舌を噛んでしまいますわ!!
決まったのは良いけれど……。
「そう言えば、イシャイニシュスさん、お着物はどうされましたの?それと、トーテムもお持ちの様に見えませんけれど?」
「それなら、向こうの草むらに有る。取って来ても良いか?」
「ええ、勿論ですわ」
曹長さんの外套で身を包む様にして、立ち上がる。
デカッ!
変な所の事じゃ有りませんわよ!
身長がですわ!!
曹長さんも高身長だけれど、並んで立つと、頭半分以上大きいわ。
二メートルあるかもですわ。
暫くして、草むらで着替えた彼は、戻って来ましたけれど。
チョット想像していた恰好とは違うわね。
ネイティブアメリカンと仰いましたから、てっきり、いかにもな感じで、羽飾りとかしてらっしゃるのかと思ったのだけれど、結構普通の格好。
デニムのパンツにチェックのシャツ。
まあ、いかにもと言えば、いかにも労働者と言う感じかしら。
そう言えば、日本に来る前は、港で働いていたと仰っていたわ。
「もし宜しければ、アナタの持つコヨーテのトーテムを見せて頂いても?」
「ああ、構わない。これだ」
右手で、直に持ったトーテムを差し出してらっしゃるわ……。
えっ!?どういう事?
「トーテムを直に持っても変異なさらないの?ウェンディゴのトーテムは触れるだけで、変異する様なのだけれど?」
「ああ、その事か。このトーテムは問題無い。ウェンディゴのトーテムは呪われている。だから触るだけで危険。何時もは、封印する布に包んで保管する。コヨーテに身を変える時は。このトーテムに呪力を送り込む必要がある」
成るほど、それだけウェンディゴのトーテムは異質な物と言う事なのね。
明日、確実に回収して、封印なり、破壊なりする必要が有ると言うことだわ。
それで、イシャイニシュスさんに我が家に招待する事を伝えると、すんなり承諾してくださったわ。
恐らく、彼もその方が、敵に近付けると判断なされたのね。
お暇する前に、皆さんに取り付けたウィルオウィスプをお祓いしなくてはいけませんわね。
上村さんと、三浦さんのウィルオウィスプを祓った後、次は諏訪さんと隊の皆さんですわね。
「小町ちゃん、私達はこのままで良いわ。この方が此処の調査がしやすいもの。それと、できれば増援の隊員の何人かにも取りつけて貰えると助かるんだけれど、良いかしら?」
「ええ、良いですわ。それ程手間がかかる物では有りませんもの。ですけれど、本当に構いませんの?明るくて今夜は眠れなくなりますわよ」
「構わないわ。どうせ、今夜は徹夜に成りそうだから……ハァ~」
妖精猫達をカメオに戻したあと、曹長さんにお願いして、お屋敷まで送って貰う。
その間車内で、イシャイニシュスさんと情報交換。
此方からは、事件のあらましを、イシャイニシュスさんからは、もう少し細かくトーテムのお話を。
新たに得た情報としては、彼のコヨーテのトーテムは、ウェンディゴの物と違って、一日の内に何度使っても呪われる事は無いらしいわ。
ただし、一度変身すると、呪力をかなり消費するらしく、結構疲れるそうよ。
それと、ウェンディゴのトーテムの力を封印する布の事で、少し興味深い話を聞けたわ。
元々そう言う物は無く、今以上にウェンディゴのトーテムの取り扱いが困難だったそうよ。
布は、十数年前に集落を訪れた、西洋人の男から貰ったらしいわ。
しかも、彼は西洋人で有りながら、他の集落の酋長を務めていと云う話よ。
何処かで聞いた話……。
ストーカーさんは、祖父が『トゥーアサ・ジェー・ザナン』の本をアメリカで、錬金術師から譲り受けたと仰っていたわ。
しかも、その方はスイス人でネイティブアメリカンの集落の長に成ったとも。
もしかして……同じ人物かしら?
いつか、お会いしたいですわね。
そして……もし、ティル・ナ・ノーグの林檎の種を未だお持ちでしたら、是非一つお分け願いたいですわ♪
一通りの情報交換が済んだけれど、未だ少し時間が有るわ。
明日の事に付いても、彼には少し話しておきましょう。
推理したことや、明日どう犯人を追い詰めるかも掻い摘んで、そして、明日のイタズラの事も……了承して下さるかしら?
