納品リストに?
番頭さんの御遺体の確認が済んで、今度は社長の息子さんに、お話しを伺いに事務所の方へ、案内して貰う。
それにしても、連続でお二人も御遺体確認するなんて……ホント、気分の良い物では無いわね……。
三人目の御遺体確認とかって、そう云うお話に成らなければ良いのだけれど……ハッ!いけませんわ!こんな事考えてると、変なフラグが立ってしまいますわ!
そして、事務所に通されると……ん?どうやら先客かしら?
二十代ぐらいの男性とお話しされていた男性が、こちらに気付いて振り向くと。
「あれ?小町ちゃん、どうしてここに?」
上村さんだわ。
それと、上村さんの横にいらっしゃるのは、確か大使館でお会いした、部下の方で三浦さんでしたかしら。
「上村さん、奇遇ですわね。私達は、例の事件に絡む御遺体が幾つか出たと云う事で、調査しておりましたの……。あら?上村さんも、その件では有りませんの?」
「ああ、そう言えば警部補殿が何やら変死体の報告書と、にらめっこしているとか……。先ほど、此方の土手瓦さんに、番頭さんの御遺体が見つかったと聞いて、ビックリしていたところなのですが……まさか、例の事件と関係が有ったとは……。我々の方は、公使閣下の金庫に保管されていた、帳簿の方を調べて此方に」
「もしかして、例の帳簿に土手瓦さんのお名前が?」
「ええ、土手瓦さんと云うか、土手瓦商会の名で、それも結構多額の取引が明記されていたもので。それで、その件に付いて、此方の御子息に、お話を伺っていたところなんですよ」
「多額と申しますと、アヘンで御商売をされていたと?」
「ええ、そう思いまして伺っていたのですが……それが、どうも……」
「すみません……本当に知らないんです。隠し立てしているとか、そう言うんじゃ無く……。父は何事も一人で決める人でして、商売に関しても、私や従業員はその命令に従うだけなもので……。もし、何か知っている人物がいるとすれば、父が最も信頼していた、番頭ぐらいなのですが、その番頭も今朝遺体で……。はぁ~、寧ろ、詳しい事を知りたいのは私の方なんですよ……」
「社長さんの御子息の、確か、一太郎さんでしたかしら」
「ええ、土手瓦八十吉の息子の、一太郎です。えーと、そう言えば、失礼ですがお嬢さんは?」
「わたくしは、蘆屋小町と申しますの。訳有って憲兵さんのお手伝いをして居りますのよ」
「因みに、彼女の父上は、貴族院議員で蘆屋財閥総帥の蘆屋久弥伯爵なのですよ」
上村さんが補足してくれる。
「え!蘆屋家の御令嬢!これは、とんだ失礼をば……。その……昨日は大変失礼しました。持参する商品が幾つか間違っておりました様で、後日改めてお伺いして、お詫び申し上げさせて頂きます」
少し、小太りですけれど、人の好さそうな感じの人ですわね。
お母様が、人柄を褒めてらしたけれど。
「昨日の事はお気に為さら無いで、お母様はさほど気にはして居りませんでしたわ♪それよりも、お伺いしたい事が御座いますの。宜しいかしら?」
「ええ、お答え出来る事であれば」
「昨日お母様からお伺いしたのですけれど、行方不明に成られた社長さんが、何やら怪しい宗教に傾倒されていらしたとか。実はこちらの諏訪中尉は、以前から、連続行方不明事件を捜査されているのですけれど、どうも、それに何やら宗教団体の様な組織が関係されているとかで、もしやと思いましたの。何かお父様からお聞きになった事が有れば、どの様な事でも構いませんの、教えて頂けませんかしら?」
「その事ですか……それに付いては、実のところ私もあまり詳しくは……ただ、父は別に信心から、その集会に参加していたと云う分けでは、無かったみたいなのです。どうも、商売を広げる為の社交場と考えていた様です。何しろ父は、危険な人達の集まりだから、お前は関わるなと、私に話していたくらいですから。ただ、ここ一月ほどは、その集会は無かった様ですが」
「危険な方々と?」
「ええ、詳しくは話して貰っていませんが……恐らく、危険であると同時に、有力者の方達で有るのは間違いないと思います。何しろ父は、お金に成らない人物とは関わらない人ですから。あ!そう言えば、その集会に参加する様に成って、時折人相の悪い人物が、番頭さんを訪ねて来る様に成った気がします……事件とは関係ないかもしれませんが」
「ん?人相が悪い人物と申されますと、もしかするとアヘンの取引に関連した人物、という可能性も有りますな……」
