へし折って差し上げましたわ!
一太郎さんとは一通りのお話が済んで、事務所を出たところで、他に部外者のいないことを確認した上で、上村さんに、白金三光町の工場で起こった事、眷属の話、被害者の大熊さんと番頭さんの御遺体の状態に付いて、掻い摘んでお話しする。
「眷属ですか……これは、また厄介な事に成りましたな……、しかも、小町ちゃんの推理では、此方の行方不明の社長さんも、その一人かも知れないと」
「ええ、それと、諏訪さんのお話しでは、禍津神の邪気に当てられて、眷属に変異したかもと、仰っていましたけれど。先ほど、一太郎さんが仰っていた集会と云うのが、その邪気に当てられる場だとすれば……」
「その眷属が何人も……いや、下手をすると、何十人、何百人と……」
上村さんは、血の気の引いた様な青い顔で、そうつぶやく。
「一応、泰治叔父様……土御門中佐が、部隊を編成し直して、事に当たってらっしゃるわ」
「成るほど、迅速に対処しなくては、帝都に及ぼす被害は甚大なものに成りかねませんからな……ん?泰治叔父様とは?」
「ふふ、御免なさい。実は、今朝知りましたのですけれど、土御門中佐は私の、いとこ叔父にあたる方でしたのよ」
「ははは、それはまた、世間は狭いですな」
「それで、上村課長。実はこの後、例の降霊会名簿の一人かも知れない人物に、合いに向かうのですが御一緒されますか?」
「なんと!諏訪中尉、それはホントですか?」
「ええ、どうやらその方は、小町ちゃんのお母様のお知り合いの方らしいの。既に小町ちゃんのお母様の方から、お会いする約束を取って貰えているらしいわ」
「なんと!それは本当に、世間は狭いですなぁ~。ええ、是非ご一緒させて下さい」
玉藻堂までは、私達が乗って来た、憲兵の公用車と、上村さん達が乗ってらした外務省の公用車の二台で向かう事に。
そして、車を駐車した場所に戻って来たのだけれど……。
私たちは、いつもの窓無し屋根なしのオープンカー……、それに比べて上村さん達の、黒いクラシカルなデザインの外務省の公用車は……。
「屋根が有りますわ!窓が有りますわ!羨ましいですわ!」
玉藻堂は、土手瓦商会と同じく銀座に有る。
車で五分と掛からず、二階建ての店舗の前に。
ドタッ!ガシャン!パリーン!
えっ?どうしたのかしら?
店舗の中から、何か騒がしい音がする。
尋常じゃ無い感じだわ……。
「う、うわー!ば、ば、化け物!」
店舗の二階の方から、男性の叫び声が。
「諏訪さん!」
「ええ、急ぎましょ!」
車から飛び降りようとした、その刹那!バリーン!着物姿の男性が、二階の窓と突き破って!
「うわぁーー!」
車から降りてる暇は無いわ!
咄嗟に、着物の袖に仕舞って有った、御札を一枚取り出し、瞬時に魔力を通して、落下する男性の真下に向けて投げる。
間に合って!!
「緩衝!!」
仰向けで、落下する男性の後頭部が、あと数十センチで地面と衝突……ポフッ!!
「ふぅ~、間に合いましたわ……」
男性は、私が召喚した、巨大な猫の手の肉球の上で、不思議そうに体を起こして、目を丸くしてらっしゃるわ。
隣の座席に座る、諏訪さんも……。
「小町ちゃん、これは……」
「猫ちゃんの肉球ほど優れた緩衝材は、この世には存在しませんわ♪」
取り合えず、車から降りて、あの男性……多分玉山さんかしら、にお話しを聞きませんと。
と、その時、頭上から「ギガーーー!」と奇声が!
鍵爪と、変形して水掻きの有る足が、目に入る。
油断したわ!
術が間に合わない!!
曹長さんが瞬時に抜刀し、車のボンネットを蹴って、切りかかる。
「曹長さん、殺してはダメ!!」
私の声に瞬時に反応して、刀を返し、峰を眷属と思しき男のわき腹に叩き込む。
「グゲッ!」と、地面に叩きつけられた眷属の男の頭上に向け、もう一枚御札を投げつける。
「捕獲!」
巨大な爪が地面に食い込み、地面と肉球に挟まった眷属の男は、身動きを封じられる。
これで、一安心よ……まさか、他にはいないわよね?
危うく三人目の御遺体確認と云う事に成るところでしたわ……とにかく、変なフラグは、へし折って差し上げましたわ!
それにしても、一つ釈然としない事が有りますの……もし、車に屋根や窓が有ったら、恐らく間に合わ無かったわ……。
屋根なし窓無しの車に感謝する日が来ようとは、思わなかったわ……複雑な心境ですわ……はぁ~。
補足情報:
〇外務省の公用車
詳しく描写しいていませんが、エセックス コーチと言う設定です。
興味のある方は、画像検索してみてください。
修正履歴
2020/6/5 玉藻堂の所在変更。有楽町⇒銀座。本文の内容は追加変更無し。