で、話を聞き終えると、少し口角が上がりましたわ。
もしかして笑ってらっしゃる……?
表情の変化が乏しいから、いまいち感情が読み取り難い方だわ。
「承知した。敵を追い詰める為なら、何でも協力する」
承諾頂けましたわ♪
そう言えば……この方、お幾つでらっしゃるのかしら?
二十代にも見えるし、三十代にもみえる……四十代と云う事は無いと思うのだけれど……。
別に老けていると云う分けじゃなく、何かしら風格みたいな物をお持ちですわ。
「ところで、イシャイニシュスさんは、お幾つでらっしゃるのかしら?」
「十九だ」
えっ!まさかのティーンエイジャーですわ!
車はお屋敷に到着し、私達を降ろした後、曹長さんは再び洋館の方に。
玄関に入ると、千代さんが迎えてくれる。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「ただいまですわ」
「ところで、お嬢様、其方の異国の男性は?」
「ああ、この方はイシャイニシュスさんと仰る方で、訳あって、暫く蘆屋家に滞在して貰う事にしましたの。お父様と、お母様には私の方から御説明いたしますわ。お部屋の準備をして差し上げて。あと、お風呂とお食事のご用意も」
「承知致しました。それとお嬢様、今日は珍しく、旦那様が戻られております。それも御座いまして、奥様が今日は家族皆で御夕食を取りたいと、お嬢様のお帰りをお待ちに御座います」
フフ♪お母様らしいわ。
「そう言う事でしたら、イシャイニシュスさんも夕食を御一緒にして差し上げて。お客様をお一人で、お食事させる分けにはいきませんわ」
「ですが……その……お客様は先ず、お風呂に入られた方が宜しいかと」
まあ……チョット匂いますものね。
「ええ、では先にお風呂に入って頂きましょう。お食事はそれからでも構いませんわ。その程度お待ちしても、餓死する事は有りませんもの」
「承知しました」
その後、リビングへ向かうと、お父様とお母様、それと、道彦が出迎えてくれる。
何時もの様に、チョコチョコと走って来て抱き着く道彦のほっぺにスリスリ。
「ただいま、ミッチー♪」
「お帰りなさい、お姉さま♪」
それで、お父様とお母様に、イシャイニシュスさんを紹介。
コヨーテに変身する事は伏せて、先日明治神宮で助けて頂いた事も。
「成るほど、遥かアメリカから一族の敵を追って来られたとは……承知した。我が家でゆるりと、ご滞在下さい。私はこの家の当主で蘆屋久弥と申します」
お父様が流ちょうな英語で、握手を求める。
「世話に成る。俺の名前はイシャイニシュス」
「娘を助けて頂いたとの事、本当に感謝致しますわ。ご自分のお家と思ってくつろいで下さいましね、イシャイニュニュニュさん、イシャイシュシュシュさん、イシャイニュチュチュ……イシャイ……」
お母様も、途中まではお父様同様、流ちょうな英語でご挨拶されていたのだけれど……どうやらイシャイニシュスさんのお名前を、上手く発音できない御様子だわ。
と、その時。
「イシャイニシュスさん、よろしくおねいします」
お母様より先に道彦が、ご挨拶したわ。
日本語だけれど、お名前はちゃんと発音しているわ。
「よろしく頼む」
イシャイニシュスさんは道彦の頭をなでなで。
で、お母様は、三歳の道彦に先を越されたのが、悔しいのか、ほっぺを膨らませてらっしゃるわ。
「もーっ!どうしましょ。舌を噛んでしまいますわ!!お名前を上手く言えないなんて、娘の恩人に失礼ですわ!」
「俺の名前が言い難いなら、イシャイでも構わない」
どうやらイシャイニシュスさんも見かねて察してくれたみたい。
良い人だわ♪
「不甲斐ないですわ……御免なさいですわ……ハァ~。あらためて宜しくですわ、イシャイさん。私は蘆屋静と申しますわ」
補足情報:
〇酋長
酋長と言うと、部族の指導者っぽい印象が有るんだけれど、ネイティブアメリカンの社会では、「調停者」とか「世話役」とかそういう存在で、権力者的な存在では無かったらしいです。




