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第十話 新たな脅威

 「そこで俺は、こう思ったんだ」


 「ハイ」


 「嬢ちゃんはどう思う?」


 「ソレハスゴイデスネ」


 「そうか! なるほどな!」


 「ハハハ」


 ゲルグルドの話から逃げ切れなかったアリスは、その後もずっと同じような話を聞かされるハメになっていた。


 途中から死んだ目で受け答えしていたアリスが、なにか思いついたように目を見開く。


 「そうだ! ゲルグルドさん、ハンナも聞きたそうですよ」


 「えっ!?」


 アリスに売られ、ハンナが非難がましい目を向けるが、アリスは目をそらした。


 「そうだな! 三人、いや、四人で話すか!」


 「「え……」」


 結局逃げられなかったアリスと、突然巻き込まれたセリーナが同時に声を上げた。


 「あっ! こんなところに魔物の血がついてますよ! 縄張リ争いでもしたんできょうか! つ、つよそうだなー!」


 ゲルグルドの気をそらせそうなものを発見したハンナが大袈裟に報告する。


 しかし、そちらに目をやったセリーナは顔を青ざめさせた。


 「これ……人間の血だわ」


 「えっ?」


 全員の顔がこわばる。ここにあるということは、狩りに出た村の人間のものである可能性が高い。


 「セリーナさん、これって前に言ってた………」


 「ええ、そうかもしれない。けど、」


 ハンナとセリーナの会話が終わるより早く、アリスは駆け出していた。


 「アリス!」


 セリーナが呼び止めるが、アリスはすでに身体強化で声が届かない位置まで移動していた。


 アリスはそのまま血を辿っていく。血を流してからも移動を続けていたようで、なかなか血を流した人間のもとへたどり着けなかった。


 アリスがやっとたどり着いた先には、巨大な化け物がいた。顔の中心と思われる部分に大きな目がひとつあり、体中を膜のようなものが覆っている。その膜が帽子や服のようになっており、まるで案山子のような姿であった。


 「なに……こいつ……」


 正体不明の化け物がアリスの方へ向き直る。一つ目と目があったとき、アリスの背筋が凍った。


 今までの魔物などとは格が違うと、そう理解する。化け物の下には、血を流した男が倒れていた。この男がさっきまで探していた人間であることは明らかだったが、アリスはその場を動けなかった。


 化け物が奇妙な鳴き声をもらし、アリスの方へ顔を向ける。化け物の膜の中から、針が数本放たれた。そこでやっとアリスは動くことができた。針を躱し、化け物を睨む。


 「人が捕まってるんだから、ビビっててどうするの!」


 アリスが自分に言い聞かせるように言った。化け物が再度、針を飛ばす。先程よりも遥かに数が多い。先程は本気でなかったのだ。


 「っ……!」


 アリスは身体強化で自身のスピードを引き上げ、針を躱す。アリスがそのまま接近しようとすると、化け物はさらに針を増やして飛ばしてきた。それをまたアリスが躱すと、針の数はどんどんと増えていく。まるでアリスの強さを測っているかのようであった。


 それを続けている内に、化け物のだす針はアリスが避けきれないほどになっていた。躱せない針は電撃で起動を逸らしていく。しかしアリスも、化け物との距離を詰めていた。


 「くらえっ!」


 最後の針を数本くらいながらも手の届く範囲まで接近したアリスは、そのまま化け物へと手を伸ばす。


 その瞬間、化け物から霧のようなものが放たれた。


 「何っ……」


 霧を吸い込んだアリスがその場に倒れる。


 遅れて、セリーナとハンナ、ゲルグルドが追いついた。


 「アリス!」


 化け物の足元に倒れるアリスを見て、ハンナが叫ぶ。


 「あれは……!」


 セリーナは化け物を見てから、二人へと指示をだした。


 「ハンナはアリスたちをお願い、ゲルグルドは私についてきてください!」


 「おっ、おう!」


 初めて見た異形の化け物に怯んでいたゲルグルドだったが、セリーナの声に気を取り直した。


 「あいつは針を飛ばします! 気をつけてください!」


 セリーナが注意を促すと同時に、その言葉通り化け物が針を飛ばした。アリスとの戦いと同じように最初に放った針の量は多くなかった。


 その針をゲルグルドがすべて剣で叩き落としていく。セリーナが化け物へと炎を放つ。しかし、化け物はその場で回転して炎を打ち消した。


 「う、嘘だろ……」


 ゲルグルドが呟く。セリーナの炎を防げるような生物を、彼は初めて見た。一方のセリーナは、ハンナがアリスと倒れていた男を回収するのを確認していた。まるで、自分の攻撃が相手に通用しないとわかっているかのようであった。


