ローレンスさん殺害の真相 その5 【断罪】
「そもそも参事官殿は、この場にその当事者の方がいらっしゃらない事を前提に、私の話す事を根拠のない戯言と、言い掛かりをお付けに成っていらっしゃる様ですけれど……。先ほどからずっと、その方は参事官殿の目の前に居りますわよ♪」
「何を言っているのだね?その様なネイティブアメリカンなど、何処にも居ないでは無いかね」
ハァ~、鈍い人だわ……。
「曹長さん、イシャイニシュスさん、宜しくですわ」
「ハッ、特務少尉」
曹長さんが、手にしていた外套をイシャイニシュスさんの背に掛け、その目の前に、預かっていたコヨーテのトーテムを置く。
「ま、まさか……」
さすがに、参事官も気付いたみたいね。
イシャイニシュスさんの前足がトーテムにチョンと触れると、イシャイニシュスさんの体が映画の特殊効果の様に変形し、そして……人の姿へ。
「改めて、御紹介致しますわ。参事官殿に滅ぼされたナンナ族唯一の生き残り、そして、コヨーテのトーテムの継承者、イシャイニシュスさんですわ♪」
大使館の御三方は驚愕されているよう。
参事官に関しては、まさに顎が外れるほど。
私のイタズラは大成功ですわ♪
「大使閣下、ストーカーさん、それに参事官殿も、これで、少なくともトーテムの件に関しては御信じ頂けたかしら?」
「俺は、コヨーテに成れば、他の精霊の気配を感じることが出来る。だから、あの晩お前を見つけ追い詰めることが出来た。あの時お前を見失ったのは、お前が人に戻ったからに違いない。……だが、ウェンディゴの左腕に噛みついた時に嗅いだ匂いは覚えている。お前の匂い、ウェンディゴの匂いと同じ。香水を付けている様だが、俺の鼻は誤魔化せない。コヨーテの鼻は良く利く」
「ば、馬鹿な!!こんなこと私は認めませんよ!大使閣下もこんな手品を見せられたからと言って、彼らを御信じに成るのですか?」
「ジェームズ君、落ち着き給え、君が潔白だと言うなら、指紋を提出して、それを証明すれば良いだけのことでは無いかね」
「お断りしますよ。先ほども申しましたが、私がハメられないと言う保証は有りませんからな。もし、私から指紋を取るなり、強制的に御調べに成りたいのであれば、正当な手続きを踏んで頂きたいですな。本国からとは申しませんよ。香港辺りから英国人の捜査官をお呼びに成って、英国人の手で捜査して頂きたい」
「理不尽な話ですな」
警部補さんが、苦虫をかみつぶす様にそう呟く。
この国で、多くの方達の命を弄んで、それでも私達には、外交特権と言う盾に守られている彼を裁く術は有りませんわ。
まあ……真っ当な方法ではと、言う事ですけれど……。
それにしても、参事官は時間稼ぎをなさりたい様ね。
遠く離れた地の捜査官を呼び寄せる事で、時間を稼げれば、その捜査官を買収するなり、それが通じない相手だとすれば、やむなく逃走するなり、この場を凌げればどうにか成るとお考えなのかしらね……。
「お時間が有りませんのに……」
「フン、時間が無いですと?私は英国人として、外交官として、正当な権利を主張しているのだよ。あなた方の都合など、知ったことでは有りませんよ」
「フフ♪そう言う意味では有りませんわ。お時間がお有りで無いのは、参事官殿の方と言う意味ですわ」
「わ、私に時間が無いだと?!ど、どう言う事だね」
私に代わって、イシャイニシュスさんがお答えに。
「お前は、聞いていないのか?ウェンディゴのトーテムの一族がウェンディゴに成ってもウェンディゴに呪われないのは、一日に一度だけ。さっきの話だと、お前は一日の内に二度ウェンディゴに成った。お前はウェンディゴに呪われている」
「な、何を言っているんだね。わ、私はその様な怪物に成ったことなど……一度も……」
「もしかして、ですけれど、日に二度ウェンディゴに成ってはいけないと云うお話は、お聞きに成ってらっしゃったのかしら。彼の集落のお嬢さんから。ですけれど……御自分に御都合の良い解釈か何か、なさっているとか……。例えば、ウェンディゴのトーテムの一族の方を数人、お食べに成ったからその人数分は、ウェンディゴに成っても大丈夫だと言う様な御解釈。そう言えば、事件は除夜の鐘が鳴り始めた頃起こりましたから、最初にウェンディゴに成られたのが大晦日の夜。一度お逃げに成って、芝浦の倉庫街から大使館の西側までお戻りに成った頃は、既に日付が変わって元日。まさかですけれど、日付がお替りに成ったから、もう一度ウェンディゴの姿に成っても大丈夫と、御自身に言い聞かせてらっしゃるとか……フフ♪例えばですけれど、仮に日付を跨げば、大丈夫と仮定しましょ。でも、日付を跨ぐ時間なんて、地域やお国によって様々ですわ。ウェンディゴのトーテムは何を基準に日付が変わったと認識するのかしら?日本時間?グリニッジ標準時?それとも、集落の有った北米のかしら?」
「いい加減な事を……」
そう仰いながらも、お顔が青ざめていますわ。
それは、私が今まで言ってきた事が全て、いい加減なお話しでは無いと御存じだから。
「参事官殿、確認ですけれど……両肩に黒紫色の発疹とか出ていらっしゃらないかしら?なんでも、イシャイニシュスさんがウェンディゴの一族の方にお聞きに成った話では、ウェンディゴに呪われた者には、その様な発疹が現れるとか」
ヒィッ!とお顔が引きつりましたわ。
どうやら……。
「それと……ローレンスさんを襲った直後、イシャイニシュスさんに左腕を噛まれているという話、恐らく未だその噛み跡はお残りでは無いかしら?」
「き、き、貴様らに私の肌をさらす積りは無い!!」
何だか……セクハラしている様な言われ様だわ……。
まあ、ともかく、見せて貰えるとは、最初から期待していませんわ。
「先ほど、警部補殿が、理不尽とお呟きに成りましたけれど……御存じかしら?世の中には、その理不尽をも踏み潰す程の、不条理が御座いますのよ♪」
梅柄の巾着袋から、約三十センチ四方の一枚の布を取り出し、目の前のローテーブルに広げる。
そこには、中央に悪魔が描かれた、魔法陣が施されている。
「小町、その魔法陣は?」
ストーカーさんが問う。
「これは、お爺様から教わった呪いの魔法陣ですわ。普段は、この様な悪質な魔法陣を使う事は有りませんから、お爺様に教わって以来、初めてお描きしましたわ」
お爺様は、結構躊躇なくお使いに成られていましたけれど……。
「の、呪いですと?」
「そうですわね、正確にはこの魔法陣で相手を呪うと言うのでは有りませんわ。呪いを増幅する魔法陣と言った方が正しいですわね」
さらに巾着から、昨日正式に頂いた、イシャイニシュスさんの牙を取り出し魔法陣の上に。
「この牙は、イシャイニシュスさんの牙ですわ。明治神宮で、ウルタールを探していて見つけた牙。そして、ローレンスさんを襲ったウェンディゴの左腕に、一族54人の命を奪った者への恨みを込めて噛みついた牙ですわ」
ここからは、断罪のお時間ですわ♪
ふと、テーブルの上に置かれた銀の水差しに映った、自分の歪んだ笑顔……。
嫌ですわ……お爺様そっくり……フフ♪♪




