第十三話 男
アリスは一つのベットの前で思考を巡らせていた。ベットの上には、ナイトメアに襲われて倒れていた男が寝込んでいる。村の中でこの男を知っているものはいなかったと、アリスはセリーナから聞いていた。正体の分からないこの男だったが、アリスは何かを男から感じるような気がしたのだ。なにか懐かしいものを。
「私にはハンナがいたけど、この人は……」
現在まわりに知るもののいない男を、アリスはただ見守ることしかできないでいた。
外部からの干渉が悪夢の中でどれほど影響があるのかはわからないが、少なくともアリスはハンナの看病が少なからず自身の覚醒に関わっていたと考えている。そのため、自分がこの男の近くで看病していれば少しは良くなるのではないかと期待を持っているのだ。
それにアリスは、男がナイトメアにやられるまでに間に合わなかったことに若干の後ろめたさを感じていた。
男のうめき声が強くなってきたのをみて、アリスが額のタオルを変える。男の顔の強張りが多少和らぐのを感じた。
看病しながらも、アリスはこの男への疑問を多く抱えていた。とくに、彼が何者であり、なぜこの村の周辺で倒れていたのかが心にどうしても引っかかっていた。
通常、人間の集落から離れれば生きていけるものではない。魔物が多く蔓延っているためである。
人里から離れても生きていけるということは、それだけの強さを持っているという証拠になるのだ。行商人が人を雇って各地をまわることは多いが、この男はそういった風でもない。
何か目的を持って旅をしているのだろうとアリスは一人納得しようとしたが、しかし今度はどんな目的かが気にかかる。
「うっ……うぅ」
男がうめき声をあげて寝返りをうつ。
「えっ……?」
再びタオルを交換しようとして、アリスは硬直した。視線が男の首筋一点に注がれる。アリスの鼓動が脈打つ。
「これって」
男の首元には、アリスと同じような印が刻まれていた。細かくは違うが、ここまで同じ場所に似た印があることは、とても偶然には思えなかった。
アリスのものは月のような形であるのに対し、男のものは丸い形で、どちらかというと太陽のようであった。
「あなたって一体──」
アリスが男へ手を伸ばしかけたとき、唐突に部屋のドアが開かれた。思わずアリスは手を引っ込める。
視線を移したさきには、セリーナが立っていた。
「ちょっと、いいかしら」