第十二話 今後のこと
「良かったぁ! アリス……! 私もう……このまま目が覚めないんじゃないかと……」
アリスが目を覚ましたことを知ったハンナが、アリスへと泣きながら抱きついてそう言った。
「ごめん……でも、ほんとにありがとう」
アリスも涙ぐみながら、返事をかえす。
「村の皆もいきなりあなたが顔を出さなくなったから心配してるのよ。後でちゃんと顔みせにいきなさい」
セリーナがアリスへ言う。最初にアリスが起きたのに気づいたのはセリーナであった。ハンナの目を覚まさないようにしていたアリスに構うことなく、ハンナを揺すり起こしたのだ。
「はい。セリーナさん」
返事をしながら、アリスはハンナの顔色が良くないことに気がついた。そのままハンナの顔を覗き込む。
「な、なに……?」
ハンナが驚いたように訊く。
「いや、なんだか不安そうな顔してたから……」
アリスに指摘され、ハンナは顔をうつむかせる。
「実はね、今村が大変なことになってるの」
ハンナとセリーナから事情を聞いたアリスは、その場で考え込んでいた。
「冠災……? そんな、魔族や天使の他にもそんな脅威があるなんて……」
「魔族や天使よりも厄介かもしれないわね。奴らはただ人間を殺すために行動する。ただそれだけが目的かのように」
セリーナが憎しみの籠もった眼差しで言う。
「……それで、どうするんですか? 戦って勝てるものなんですか?」
「さぁ、でもそれしか道はないわ。逃げても襲われるなら、まだ設備のそろったこの村で奴をどうにかするしかない。私を中心に戦える人員で奴を村で足止めして、そのすきに他の村人たちを逃がすわ。そしてそのまま、決着をつける」
ハンナの問いかけに、セリーナは答えた。
「あなた達はその時に逃げなさい」
「そんな! 私は残ります!」
「アリスが残るなら私だって! それに、この村の人たちにも恩が──」
異議を唱える二人を、セリーナが手で制した。
「逃げる人達の中でも、戦える人材は必要だわ。あなたたちは戦えない人を守りながら、逃げてほしいの」
二人を逃すためにそう言っているのは、アリス達にもすぐに分かった。
「私だって、この村の中ならそれなりに戦える自身はあります。村周辺の魔物に襲われる脅威よりも、足止めをあの冠災が突破してくる脅威のほうがよっぽど高いはずじゃないですか!」
アリスの言葉にハンナも同調する。
「そうですよ、だから私達があいつの足止めに回ったほうが……」
「ハンナはセリーナさんの言う通り、村から逃げる人達を守ってあげて。私がこの村に残るよ」
ハンナの言葉を遮って、アリスはそう言った。アリスも内心、この戦いが危険なのは理解していた。ハンナに前線で戦ってもらう勇気が、彼女にはまだ出なかった。
「え……、でも!」
「お願い。たしかに逃げる時にも戦える人が必要だし、それが一番だと思うの」
アリスは懇願するような目でハンナを見つめる。アリスが狙ってやったわけではないが、ハンナはこれに弱いのだ。それに、アリスの覚悟も感じたのだ。
「分かったわ……けど、絶対に生きて帰ってきてね」
「うん」
ハンナの言葉に、アリスは力強く頷いた。