木像?とカラスの使い魔
公使の手足は、長く異様に伸び、胴体や首周りの筋肉も異様な迄に肥大化して、肌の色も滑っとした緑色に変色している。
着ている衣服もビリビリに敗れて、上半身はほぼ裸、アンバランスに細い手首に袖の切れ端が残っているだけ。
山口さんの御遺体の傍に、袖だけ落ちてたのはこう云う分けね。
それに……公使から溢れ出る、黒くくすんだ紫色の魔力。
うーん、でも何か違和感有るのよね、この出来過ぎた状況、確かに公使に不利な証拠は出て来てたけれど、まだ言い訳の余地のある状況だし、自棄に成って暴走するタイミングじゃ無いわ。
しかも、こんな日中に……とはいえ、今はそんなこと考えている余裕は無いわ!
「こ、公使……こ、これはいったい、どうされたのですか……?」
ストーカーさんが公使に声を掛けると、一睨みして「ウウウー」と呻き声をあげながら、苦痛を受けたかの様に顔を歪ませる。
不味いわ!
「ストーカーさん、無駄ですわ、下がって!」
刹那、公使は「グヘッ!」と呻き声をあげ、筋肉で肥大化し盛り上がった背中を突き破って、一本の触手が飛び出し、鞭の様にしなってストーカーさん目掛けて振り下ろされる。
咄嗟にストーカーさんの前に出て、右手に最大限の魔力を集中。
触手はヘラの様に平らに成っていて、その平な部分を右手で払う。
バチッ!
青白い電撃の火花が飛び散り、髪の毛が燃えた様な嫌な臭いが漂う。
公使は「グワッ!」と悲鳴を上げ、触手を引っ込めた。
取り合えず電撃は、ある程度効果が有る様だけど、あんなのと格闘するのは嫌ですわね。
電撃が効いたと言っても、最大出力の電撃で、悲鳴を上げる程度、人でしたらまず即死レベルなはずでしたのに。
それに、あの触手も厄介ね、偶々(たまたま)気付いたから平らな面を払ったけれど、薄い方が当たるとローレンスさんの右腕の様に、切り裂かれていたわ。
「二等書記官殿と上村課長は後方に下がって!あの触手、結構射程が有ります!」
ホルスターから銃を取り出し構えながら諏訪さんが叫ぶと、二人も我に返り視線を公使に向けたまま後退る。
それにしても弱ったわ、まさかいきなりこんなのとバトルだなんて考えても無かった。
準備不足ですわ。
手袋の魔法陣だけでしのぎ切れるかしら……?
ん、あれは何かしら?
公使、右手に何か持っているわね。
布の様な物に巻かれているけれど……。
その時、空から何か黒い影が三つ視界を横切る。
カラスだわ?
その三匹のカラスは公使に向かって飛んで行き、一匹は公使の左手の鍵爪で切り裂かれ、紫色の粒子と成って消えたわ、使い魔ね。
他の二匹は振り上げられた右手に纏わり付く。
もしかして、あの手に持っているものを狙ってるのかしら?
怪しいわ。
何者かは知らないけれど、いいわ、そういう事なら、カラスが奪ったところを打ち落として、私が奪ってやるわ♪
私の手袋の魔法陣は、右手が電撃、左手が突風、両手を合わせれば氷の礫を飛ばすことが出来る。
両手を合わせて魔力を集中。
目の前に氷の礫が現れ、狙いを付ける。
どちらか奪った方を落としてやるわ。
公使が、右手の鍵爪でカラスを切り裂こうと手を開き、持っていた物を手放した瞬間、カラスの一匹がそれを奪った。
よし、今よ!
放った氷の礫は、木像の様な物を奪って飛び去ろうとしたカラスに命中したわ、確かにそのカラスには……。
命中したカラスは紫色の粒子に成って消えた、しかし木像は落下中、もう一匹のカラスがつかみ取る。
もう一度、氷の礫を放つには、間に合いそうに無いわね。
あら?
書庫の建物の横に立っている木の上で、ウルタールがそれを見ている。
指示した通り公使を見張っていたのね、丁度良い位置だわ!
「ウルタール!そのカラスを捕まえて!」
飛び去ろうとするカラスにウルタールが木の上から飛び掛かる……スカッ……あら、外しましたわ。
まあ、仕方が無いわ、ウルタールは戦闘用では無いもの……。
カラスはそのまま飛び去って行ったわ。
パン、パン、パン乾いた銃声が響き渡る。
諏訪さんと曹長さんの銃撃音。
仕舞ったわ!
カラスに気を取られた隙に、公使に詰め寄られたわ!
既に目の前で右手を振り上げている、この距離、この体制からだと避けきる自信はない。
ダメもとでその腕を取って一本背負いを試してみるかしら!
ドス!
曹長さんのタックルを受け、公使が吹き飛ぶ。
ふう、助かりましたわ。
それにしても曹長さん凄いわね、こんな化け物吹き飛ばすなんて。
でも、そうも言っていられないわ、多分不意を付けたからタックルが決まったのよ。
「曹長さん、早く離れて!」
言うが早いか、曹長さんが跳び退こうとした瞬間、公使の振り払われた右腕で吹き飛ばされる。
それとほぼ同時に、振り上げられた触手が私に向かう。
それを、諏訪さんが抜き放った軍刀で切り払う。
カーンと乾いた金属音が響く。
私も動かなくちゃ!
もう一度両手を合わせ、魔力を練る……練る……練る……練る……練る。
目の前に長さ50㎝程の氷柱が現れる。
1本。
2本。
3本。
私が魔力を練っている間、諏訪さんの斬撃がカーン、カーン、カーンと触手を弾き返している。
4本。
5本。
今の私じゃこれが限界だわ。
いけるかしら?
「諏訪さん、下がって!」
「分った、小町ちゃん、任せたわ!」
5本の氷柱を公使に打ち込む。
公使は咄嗟に腕で庇い、二本は右腕に、一本は左腕に、残りは左肩と腹に突き刺さる。
「グワーーーー!」
公使の絶叫が耳を劈く。
「やりましたわ!」
しかし、次の瞬間公使の体はドクンと脈打ち、筋肉がさらに盛り上がり、溢れだす禍々しい魔力も一際増大する。
そして、突き刺さった氷柱はパリンと砕け散る。
まさか……手持ちのカードを全て使い尽くして対処出来ないなんて……不味いわ、どうしましょ?
いや、でも、全くの無傷というわけでも無さそうね、傷口は塞がっているわけでは無いし、何やら青紫の体液を流しているもの。
「諏訪さん、もう一度、氷柱を放ちますわ」
「承知した」
諏訪さんがもう一度、軍刀を構えて私の前に立ち、魔力を練ろうとした時、公使は「ウオーーーーー!」と雄たけびを放って大使館の西側へ逃走しだした。
逃がしては、不味いわ!
「ウルタール!あの化け物を追って!」
「にゃー!」
「不味い事に成りましたわ諏訪さん、このままだと、大使館の西側を通って正門を抜けて行くかもしれませんわ、そうなれば、帝都にあんな化け物を放つ事に」
「確かに!」
その前に、吹き飛ばされた曹長さんに駆けよると、頭を振りながら立ち上がる。
「特務少尉すみません、大してお役に立て無く」
「いいえ、曹長さんのお陰で、二度も命拾い致しましたわ」
「それでは、諏訪さん、曹長さん、あれの後を追いますわ」




