少年とお守り
夕方に成って、大分参拝客も減ってきた。
あと三十分でやっと帰れるよー。
まあ、大正のお仕事に比べれば、社務所に座っておみくじとか売ってるだけだし、命のやり取りも無いし、楽で良いけど、やっぱゴロゴロして寝正月したかったなー。
ん?
何か気配を感じてカウンターを見る。
カウンター越しに小さな子供が、ちょこんと目から上だけ出してこっちを見てる。
なんか、かわいい♪
目が合った。
「ぼく、どうしたの?」
カウンターのお守りを並べてる方を指さす。
「ああ、お守りが欲しいんだ。どれにするの?」
小さく可愛い指の先に有るのは……。
『安産祈願』
うーん、未だ漢字とか読め無いよね。
ミッチーよりちょっと上っぽいから四歳ぐらいだもんね。
「ぼく、それはね安産のお守りで、赤ちゃんが元気に産まれます様にって言うお守りなの。だから、そうだなー……学業成就はまだ早いか……ああ、これなんか良いんじゃない、交通安全のお守りなんかどう?」
そう言って交通安全のお守りを見せると、男の子は首を横に振る。
で、やっぱり『安産祈願』のお守りを指さす。
うーん、どうしよう?
「その安産のお守りが良いの?」
少年は頷いて、今度は後ろを指さす。
ん?なにかしら?
あっ、妊婦さんだ。
「ああ、成るほど、お兄ちゃんに成るんだ!おめでとう♪」
少年が満面の笑顔で頷く。
めっちゃ、可愛い。
そして、いい子だー。
「じゃあ、はい、安産祈願のお守りね。元気に産まれてくると良いね♪」
少年に安産祈願のお守を渡す。
「それじゃあ、ええと、幾らだったかな……えーと、五百円に成ります」
途端、少年の表情が曇ってうつむく。
あれ?どうしたのかな?
少年が何かを取り出して、そっとカウンターの上に置く。
折り紙で作った箱にテンコ盛りのどんぐり……。
アウッ!そう来たかー……。
多分、あれだよね、お母さんへのサプライズプレゼントだから、お金とか持って無いパターンかー……。
しかもどんぐりってチョイス……この子やるわね、おねいさんの急所を的確に突いて来たわ!
こう云う心のこもった系には弱いのよね……。
ここで、親御さん呼んじゃうのは野暮だよねー。
ホントはこう云うの、あまり良く無いんだけど……。
「しゃあない、おねいさんがどんぐりを五百円で買ってあげよう♪」
財布から五百円硬貨を取り出して、少年に渡す。
「じゃあ、お守りの料金五百円に成ります♪」
で、少年はその五百円を再び私の手に。
そして、一度深く頭をさげた後、笑顔で私に手を振りながら、小走りでお母さんの元へ駆け寄って行った。
勿論、手を振り返す。
ええ子やー♪
お母さんも、手を振る私に気付いたのか会釈を返してくれる。
ん?
どっかで見た顔の気がする……。
まあ、ここの参拝客は基本的にご近所さんが殆どだから、多分お付き合いの浅いご近所さんの誰かなんでしょう。
それにしても、無性に大正に戻って、ミッチーにスリスリしたくなったよー。
「こまっちゃん、今日は助かったよ。ちょっと早いけど、今日はもう帰ってくれて良いって」
「ホント♪正兄。じゃあ着替えて来るね」
「あっ、チョット待って、縁起もんだから、これ持って帰ってって、親父が」
破魔矢を渡された。
「うん、わかった♪」
着替えを済まし、叔父さんと、正兄に挨拶を済ませて家路に着く。
もう日が沈んで、薄暗く成ってるせいか、あぜ道で自転車を漕ぐのがチョット怖い。
なので、降りて自転車を押して行くことにした。
あれ?
自転車のLEDライトが照らす先に小さい人影が。
あっ!さっきの男の子だ。
どうしたんだろう?