 「一度引きましょう! このままでは不利です!」


 セリーナがそう宣言して、三人は化け物から離れた。化け物が追ってくることはなかった。


 


 化け物から逃れた三人は、村への道を急いでいた。血を流していた男をゲルグルドが、アリスをハンナが担いでいる。


 「セリーナ。お前あれを知ってんのか?」


 「……はい」


 ゲルグルドの質問をセリーナは神妙な面持ちで肯定する。


 「あれは、冠災です」


 「なっ……あれが!?」


 セリーナの答えに、ゲルグルドが言葉を失った。


 「冠……災?」


 訊き返すハンナへ、セリーナが説明する。


 「冠災というのは、魔族にも天使にも属さない異形の化け物よ。突然現れて、人間を殺す。ただそれだけが目的であるかの様に。そしてその恐怖を糧にして強くなる。災害の名を冠する者としてそう呼ばれるけれど、そのあまりの強さと神出鬼没な点からその存在を疑う人も多いわ。」


 「そんなものが……」

 

 ハンナは今まで、人間の脅威は魔族と天使だけだと思っていた。しかしその概念が崩れさった今、冠災という新たな脅威が悪魔や天使への恐怖と共に頭の中で渦巻き始めていた。


 「けど、あれが冠災ならどうして俺達を追いかけない?あの場で殺すこともできたんじゃねえのか」


 ゲルグルドが冠災の特性を思い出し、疑問を呈する。


 「いいえ。あいつらの本分はただ人間を殺すことではなく人間の恐怖でさらなる力をつけ、より多くの人間を恐怖の中で殺すことです。あの冠災、ナイトメアは人に悪夢を見せて恐怖を得るのです。そして夢を見せたあとはそのまま住処へとかえし、そこで噂がたてばさらに恐怖は増します。それを続けて、最終的にはその住処を滅ぼす。それがあいつのやり方です」


 「なるほど……。殺すつもりがないから本気で戦わなかったのか。もしかして、最近村の奴らが化け物に襲われて帰ってきて、証言が一つも一致しなかったのもあいつに夢を見せられてたってことなのか? しかしどうして、おまえはそんなにあいつに詳しいんだ?」


 ゲルグルドの言葉に、セリーナは顔をうつむかせた。


 「知ってますよ、勿論。あいつは、ナイトメアは私の故郷を潰した相手ですから」





 

 アリスがナイトメアに眠らされてから、一日が経っていた。未だにアリスは目を覚ましていない。


 悪夢にうなされるアリスの顔を、ハンナが悲しげに見つめる。


 「どう?アリスの具合」


 セリーナが尋ねると、ハンナは首を振った。


 「そう。アリスがなまじ強かったから、ナイトメアも彼女を危険と踏んで他に人達と違って起きられないようにしたのね。私も一緒に看病したいところなのだけれど……」


 「いえ、セリーナさんはそちらの仕事を優先してください。今は村の今後が懸かってるんですから」


 セリーナは今、村でナイトメアへの対策を行っている。村周辺の巡回、村の設備の見直しなどである。村人が移動しようとすれば、ナイトメアがそれを許すはずがない。設備の整った村で、どうにかナイトメアを迎撃するしかなかった。


 「そうね。混乱を増やすわけにはいかないから、一部の村人たち以外にはまだ新しい魔物対策だって伝えてるわ。そういば、アリスと一緒に倒れてた人だけど、一応確認はとったんだけどやっぱり村の人間じゃないわ。彼もまだ起きてないから、アリスみたいに危険だと判断されたのかも」


 セリーナが話すがハンナは答えない。現在彼女には、アリス以外を心配する余裕は持てなかった。


 「早く起きなさいよ……アリス……」


 涙を滲ませる彼女にも言葉を返さず、アリスはただ悪夢にうなされるばかりであった。


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