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ローレンスさん殺害の真相 その4 【追及】

「しかしだ、お嬢さん。貴女(あなた)の話はどれも憶測と状況証拠でしかない。それに、仮にその塀や壁に鍵爪とやらの傷が有ったとして、経年劣化によるもので無いとどうして言えるのかね?」

参事官の言葉に、上村さんが回答する。

「参事官殿、お言葉を返すようですがもし、塀や壁に鍵爪の傷が有れば、さすがにそれは、証拠に成りましょうな。一つ二つの傷で有れば、何か偶然付いた傷跡かもしれませんが、その傷跡がもしも点々と公使閣下の自室に続くものであれば、それは偶然の産物では無いでしょう。まして、古い傷跡か新しい傷跡か程度の見分けぐらいは付くでしょうし」

参事官の言い訳が少々苦しく成って参りましたわ。

図星を付かれて焦ってらっしゃるのかしら?


「だがミス蘆屋、それでも尚、疑問が残るのも確か。貴女(あなた)の推理の前提として、公使が眠っている間に彼の服を脱がせる必要がある。余程泥酔するまで飲まない限り、まず目を覚ますだろうし、仮にそこ迄飲んだとすれば、翌朝までその酒が残っているはずだ。だが翌日、貴女(あなた)も会ったと思うが、公使にはその様な素振りは無かった。いささか香水の匂いはしていたが、それに交じって、酒の匂いを漂わせてもいなかったと記憶している」


「そうですわね……単刀直入に申しますと、公使閣下は睡眠薬で眠らされていたのですわ」

「睡眠薬と?その証拠はお有りか?」

「ええ実は、警部補殿が事件当日に使われた食器類を詳しく調べる様に、指示しておりましたの。警部補殿詳しく御説明、宜しいかしら?」


警部補さんに視線が集まる。

「承知した。公使閣下の自室から、事件当夜注がれたと(おぼ)しきスコッチが入ったグラス二つを回収。内容物を鑑定した処、片方のグラスから睡眠薬が検出されております」


参事官の顔色がお替りに成ったわ。

まさか、公使閣下の部屋のグラスの中身まで調査されているとは、考えてもおられなかったのでしょうね♪


元々は、警部補さんが、悪魔を見たと言う証言が信用できずに、薬物による幻覚作用かもと、お門違いな推測で調査された物ですけれど……結果として睡眠薬が発見されたと云う事は、これもある種の刑事の勘と云う物かしら……。

ともかく、この件は警部補さんのファインプレーだわ。

そう言えば、大使館の西側の路地裏で、山口さんのお着物を発見されたのも、警部補さんだったわ。

事件のカギを握る二つの証拠を、御見つけに成った警部補さんって案外、名警部補さんなのかも……推理力は少々残念かも、ですけれど♪


「わ、私は、睡眠薬など知らん!公使閣下が御自分で、勝手にお飲みに成ったのでは?」

「フフ♪おかしいですわ。お部屋にお客様を呼んで、お飲みに成ってらっしゃるのに、御自分で睡眠薬をお飲みに成る方なんていらっしゃるかしら♪」


「いや……そ、そうだ私が飲まされたのだよ。公使閣下にお酒を頂いて、急に睡魔に襲われたのだ。睡眠薬を飲まされた被害者は私の方だ。私を眠らせて、公使閣下がローレンス君を殺害しに行ったのに違いない」

「警部補殿、御説明してさしあげて♪」

フフと背後から警部補さんの含み笑いが聞こえる。

私の考えを察して下さったよう。

「二つのグラスの内、睡眠薬が入った方のグラスには、二人分の指紋が検出されております。対して、睡眠薬が入っていない方のグラスには一人分の指紋が。つまり、睡眠薬が検出されていない方のグラスでお飲みに成った方が、グラスにスコッチを注ぎ、片方に睡眠薬を入れて相手にお渡ししたと言う事に成りますな」


「成るほど……ジェームズ君の指紋を採取して、睡眠薬の検出されていない方のグラスの指紋と一致すれば、ジェームズ君が公使に睡眠薬を飲ませたと言う事に成ると」

大使閣下はそう言うと、参事官に視線を合わせる。


「閣下!あなたまで、この様な者達のいい加減な話を御信じに成るとは!」

「ならばこそ、身の潔白を証明する為に、彼らの捜査に協力するべきでは?」

「お断りします!私をハメて(おとし)める腹かも知れませんからな」

「何故、その様な事を彼らが?」

「さあ、知りませんよ、私にはそんな事。私が以前アメリカに居て、研究の為にフィールドワークをしていた事が、彼らの云う、アメリカで惨劇がどうのと言うホラ話に丁度良かったからとか、そう言う理不尽な理由に違いありませんよ。第一、何処(どこ)にその証拠が?その彼らの言うトーテムとか、精霊に姿を変えるとか、大使閣下は、何を根拠に御信じに?その惨劇とやらの当事者が居ると言うのなら、連れて来て頂きたい。もっとも、彼らが連れて来るとして、適当な船乗りをそうと、でっち上げて連れて来ないとも限りませんがね」


どうやら、やはりイシャイニシュスさんの事はお気付きでない様子。

だけれど、先ほど、集落の話をした時に、一人生き残るという話をしましたから、その生き残りを連れて来るだろうとはお考えの様。

その為の、でっち上げと云う言い掛かり……これはもしかして、あの時……。

「もしかしてですけれど、参事官殿はあの時、数を数えていらっしゃらなかったのかしら?」

「な、何の事だね?」

「トーテムの数ですわ?ウェンディゴのトーテムを奪った際に、ご自身が破壊なされた、他のトーテムの数ですわ」

「な、何を言っているのだね、お嬢さんは!」


「まだ、お気付きで無い様子。仕方が有りませんわ♪」


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