「ぼく、どうしたのかな?お母さんは一緒じゃないの?」
自転車のスタンドを立てて、少年に歩み寄る。
なんだか泣きそうな顔をしてるわね。
そんで、一点を見つめてる様だけど……、あぜ道の横に立ってる柿木の上?
何が有るんだろう?
暗くて良く見えないわ。
しゃあない、自転車のLEDライトを取り外して、木の上に向ける。
「キッ!」
「うわ!、何あれ!?猿じゃん」
しかも、デカッ!
木の上に居るから、良く判らないけれど体長一メートルぐらいありそう。
猿ってこんなデカかったけ?
しかも、何か牙をむき出しにしてる。
威嚇している様にも、いやらしく笑っている様にも見える。
コワッ!キモッ!
咄嗟に少年を背中に隠し、後退る。
どうしよう……?
蘆屋小町ならともかく、小野小町は、基本食っちゃ寝して、ダラダラ過ごしてるだけだから、戦闘力は皆無。
あんなのとタイマン張って勝つ自信無いわ。
奴がゆっくり木から降りてきた。
本当にどうしよう?
武器に成りそうな物とか落ちて無いかな?
ん!
自転車の籠に入れた破魔矢だわ。
こんなのでも無いよりはマシよね。
いや、案外篁神社の御利益とか……あるよね?小野篁さま!
自転車をバリケードにする形で、猿と対峙する。
どのくらい睨めっこしてるんだろう?
奴はじりじりこっちに向かってくる。
「キッーーー!」
奴が奇声を上げて飛び掛かってきた!
反射的に、手に持った破魔矢を投げつける。
「ギャーーーーーーーーー!」
破魔矢は奴の顔面に命中し、奴は悲鳴を上げてのた打ち回った後、闇夜に去って行った。
「ふーぅ、怖かったー。でも、やるじゃん、神社の破魔矢♪ぼく、怪我は無かった?」
少年が震えながら頷く。
しがみ付いてくる手が冷たい。
「怖かったね。でも、もう大丈夫だからね」
抱きしめて、頭を撫でてあげる。
ミッチーが雷を怖がった時とか、こうして上げるんだけど、少しでも安心感を与えられると良いんだけど。
震えが収まってきたみたいね。
「じゃあ、帰ろうか。送っていくよ。ぼくのお家はどっちかな?」
少年が指さす方向は、家と一緒だ。
さっきの猿とのバトル?で倒れた自転車を起こす。
少年はと云うと、さっき猿がのたうちまわった所辺りで、しゃがみこんでる。
何してるんだろ?
ん?
何か拾い上げたみたい。
それで、その拾い上げた物を、満面の笑顔で見せてくれた。
安産祈願のおまもりだ。
「もしかして、さっきの猿に取り上げられたの?」
少年が頷く。
こんな子供からお守りを取り上げるなんて、ホント罰当たりな猿だな、まったく!
少年を家まで送ってく事にしたんだけど、当然危ないので自転車の二人乗りとかはし無い。
左手で手を繋いで、右手で自転車を押していく事にしたわ。
てくてく時間を掛けて歩いて、気付いたらもう自分家の目の前。
あれ?
家に着いちゃったけど、この子の家何処よ……。
「ところで、ぼく、お家はこっちの方で合ってるのかな?」
少年は頷くと、家の斜向かいの家を指さした。
「え?なんだ、こないだ引っ越してきたご近所さんだったんだー。そうだ、こんなに遅くなっちゃって、ぼくのお母さんも心配してると思うから、私も付いてって言い訳して上げようか?」
首を横に振る。
まあ、大きなお世話ってこともあるよね。
「それじゃあ、またね♪」
少年は深く頭を下げて礼をすると、家の玄関に向かって小走りで走って行った。
確か佐竹さんだったかな。
どうりで、あの子のお母さんに見覚え有る分けよ。
でも、本当に大丈夫かな?怒られたりして無いよね?




