事後処理、お手伝い
久しぶりに、一お兄様の車で移動。
一お兄様は、いつも通り、気持ち良さそうに運転なさるけれど……やっぱり、オープンカーは寒いですわ。
暫くすると、見覚えのある景色。
また、芝浦の倉庫街。
泰晴叔父様の元に届いた匿名の封書には、有る住所が示されていたという話。
そして、そこに、大使館の事件の真相の一部が有るとも。
到着すると、ある倉庫の前に、腕章を巻いた憲兵の姿が見えるわ。
車は止まり、一お兄様はここではあくまで部外者と言う事で、車でお待ちに成ると仰い、私だけ、その倉庫の方に向かう。
倉庫の入り口付近で、何やら話し合われていた二人の人物が、私にお気付きに。
諏訪さんと上村さんですわ。
「小町ちゃん御免なさいね。今日は冬休みに最終日なのに」
諏訪さんが申し訳なさそうに、そうお声を掛けてくれる。
「そう言えば、そうでしたな……これは、小町ちゃんには悪い事をしましたな」
と、上村さんも。
「いいえ、直ぐにお済に成ると言うお話しですし、構いませんわ。それに、そのおかげで、今日一日だけですけれど、良い小間使いが手に入りましたのよ♪」
「小間使いとは、何のことで?」
「フフフ♪こちらの話ですわ♪」
「それで、私に御用とはどの様な事ですの?」
「聞いていると思うけど、実は魔技取締分隊に奇妙な匿名の封書が昨日届いたの。なんでも、参事官が極秘に手に入れ、使っていたと云う倉庫の事が書かれていたわ」
「その倉庫と仰るのが此方ですの?」
その問いに上村さんがお答えに。
「ええ、どうも、パトリック・チヴィントンと言う人物が手配して、参事官に融通したと、先ほど裏が取れました。実際はもっと複雑巧妙に、手配した様ですが、封書にその詳細が書かれていたもので、それ程手間を掛けず確認できたしだいで」
パトリック・チヴィントン、確か参事官と親しい間柄で、洋館の地下で、土手瓦さんに食い殺された、降霊会の参加者だわ。
「それで、何かお分かりに?」
「とにかく、中を見て貰えるかしら。正直、あまり十代の少女に見せるのは気が引ける光景だけど……」
「ええ、構いませんわ。それに、洋館の地下を超える程の光景は、早々お目にかかると云う事も無いでしょうし」
「確かにそうね。アレに比べれば……まあ、どうと云う事は無いわね……。少し匂うから、ハンカチか何かで鼻を押えて付いてきて。こっちよ」
「承知しましたわ」
倉庫の奥へと案内される。入り口付近は、何か目隠しでもする様に木箱が積まれ、複雑な迷路を形作っているみたいね。
奥に進むにつれ、死臭が漂って来たわ。
そして、開けた空間に出ると……なんなのこの光景は……。
猛獣を閉じ込めておく様な、鋼鉄製の檻が三つ、そして、それらの中に居るのは……眷属だわ。
もう既に、皆さんお亡くなりに成っている様ですけれど……手錠や足枷もされているわね。
それに、何に使うか分からない様な器具が壁や机に……拷問?
そんな事をして、何の意味が?
いいえ、粗末な机に上に広げられたあれは、魔法陣。
見覚えが有るわ。
トラップの眷属に巻かれていた物だわ。
「諏訪さん、これは実験でもされていたのではないかしら?」
「恐らくそうね、私もそう思うわ。今朝、この檻の中で亡くなっている眷属の一人の身元が判明したわ。地方からの出稼ぎ労働者よ。それも、上京してきたのは三週間前、行方が分から無く成ったのはその二日後よ」
「降霊会は一月ほど前から行われていませんでしたわ。と、言う事は……この方達は、降霊会の参加者では無く、その後実験の為にさらわれて、無理やり眷属に……」
「そう言うことに成るわね。それと、此処の事では無いけれど、例の洋館と降霊会に付いて、さらに分かったことが有るわ。昨日、引き続き帝都に潜伏している眷属の調査をしていた土御門中佐が、眷属に変異前の降霊会参加者を捕らえる事が出来たの。小町ちゃんが、公使の部屋から見つかった帳簿が、眷属の名簿に成っていると推理してくれたお陰ね。それで、尋問する事が出来たわ。その男の話によると、降霊会の密儀の贄は一度に二人だったという話よ。一人は、ウェンディゴに成った者が平らげ、もう一人は、参加者約180名で分けたと……。主には、この檻の中の人達の様な地方から来た人物や、浮浪者、そう言ったいつ姿を消しても、あまり不審に思われない様な人達、それと、降霊会参加者の商売敵や政敵なんかも贄にしていたらしいわ。それで、その男の証言を元に、洋館を再調査したところ、もう一つ埋められた古井戸が見つかったわ。そこにも、先日見つかった井戸と同じ様な人骨が無数に……」
「何とも……悍ましいお話ですわね……。ですけれど、そのお話しと、此方の眷属の御遺体と何がご関係が?」
「ええ、その男の証言では、贄の一人分の心臓と肝臓は、儀式を取り仕切っていたフードに仮面の男が、独り占めしていたと……。魔技取締分隊の見解としては、参事官は、眷属の変異を止めるかコントロールするか、その術を見つけて、密儀の再開を企てていたのでは、との事よ。何しろ、このままでは、食事に困るものね」
リスクを犯す事無く、毎週ほぼ定期的に食べる事が出来ていたモノが、これから先は、そうもいかなく成るかも。
そんな、参事官の歪んだ不安が、この様な狂気じみた実験をさせていたのだわ。
「そして、その研究の過程で、眷属のトラップとしての利用を思い付いた、と言う事ですわね」
「恐らくそうね」
「ん?諏訪さん、そこまでお分かりに成っていて、何故私を?」
「御免なさい。小町ちゃんに調べて欲しいのは、彼らの死体では無いわ。この倉庫に隠されている筈の、在る物を探し出して欲しいの」




