良いモノを頂きましたわ♪
「俺は、もしやと思い、精霊の洞窟へ向かった。其処は各家のトーテムを保管する場所。洞窟と言っても、鉄のドアを取り付けている。白人から買ったやつだ。だから、普段は、各家の家長の許可が無くては入れない。精霊の洞窟に着くと、鉄のドアは開いていた。中に入ると、並べられていたはずのトーテムが壊され、そして、娘の死体が……喰い荒らされ、顔も判別出来ない程だが、身に着けていた物で、ウェンディゴのトーテムの娘なのは明らか。壊されたトーテムの破片を調べたら、俺の予想通り、ウェンディゴのトーテムだけ無い。あの集落にやって来た白人が、この娘を誑かし、トーテムを奪って、集落の皆を……俺の家族を皆殺しにしたんだ……」
「では、アナタは、御家族や集落の人達の敵を追って日本まで……だとしたら、その敵、ウェンディゴのトーテムを奪った人物が誰なのか、御存じと云う事ですのね!?」
彼は残念そうに首を横に振る。
「いや、分からない。俺は、その男の顔も知ら無い。集落の者から話を聴いただけ」
「それでは、どうやって、日本まで追って来られに成りましたの?」
「トーテムの力を借りれば、精霊の居場所が分かる。特にウェンディゴの気配は特殊、奴がウェンディゴに成りさえすれば、跡を追う事は容易い。俺は直ぐにウェンディゴの気配を追った。だが……港で追い付いた時には、目の前で船が……。俺は、直ぐに船の行き先を調べて、日本だと分かった。でも、俺には金が無い。仕方なく、港で働き、金を貯め、日本に行く船に潜り込む機会を探した。そして、やっと船員を募集している船に潜り込み、十日ほど前、この国へ辿り着いた」
「ウェンディゴに成りさえすれば、と仰いましたけれど、跡を追えたと言う事は、その男は時折ウェンディゴに成っていたと?」
「ああ、一度ウェンディゴに成って、人を喰らった者は、その味を忘れられなく成る。そして、人を襲い続ける」
タチの悪い精霊ですわね……一体どう云う存在なのかしら?
「先ほど、祭りでは八つある家族の内、七つの家族がトーテムで変身すると仰ってましたけれど、変身しないもう一つは、そのウェンディゴが危険な存在だからと云う事かしら?でも、そんな危険な精霊をどうして、アナタの集落では祭られていたのかしら?」
「その通りだ。ウェンディゴは邪悪な精霊だ。だが、戦えば強い。集落を護る為、他の部族や白人との闘いで使った。最後に使われたのは、俺が生まれる前の話だ」
白人との戦闘で使ったと云う事は、その線からその男にウェンディゴの話が伝わったのかも知れないわね。
「でも、集落でウェンディゴに成って戦った方は、その後どう成りますの?戦いに勝っても、その後ウェンディゴに成って人を襲う様に成っては、元も子もないですわ」
「戦いで、人を喰らわ無ければ問題ない。ウェンディゴのトーテムの一族は、ウェンディゴに成っても理性と知性を保てる。そう言う家系だ。そして、一日に一度だけなら、ウェンディゴの呪いを受けない。それと、人の姿に戻るのは、もう一度トーテムに触れるか、眠るかすれば良い。それは、俺のトーテムも同じ」
地下で、イシャイニシュスさんが人の姿に戻ったのは、意識を失ったからなのね。
明治神宮で公使に弾き飛ばされて、御神木に打ち付けられた後、姿を消したけれど……あの時も意識を失って、人の姿に戻ったから立ち去ったのかしら。
それにしても、また一つ、気になるキーワードが……。
「ウェンディゴの呪いですの?」
「この地下に居たモノ達だ。トーテムを使ってウェンディゴに成ったものは、ウェンディゴに取りつかれ、人を喰らう様になり、やがて、ウェンディゴに成る」
地下で土手瓦さんが仰っていた事と一致するわ。
トーテムを使って変身した者は、やがて、あの様な姿に……ん?
