第十四話 セリーナの頼み
「あの、話って……?」
アリスがセリーナへと尋ねる。今二人は家からでて、あまり人気のない場所に来ていた。
「ええ、ちょっと頼みたいことがあって。」
「頼み?」
聞き返すアリスへと、セリーナがぎこちなく微笑む。
「けどその前に、話をしていいかしら。ナイトメアについて」
セリーナの言葉に、アリスは息を飲んだ。
セリーナの過去にナイトメアとの因縁がある事は一度聞いていた。改めてこういった形で話すからにはただ事でないのだと、そう感じたのだ。
セリーナは一度息を整えてから、話し始めた。
「あいつはね、私の故郷を一度壊してる。それで私が唯一の生き残りってわけ」
セリーナの言葉は、アリスも概ね予想していたものであった。アリスが魔族に村を追われたように、彼女にとってのそれがナイトメアだったのだ。続く彼女の言葉を、アリスは沈黙して待つ。
「能力が発現したのもその時。だけどあいつには通じなくて、そのときにシリスが助けてくれたの」
「そうだったんですね……」
しばらく続いた沈黙を、セリーナが手を叩いて打ち消す。
「まぁ、それはいいとしてね。そのときにシリスがあいつと戦ったのも少しみてたの。彼女は一緒にいた人達と戦ってたのだけど、少数が後ろに回ってナイトメアを攻撃してた。あいつの針は遠くに飛ばすほど勢いが落ちるみたいで、後ろで攻撃してた人達は安全に戦えていたわ」
シリスは危険な冠災を相手にして、それでも苦戦をせずに勝ったのかと、アリスは衝撃を受けた。直接戦ったからこそ、その凄さが身に染みる。
アリスには、シリスがやはりどこまでも遠い存在であるように感じられてしまった。
「けど、今の戦力で上手く立ち回れるんですか?」
アリスが不安げにこぼすと、セリーナがうなずいた。
「そこなのよ、問題は。けど、一つ方法があるわ。それがさっき言った頼みと繋がってくるのだけど……」
セリーナがアリスとじっと目を合わせる。一瞬戸惑うアリスであったが、すぐに決意をかため、セリーナへと目線を返す。
「私にできることなら」
返事を聞いて、セリーナは少し迷うように口を開いた。
「今の戦力で一番速いのはあなたよ。あなたには、私と一緒にナイトメアの注意を引いてほしいの」
驚くアリスに、セリーナは申し訳なさそうに俯く。
「ごめんなさい、確かに危険な役割だわ。でも絶対にあなたを死なせたりなんてしないから。約束するわ。これしか思いつかないの」
縋るように言うセリーナに、アリスはそっと微笑みかけた。
「違うんです。危険だから驚いた訳じゃなくて、少し拍子抜けしちゃって。もちろんどんなに危険な役割でも、元から覚悟してますよ」
「……アリス、ありがとう」
また訪れた沈黙は、先程とはまた違う、それぞれの想いを孕んでいた。