ローレンスさん殺害の真相 その2 【手口】
「では、どうやって、ローレンスさんを殺害なされたか、お話ししますわね。事件当時、公使閣下と参事官殿は公使閣下のお部屋でお酒を飲まれて、酔って眠ってらしたとか。以前、そう公使閣下が仰っていましたわ。実のところ、公使閣下は嘘をお付きに成って、誤魔化そうとなされたと思うのですけれど、実はそれがほぼ真実だったりしますのよ。面白いですわね♪もちろん公使閣下自身に付いてはと云う事ですけれど」
「ミス蘆屋、それは、どういう事かね?」
「公使閣下は本当に眠っておられたのですわ。そして、その眠っておられる公使閣下のお着物を参事官殿は、お剥ぎ取りに成りましたの。そして、御自分でお召しになったのですわ。まあ、体格が大分異なりますから、ブカブカでしたとは思うのですけれど、この後の事を考えれば、どうでもいい事ですわ」
「この後の事とは?」
「ウェンディゴのトーテムですわ。公使閣下は参事官殿よりお立場は上、それは、勿論降霊会においてもそうでしたのね。例のトーテムは公使閣下が管理されていらっしゃった。だとすれば何処にトーテムを御隠しに成るかは、容易く想像できますわ」
「公使の自室に有った金庫だな」
「参事官殿も、知っておられたのでしょうね。もしかすると、公使閣下は参事官殿の目の前で、開け閉めされていたのかも知れませんわね。一応、あの金庫には魔力を流す事で開錠し扉を開ける、という魔術が施されていましたけれど、かなりお粗末な物でしたわ。公使閣下はそれがどれほど、単純で不用心な代物か御自覚が無かったのかも……」
「しかし小町、何故わざわざ、公使の服を着た上で、そのウェンディゴとやらに?」
「ストーカーさん、ウェンディゴに成られた公使閣下のお姿、覚えてらっしゃるかしら?」
「勿論、覚えている。鋭い鍵爪、水かきの有る大きな足、背中から伸びた触手……胴体や首回りの筋肉は異常に肥大化して、服が破れ上半身はほぼ裸……!?」
「そうですわ。公使閣下のお部屋で、公使閣下のお召しになっていた服が破れ、残骸の様に散らばっていたとしたら……翌朝、目覚めた公使閣下は、どう思うかしら?一月ほど前降霊会で突然姿を変えた、お友達の皆さんを思い浮かべたりしませんかしら?」
「では、公使自身にローレンスを殺害したのは自分だと思わせる為にと……だが小町、何故そんな面倒な事を?」
「理由は二つほど思い付きますわね。一つはいざと言う時に、公使閣下に罪を背負って頂くこと。もう一つは、公使閣下の弱みとして付け入る事かしら。上手くすれば、降霊会でのお立場を逆転出来るかも、とお考えに成ったのかも知れませんわね」
「フンッ!バカバカしい、では伺おう。仮にだ、お嬢さん。私が、そのウェンディゴとやら言う化け物に姿を変えたとして、どうやって公使の自室から、事件現場である裏庭まで行くんだね?まさか、職員を避けて廊下を歩いて行ったとでも言うのかね、お嬢さんは」
「フフ♪まさかですわ。ウェンディゴは人の視認能力を阻害して、自身を認知され難くする能力は有りますけれど、さすがに廊下の様な狭いところで、人とすれ違う様な事が有れば気付かれてしまいますわ。ですから……窓を開け、鍵爪を壁に引っ掛けて、屋根の上に……」
「バ、バカな!」
「ウェンディゴはそこそこの巨体ですわ。その体重を支える為には、ある程度鍵爪を深く壁に突き刺す必要が有るでしょうね……」
「もしそうなら、壁にその鍵爪の跡が残っているかも知れませんな。この後にでも調べてみる価値は有りますな」
上村さんが、確認する様に大使閣下に視線を向ける。
「許可しよう」
「参事官殿は……フフ♪いいえ、取り合えずウェンディゴとお呼びしましょう。参事官殿も御気分が悪いでしょうから♪」
「フン!御自由に」
「ウェンディゴは屋根の上にでられて、そこで、ローレンスさんが来るのを待ったのでしょう。呼び出したのか、それともにローレンスさんの日課だったのか」
「ローレンス君は就寝前に、敷地内を見回るのを日課にしていた。彼は真面目な男だったからな。あの日も恐らくそれで、裏庭に行ったのだろう」
「では小町は、屋根で待ち伏せして、ローレンスを襲ったと考えていると」
「ええ、一度だけ悲鳴をお上げに成られたと言う話ですから、先ず触手で腕を切断して、そして頭部を鍵爪で。頭部を抉られた際は、悲鳴を上げる事も出来なかったと思いますわ」
「しかし小町、ローレンスが殺害された現場には、その切断された腕が見当たらなかった。その代わり、先日公使の自室で見つかった腕が、ローレンスの物だと断定されたと聞いている」
「腕はウェンディゴが回収して持って帰ったのですわ。それは公使閣下のお部屋で、公使閣下のお着物を着てウェンディゴの姿に成られたのと同じ理由。公使閣下が朝お目覚めに成られて、齧った跡の有る腕を、ご自身が抱きしめていらっしゃったとしたら……」
「公使は自分の犯行と思うだろうな。だがミス蘆屋、ステラの話では、その後そのウェンディゴとやらは、そこの大きな犬、イシャイニシュスと云ったか、に追い立てられ逃走したという」
「ローレンスの死体を見た後、私もあの奇妙な足跡を追ったが、塀を飛び越える様に大使館の敷地の外へ続いていた」
「当初は、そのまま大使館の壁をよじ登り、来た時とは逆に、屋根を伝って、公使閣下のお部屋の窓からお戻りに成る予定だったと思いますわ。ですけれど、丁度その時、二階の窓からステラちゃんのお顔が。どうするかお迷いに成ったと思いますわ。ステラちゃんを無視して予定通り戻るか、それとも……。まあ、結局、そのお迷いに成っている間に、イシャイニシュスさんに襲われ逃げ出す羽目に」