微妙に辻褄が合わないわ。
「地下で、土手瓦さん……ウェンディゴに呪われたモノに聞きましたけれど、彼らのお仲間があの様な姿になり始めたのは、一月ほど前とお聞きしましたわ。しかも突然何人もと。ですけれど、彼らは儀式で週一回、一人の者がトーテムを使ったとも言っていましたわ。なら、一度に何人も変異するのでは無く、順番に変異するのではなくて?それに、そのアナタの集落からトーテムを奪った白人は、もう既にウェンディゴに取りつかれ、あの様な姿に成っているのかしら?」
「俺も、詳しくは分から無い。以前、ウェンディゴの家の者に聞いた事が有る。ウェンディゴに呪われた者が、姿を変えるのは、星の並びや月の満ち欠けに関係すると。それと、人の肉を喰らう事で、そう成るのを遅らす事が出来るとも。だが、トーテムを奪った男は別。あの男は、ウェンディゴの一族の者を喰らった。恐らく、ウェンディゴの一族の力を取り込んでいる。奴も、一日に一度の変身なら、問題無い」
星の並びや月の満ち欠け……何か、変異し易くなる周期の様な物が有ると云う事かしら。
それと、人の肉を喰らう事で、一時的に変異を遅らせていたと云う事は……あまり考えたく無いのだけれど……密儀の参加者は、ウェンディゴに成っていない者たち迄、食べていたと云う事だわ……。
そして……トーテムを奪った男は、ウェンディゴの一族の力を取り込んで、一日に一回だけなら理性を保ちながらウェンディゴに変異出来ると云う事だわ。
だとすれば、理性と知性を保ち、倉庫街で服を奪う為に山口さんを襲い、公使のカフスボタンをこれ見よがしに落としていったモノは、まず間違い無くその男だわ。
そうなると、必然的にローレンスさんを殺害したのも……。
そうだわ!
この方も、ローレンスさんの殺害事件の目撃者でしたわ。
何か、ご覧に成っていないかしら?
「そう言えば、五日前、大晦日の夜に英国大使館で、コヨーテの姿でウェンディゴと対峙なさったのは、ウェンディゴの気配をお感じに成られて向かった、と言う事で宜しいのですわね?その時の事を教えて頂けないかしら?」
「英国大使館と言うのは、知ら無い。五日前、この国に来て、初めてウェンディゴの気配を感じた。そして、高い塀を飛び越え、奴を見た。俺も、ウェンディゴを見たのはそれが初めて。奴の足元には死体が転がり、奴の目線の先、建物の二階に、娘が見えた。俺は飛び掛かり、奴の左腕に噛みついた。だが、逃げられた。跡を追って追い詰めたと思ったが、奴の気配が消え見失った」
「見失ったのは、この近くでは無くて?」
「ああ、その通りだ。だから、今日もこのあたりを調べていて、ウェンディゴの気配を感じて此処に来た。だが来てみればウェンディゴでは無く、呪われたモノ達だったが……」
やはり、ローレンスさんを殺害した犯人は、倉庫街まで逃げてきて、山口さんも殺害したのは間違いないわ。
イシャイニシュスさんが気配を見失ったのは、恐らくだけれど、人に戻ったからだわ。
ん?噛みついた……そう言えば、大使閣下の娘さんのステラちゃんも、大きなワンちゃんが悪魔の腕に噛みついたと、証言していたわね……もしかして……これは……いけるかもですわ!!
梅柄の巾着袋の中を漁って、例の物を……あの時拾った物を此処に入れたままのハズ……有ったわ。
明治神宮で、公使を倒した後、ウルタールを探していて、たまたま見つけて拾った牙。
「少し話が逸れますけれど、これはアナタの物では無いかしら?」
「それは?この間ウェンディゴと戦った時、牙を一本折ったのは覚えている。そのときの物かも知れん。だが、心配ない、その程度なら、人に戻った時にまた生えて来た」
間違いないわ、この牙の発する魔力と、イシャイニシュスさんの魔力の色は同じ色だもの。
「この牙私が頂いても宜しいかしら?」
「別に構わん」
「小町ちゃん、その牙は何なんです?」
「フフフ♪上村さん、良い物を頂きましたわ♪これは、私達にとっての、デウス・エクス・マキナに成る物ですわ♪」




