある程度体力を消耗させたところへと大砲を撃ち込む。それが大砲を確実に当てられる様にする一つの方法であった。しかし、これだけでは不十分だ。
「準備できました!」
村人の一人がそう叫んだ。その声で、アリス、セリーナ、ゲルグルドが移動を始める。セリーナを守る様に二人が前に並ぶ。後ろから二人へと大きな盾が投げ渡され、二人が受け取った。
セリーナが目を瞑り、集中する。彼女が目を開けたと同時に、猛炎がナイトメアの視界を包む。視野を奪われたナイトメアが炎の渦から出ようともがくが、炎はナイトメアを包んで離さない。
「やった! 上手くいってる!」
「油断するな、ここからだ。」
握り拳を作って喜ぶアリスだったが、ゲルグルドに注意を促されてすぐに気を取り直す。
ナイトメアの動きが止まった。かと思えば、高速で回転を始めた。その勢いで大量の針が無作為に乱射された。
「来るぞ!」
ゲルグルドの言葉と同時に、おびただしい数の針が押し寄せた。それを二人が盾で守る。
ここまでは作戦通りであった。ナイトメアがセリーナの炎で視界を失い、我武者羅に針を飛ばし、動きが止まったところならば大砲を当てられるはずであった。しかしこれを成功させるには、炎に集中して無防備のセリーナを守らなければならない。ナイトメアの飛ばす針自体に強い殺傷能力はないが、霧と同じように人を眠らせる効果がある。それに、この量の針をまともに受ければいくらなんでも命に関わる。
止まらない針の雨が横殴りに盾を殴りつける。アリスは全身に電流を流し、それを耐えていた。もしも後ろに控えるセリーナに針が当たれば、砲弾を当てる手立てがない。
切迫した緊張感の中、突如として耳をつんざくような轟音が鳴り響く。アリスはその音に一瞬怯んだ後、大砲が発射されたのだと理解した。
「あ、当たったの? どうなってるの?」
アリスは盾を構えているため、ナイトメアの方がどうなっているのかが見えないのだ。しかし、針が盾を打ち鳴らす音がまだ止む気配のないことから、外れたのだろうと察する。
「すみません! 敵が動いたため、外してしまいた!」
一人の村人がそう伝えた。
「う、動いた……?」
場の雰囲気がさらに緊迫感を増した。この作戦はもともと、ナイトメアが針を飛ばすためには動きを止めなければならないという前提で立てていたものである。ナイトメアが針を飛ばしつつ移動できるとなると、大砲を当てる難易度は一気に跳ね上がってしまうのだ。
「うそ……どうしたらいいの?」
アリスの盾に当たる針の勢いが増していく。じわじわと、ナイトメアが近づいてきているのだ。ナイトメアの気配が、すぐそこに感じるまでになった。
「おいお前らぁ!」
ゲルグルドが、大砲を撃つ村人達へと叫ぶ。
「俺が一瞬の隙を作る! 躊躇わずに撃て!」
大声でそう告げると、ゲルグルドは盾を前に突き出したまま突進した。
「ゲルグルド!」
「ゲルグルドさん!」
盾で防ぎきれない箇所に針をくらうが止まらない。視界を失ったナイトメアが、突然のゲルグルドの突進に対応できず体勢を崩した。
ナイトメアはすぐさま霧を出すが、それと同時に先程の轟音が鳴る。ナイトメアの体で爆発が起こった。砲弾が当たったのだ。