「そうですわね、上村さん。これは推理と言うより、推測の域を出ないのですけれど、その集会とやらに社長さんが参加されて、そこで、公使閣下とお知り合いに成った、そして、アヘンを公使閣下から買い取って、その人相の悪い人達に、アヘンの卸売りの様な御商売をされていた、と言う事では無いかしら」
「確かに……それならば辻褄が合いますな。公使閣下は御子息が仰る、有力者で、かつ危険な人物でもありましたからね……」
「そうそう、公使閣下と言えば、一つ確認したい事が御座いましたの。これは昨日、土手瓦さんが間違って持っていらした香水の一つなのですけれど」
お母様から頂いた、例の海狸香の香水を、巾着袋から取り出す。
「ん?この匂い、公使閣下と参事官殿が付けてらした香水ですね。ええ、間違い有りません。この瓶には見覚えが有ります。以前、参事官殿から頂いたのと同じものです」
「実は、此方にお伺いするきっかけに成りましたのは、この香水をお母様に見せて頂いたからですの。この香水で、土手瓦社長と公使閣下の繋がりを示す証拠に成るかと、意気込んで参りましたけれど……その必要は有りませんでしたわね♪帳簿に土手瓦商会のお名前が有るのですから♪」
「いいえ、そんな事は有りませんよ。証拠は多いに越した事は有りませんからね」
「そう言えば、其方の香水には、父も困っていました……。何か商売上のお付き合いで、仕方なく、アメリカ産の質の悪い海狸香を大量に買わされたとかで。一応、うちの調香師と、なんとか商品化しようとしたのですが、結局断念して、大量に作った香水は、販促用に、無料でお得意様にばらまいていましたからね。父も番頭も、大赤字だと嘆いていましたよ……。あっ、そうそう、その海狸香を商会に売りつけた、チヴィントン・カンパニーの社長さんと父が、集会の話をしているところを何度か見たことが有りますよ。内容までは良く判りませんでしたが」
え?集会の参加者ですって!
「そのチヴィントン・カンパニーの社長さんとは、どう云う方ですの?」
「社長さんはパトリック・チヴィントンという、アメリカ出身の方で、主にアメリカ産の商品を扱う輸入会社を営んでる方です。横浜の方に事務所と倉庫が有りますよ……ただ、その社長さんも、行方不明に成ったと伺っています。確か父と同じ、一日の夜から、行方が分から無く成ったとか」
はぁ~、またも行方不明……、関係者の殆どが行方不明か殺害されたか、ですわ。
ただ一人、眷属と思しき男性は捕まえましたけれど、お話しが聞けるほど、正気を保っていませんわ。
どうしたものかしら……。
「その……お嬢様、私からも一つ気になった事が……、お聞きして宜しいでしょうか?」
ん?どうしたのかしら、一太郎さん?
「ええ勿論、構いませんわ」
「先ほど、其方の香水を私が間違って届けたと、仰っておられましたけれど、実はその香水に関しては、納品リストに明記されていた物でして……。勿論、他の商品に関しては、幾つか誤って納品した物が御座いましたので、言い訳しているわけでは無いのですが……」
どう云うことかしら?
お母様が間違って、男性用の香水を注文することは、無いと思うのだけれど……。
「おかしいわね、お父様は、香水などお使いに成りませんし、お母様が間違って発注すると云うのも考えられませんわ。お母様は、ああいう方ですから、初めてお会いした方は、誤解されるかもしれませんけれど、ああ見えてしっかり者ですのよ♪」
「そうですか……、お嬢様、これはとんだ失礼な事をお聞きいたしました。申し訳ありません。どうかお忘れ下さい」
でも、一太郎さん不思議そうに、首をひねっていますわね。
「あの、どうされましたの?」
「いえ、確かに納品リストに、先ほどの香水が書かれていたのは事実なのですが、後から書き足された形跡が有ったもので……商品を鞄に詰め込んでいた時に、変だなとは思ったんです。蘆屋家の奥様が、父がタダで配る様な香水を?と、ですが急いでおりましたので、そのまま納品させて頂いたしだいなんです。恐らく商会の誰かが間違えて、書き足してしまったんでしょうね。どうかお忘れ下さい」
うーーん、なんか最後に変な話を聞いてしまいましたわ。
どういう事なんでしょう?
単なる手違い?
それとも……何か意味が?
補足情報:
〇納品リスト
本来は『納品書』とするのが正しいと思うのですが、字面的に『納品リスト』の方が分り易いと思いましたので、そう表記しています。




