いとこ叔父
お母様にお願いして、玉山さんにアポを取って貰う事にして、お部屋に戻る。
ついでに、海狸香の香水も頂いたわ。
公使の使っていた物と同じか、一応確認しておくに越した事は無いもの。
さて、未だやらなくちゃいけない事が山ほど有るわ。
「先ずは此れよ」
優弥くんに貰ったどんぐりの、残り二つを取り出す。
先ほど食事の時に、千代さんが下げた一輪挿しと、巻き付いた木を見せて貰ったけれど、未だ硬質化していたわ。
もし、このどんぐりに安全に魔力を注ぎ込むことが出来れば、凄く有用に使えると思うの。
で、その仕掛けですけれど……。
机の引き出しから五センチ角の、矢絣模様の千代紙を二枚取り出し、魔法陣を描き描き。
「描き上がった魔法陣の中央に、どんぐりを一つ置いて、そのままキャンディーの様に包んで出来上がり♪」
この魔法陣は、外から流れ込んで来た魔力を、一時的に魔法陣に蓄えて、そして、何か衝撃を受けた瞬間、魔法陣の中央にいっきに魔力を流すと言うものよ。
要するに、この包み紙の上から魔力を注ぎ込んで、対象物に投げてぶつけて差し上げれば、魔力がどんぐりに流れ込んで、朝試した様に成ると言う事。
しかも、これなら、十分に魔力を魔法陣に溜め込めるから、より大きな魔力をどんぐりに注ぎ込むことが出来るわ。
それでは、次の魔法陣に取り掛かりましょう。
猫召喚の魔法陣を描くのと同じ白紙の御札を取り出し、魔法陣を描き描き、丁寧に、正確に、魔力を込めて……。
描く魔法陣は、いつもの猫召喚の魔法陣と似た魔法陣、だけど、魔法陣の中央に描く図形が異なるわ。
いつもは円の中央に、猫の姿を模した図形を描くのだけれど、この魔法陣の中央には猫の手、つまりはぷにぷにの肉球を描くの♪
今までは、咄嗟の戦闘で使用できる魔法陣が、手袋の物だけでしたけれど、それでは少々心許無く感じていたわ。
そう言った事も有って、この魔法陣は、咄嗟の時に使えて、かつ攻防応用の利く物よ。
「そうね……この魔法陣は、八枚ほど有れば当面足りるかしら」
あとは、残りの猫召喚のお札だけれど……未だ40枚以上描かないといけないわ……。
「はぁ~、もう十一時前だわ。これは、徹夜に成りそうね……」
とにかくやるべき事はやっておかないと、お母様のお陰で、降霊会の情報の糸口は見つかったかも、ですもの、いつ事態が進展するか分から無いわ。
魔法陣を描き描き、丁寧に、正確に、魔力を込めて……描き描き……描き描き……カキカキ……カキ……カ……キ…………Zzz……。
「ハッ!!眠ってしまいましたわ……」
窓から朝日が、明るく差し込んでいるわ。
「今は何時かしら……もう八時過ぎているのね……」
結局、昨日描けた猫召喚の御札は60枚、全部で280枚だわ。
300枚まで、あと20枚足りない。
「仕方ないわ、今日必要に成らない事を祈りましょう」
まあ、いざと成ればノワールとブランがいますもの、そうそう遅れを取るとは思わないわ。
「さてと、今日はどうしましょ。お呼びが掛からない様なら、このまま御札の製作を続けようかしら。でも、玉藻堂の玉山さんにもお会いして、お話しをお伺いしたいですし、海狸香の香水も、公使がお使いに成ってた物と同じか知りたいですし……」
「はぁ~、駄目だわ。お腹が空いて考えが纏まら無いわ。まずは朝食が先ね」
「うーーーん」と背伸びして体をほぐす。
椅子に座って眠ったせいか、体の節々が痛い。
ハラリと、肩にかけられたガウンが落ちる。
千代さんが掛けてくれたのね。
少し、身だしなみを整えてから、一階へ降りようと、ホールへ降りる階段へ向かう。
「あら、皆さま、ようこそお越し下さいましたわ」
ホールからお母様の声が聞こえるわ。
何方かお客様かしら?
「でも、あの子は良い子ですから、皆様には不平を口にする様な事は無いでしょうけれど、少しはあの子の事を気遣ってやって下さいましね。小町は昨日も遅くまで、何かお仕事していた様ですの。だいぶ疲れている様子でしたわ。今も机に突っ伏して眠っているのよ。私としては、このままそっと休ませて上げたいと考えていますのよ……お分かり?」
どうやら何方か迎えに来たみたいね。
お母様の気持ちは有りがたいし、そのお言葉に甘えたいところですけれど、休んでいる間に、何か不測の事態でも起こって、取り返しの付かない事に成れば、後悔する事に成るわ。
とにかく、下に降りましょう。
「あら?あなた泰治ちゃんじゃ無いの?」
「ええ、御無沙汰しています」
ん?泰治ちゃん……て誰でしたっけ……?
「あらあら、久しぶりだわね。元気にしていましたの……まあ!!どうしたのその右手は!大怪我をしたのね……あらあら、どうしましょう……千鶴叔母様が悲しまれるわ……。それに杖まで突いて……足も怪我をしましたのね?」
「御心配なく三年も前の事です。母にもその時随分叱られました」
階段を下りると、諏訪さん、曹長さん、それと、二本の鍵爪の様な義手の男性は、魔技取締分隊隊長の土御門中佐だわ。
そう言えば土御門中佐のお名前は、泰治さんだったわね……え?お母様とお知り合い?
「お早う御座います。お母様。それと皆様もお早う御座います」
「あら、お早う小町ちゃん。もう起きましたの。もう少し休んでても良いのよ♪此方の方々でしたら、お母様がお引き取り願うから♪」
「いえ、そうもいきませんわ。それよりも、お母様と土御門中佐はお知り合いでしたの?」
「ええ、知り合いと言うか、従兄なのよ。泰治ちゃんのお母様の千鶴叔母様は、私の叔母に当たる方よ♪」
「すまない小町ちゃん。先日憲兵司令部で会った時は、色々ごたついていたからね、話しそびれてしまったが、君のいとこ叔父にあたる泰治だ、改めて宜しくお願いするよ」
なんだ、そういう事でしたの♪
「では、公務じゃなくプライベートの時は、泰治叔父様とお呼びしても良いかしら?」
「はは、勿論そう呼んで貰えると嬉しいよ」
さて、本題ね。
「ところで、この様な朝早く皆さんが参られたと云う事は、何か御座いましたの?」
「ええ、そうなの小町ちゃん」
諏訪さんが話し出す。
「先日、倉庫街で殺害された山口さんの御遺体、覚えているかしら。心臓と肝臓が無くなっていた」
「ええ、勿論ですわ」
「同様の死体が出たの、それも一体じゃ無いわ、何体もよ」
補足情報:
〇いとこ叔父
サザエさんでいう所の、イクラちゃんから見たカツオです。
修正履歴
2020/5/30 誤字脱字修正。本文の内容は追加変更無し。




