眷属、阿鼻叫喚
「こ、これはいったい何なの……」
諏訪さんが、小声で呟く。
扉の先には、まさに阿鼻叫喚の光景が……。
眷属達が、お互いを襲い合い、貪り喰らう……地獄の有様ですわ。
確かに動いている眷属は十体ほどだけれど、一面に散らばる、彼らの残骸は……多分、その倍ほどは居たのね。
部屋の中は、想定していた通り広く、恐らく200人ぐらいは余裕で入れそうな程だわ。
部屋の中央には祭壇らしき物が置かれている。
そして、祭壇を取り囲む様に散らかる椅子の残骸。
祭壇の、上部は黒く変色しているわ、恐らく大量の血の跡。
ここで、何が行われていたのか、想像に難しく無いわね。
仲間を貪り喰らっていた何体かが、此方を凝視しているわ。
新たに入って来た獲物を見つけた、と云う分けですわね。
呆けている暇は無いわ。
「諏訪さん、曹長さん、来ますわ!」
此方を凝視していた正面の三体の眷属が飛び掛かってくる。
すかさず、猫手の御札を取り出し、魔力を注入、そして足元に投げ付ける。
「障壁!」
正面に巨大な猫の手が壁の様に立ちはだかり、飛び掛かって来た眷属の鍵爪を、肉球が弾く。
すかさず、目の前の猫の手を、左手の突風の魔法陣で吹き飛ばす。
飛び掛かって来た三体の内の左右の二体は、猫の手が弾き飛ばし、石畳に叩きつける。
飛ばされた猫の手は、真ん中の一体と共に、中央の祭壇の上を飛び越え、向こう側の壁に爪を食い込ませ、そのまま、その一体を壁に貼り付けにする。
先ずは、一体拘束しましたわ。
ノワールとブランはどうかしら?
ノワールは右手にレイピア、左手にマンゴーシュを構え、一体の眷属と対峙しているわ。
襲い掛かる鍵爪をマンゴーシュで巧みに弾きながら、レイピアの突きを的確に、相手の手足に突き刺していく。
左右の膝をレイピアに貫かれ、眷属は崩れる様に膝をつく、刹那、ノワールが瞬時に間合いを詰め、側頭部に回し蹴りを入れ意識を断つ。
ブランはタワーシールドで鍵爪の攻撃を受けながら、ジリジリ間合いを詰めていく。
圧力を掛ける様に、対峙している眷属を壁際まで追い詰める。
そして、振り下ろされる鍵爪にタイミングを合わせて、強くタワーシールドを振るって、そのまま相手を壁に打ち付ける。
壁に打ち付けられた反動で、前のめりに成った眷属の頸部にメイスの柄頭を叩き込み、相手の意識を刈り取る。
見た限り、危なげ無い戦いをしているわ。
これなら戦闘を任せても、安心ですわね♪
まあ、幸い、眷属の一部が共食いに夢中で、一度に何体も相手にしないで済んでいると言うのも助かっているわ。
諏訪さんと曹長さんも、余裕がお有りの様。
曹長さんは、刃ではなく峰を眷属に叩きつけてらっしゃるし、諏訪さんもノワールと同じ戦術で、眷属の足を切りつけ動きを封じた後、頸部に柄頭で打撃を入れて、相手の意識を奪っているわ。
殺さない戦いをされているのは、余裕がお有りなのと、多分お二方とも、私に気を使って下さっているのね。
感謝ですわ。
ノワールとブランは、先ほど私が猫の手で弾き飛ばした二体と対峙している。
それでは、私も次のお相手を見つけないと……。
祭壇の横で共食いに夢中だった一体が、顔を上げて此方を舐め回す様に睨み付けているわ。
なんとも……不快な視線だこと。
その眷属が、今まで貪っていたお友達の頭蓋骨を石畳に投げ捨て、立ち上がると……かなり変異しているわね。
他の眷属より一回りか二回りは大きい……身長は二メートルは超えているわ。
筋肉は異様に盛り上がり、他の眷属の倍程に伸びた鍵爪、そして、両肩から伸びる二本の触手……。
触手はそれほど長くは無いわ、一メートルぐらいかしら。
魔力の方は、公使とはまだまだ比べ物に成らないみたいですから、禍津神と言うよりは、やはり眷属ですわね。
この閉ざされた空間で、蠱毒の様にお互いを喰らい合って、此処まで変異したんだわ。
もし、あの封印された扉を開けず、放置していたら、この目の前の一体が他の眷属を全て喰らい尽くして、公使の様な禍津神にまで成っていたかも知れないわ。
そうなっていたら……あの結界を破って外に出ていたかも……。
ゾッと、しませんわね。
「グウォーーーー!!」と雄たけびを上げ、襲い掛かってくる。
以外に素早い!
鍵爪と触手の連撃を体捌きで躱しつつ隙を伺う。
今よ!
鍵爪を左に躱し、触手を右に躱し、眷属の胸元に右の掌底を撃ち込み、同時に手袋の魔法陣に魔力を通して電撃を放つ。
バチッ!と、青白い閃光。
「グウェッ!!」
奴は、悲鳴を上げ怯むが倒れない!
手加減を間違えたわ。
この個体は他の眷属よりも、魔法への耐性が強いみたいだわ。
でも、今ので少し距離を取れたわ。
先ずは、あの厄介な触手を処理しましょ。
今度はセクメトの慧眼も使わせて貰うわ。
両手を合わせて、両肩の触手を狙う。
セクメトの慧眼が輝き、そして、召喚された二本の氷柱が、両方の触手を根元から切断する。
「ギャーーー!」
公使の触手をも切断できた氷柱ですもの、かなり変異を遂げたとは言え、眷属のモノなら容易いわ。
でも、もし公使と同じなら、直ぐに再生してしまうかも知れないわ。
今の内よ!
今度は、此方から距離を詰め、鍵爪を躱して懐に潜り込む。
セクメトの慧眼で増幅させた魔力を右手に集め、再び胸元に電撃ですわ!
バリバリッ!!と、先ほどより一際強い閃光。
そして、胸元から煙を上げ、悲鳴も上げず仰向けに倒れていく……チョットやり過ぎたかしら……。
「ギェーーー!」
祭壇の裏に隠れていたと思しき一体が、不意を突いて飛び掛かってくる。
不味い、油断したわ!
一歩、瞬時に飛びずさり、いつでも攻撃を躱せるように身構える……あれ?
「キィィィィィャャャャーーーーーーー!!」
甲高い断末魔の悲鳴を上げているのは、先ほど倒した眷属だわ。
祭壇の裏から飛び出してきた一体が、その眷属の上に覆い被さり、喉に喰らい付いている……。
そして、倒れている眷属の、息の根が止まった後、その飛び掛かった方の眷属は、咀嚼しながら血みどろの顔を上げて呟く。
「ケッケッケ、やっとや……やっと、おまはんに……ケケ……一矢報いて……ケッケ……やりましたわ。ケケケ♪」
えっ!?しゃべったわ!?しかも関西弁!?




