第十七話 決戦前の会話
ナイトメアとの戦闘を控えた前日、アリスとハンナ、セリーナは部屋で顔を合わせていた。ナイトメアを倒す方法について考えているのである。
「うーん。威勢よく私も戦うって言ったは良いものの、何も思いつかない……」
腕を組んで頭を悩ませながら、アリスはそう言う。そんなアリスを横目に、ハンナも不安の言葉がもれる。
「セリーナさんの炎が決定打にならないとなると、私達に取れる手ってあるのかしら。弓矢も大きなダメージにはなりそうにないし……」
悩む二人であるが、セリーナの表情からは悩みの色は見えない。それに気づいたアリスが、訝しげに彼女へと尋ねる。
「あの、セリーナさんさっきから私たちが悩んでるの楽しんでません? 心なしかニヤついてる様な……」
「あら、バレちゃった?」
セリーナが申し訳なさげに笑顔を浮かべた。
「バレちゃった? じゃないですよ! 村の一大事なんですから、セリーナさんも何か考えてください!」
アリスがセリーナを非難すると、彼女は笑顔のまま弁明する。
「ごめんなさいね。私は一つ考えがあるのだけれど、何か他にいい案があればなって」
セリーナは「あと、二人の悩む顔が可愛くてつい」と、悪戯っぽい笑みを浮かべて付け足した。
「そっちが本当の理由じゃないですよね……?」
アリスがジトっとした目つきで言う。
「うふふっ」
「うふふっ、じゃないですよ!」
一通りやりとりが終わるとセリーナは立ち上がり、ドアへと進んだ。
「じゃあついてきて、私の考えを見せるわ。」
「それって今用意してる、熱に強い縄と関係あるんですか?」
「それとは別よ」
アリスとハンナは顔を見合わせた後、セリーナへとついていく。
セリーナが二人を連れてきたのは、倉庫の前であった。
「倉庫?」
「えっと、ここにナイトメアを倒せるものがあるんでしょうか?」
戸惑うアリスとハンナへと、セリーナは「そうよ」とだけ伝える。セリーナが倉庫を開けると、二人が見たことのない筒状の物体が姿を表した。
「わぁー、何これ!」
「金属製の筒? 車輪がついてるわ。こんな大きなものを動かすの?」
驚く二人を見て、セリーナが得意げな顔を見せる。
「大砲よ。」
「「たいほう?」」
聞き慣れない言葉に、二人が聞き返した。
「前にうちの村に行商人が来たことがあってね、その時に購入したのよ。発展した都市では重宝されてるそうよ」
アリスたちの村にも行商人が来ることはあったが、このような物を二人が見たのは初めての経験であった。
「これって、どうやって使うんですか?」
「中に弾を入れて、そこの縄に火をつけると弾が撃ち出されるって仕組みよ」
ハンナの質問にセリーナが答える。
「へぇー、すごい! 一回撃ってみても良いですか?!」
「ダメよ」
アリスが目を輝かせて聞くが、すぐに否定されて肩を落とす。アリスの落ち込み様を見て、セリーナが説明する。
「いや、ごめんなさい……。そんなに落ち込むとは思わなくて……。ええとね、行商人から大砲を買ったはいいものの、砲弾が全然買えなかったのよ。だからまだ一度も使われてないわ。」
セリーナの話にアリスは納得するが、次はハンナが疑問を呈した。
「それじゃあ、これが本当に使えるかは分からないんじゃ……。」
「それは大丈夫よ。流石に購入前に試させてもらったわ。お陰で砲弾はひとつ減ったけど」
セリーナが当然だという様に笑った。
「それで、これならナイトメアを倒せるんですか?」
ハンナの言葉に、セリーナが頷く。
「ええ、多分ね。私も、これの威力を初めて見た時は驚いたわ。これならナイトメアに大きな手傷を負わせられるはず」
セリーナが言葉を続ける。
「ナイトメアの厄介なところはあの膜のような外皮よ。あれさえこの大砲で剥がせれば、私たちの攻撃もあの化け物に通用する」
アリスの電撃も、セリーナの炎も、ナイトメアの硬い外皮には相性が悪かった。それを大砲の威力で無くそうという狙いである。
「じゃあ、これさえ当たればナイトメアを倒せるってことね!」
アリスがそう言うと、セリーナが真剣な表情を浮かべた。
「ただし、砲弾はたったの三発よ。これを外したら、私達に決定打を与える方法は無くなる。」