証拠、情報、すり合わせ
人数が増えたので2台の車に分乗する事に成ったんだけれど……。
車は4人乗り、私は未だ諏訪さん、上村さんの二人と話が有ったので、私たちは曹長さんが運転する車に。
やむなく、爺には伍長さんが運転する車に乗って貰うことにした。
最初、曹長さんの代わりに運転すると言い出したけれど、隊の公用車を部外者に運転させる分けにはいかないからと、結局諏訪さんに却下されたわ。
「そう言えば、先ほど行方不明事件で、宗教組織や秘密結社が関わっているかもと仰ってましたけれど?」
「ええ、そうなのよ、事件の被害者の何人かは、そういう怪しい集まりに行っていたとか証言は有るんだけど……どうも証拠や、他の参加者が分からなくて……」
「それで、思い出したのですけれど、上村さん、昨日ストーカーさんからお預かりに成った名簿は、何か手掛かりに成りませんかしら?」
「ああ、あの降霊会名簿ですか!」
「降霊会とは?」
「詳しくは分からないのですが……」
と、上村さんが、昨日ストーカーさんから降霊会名簿を受け取った経緯を話しつつ、諏訪さんに名簿を見せる。
「もしも、大使館の殺人事件と、諏訪さんの追っている行方不明事件が、何か関連するのでしたら、その降霊会と云うのが接点に成るかもですわね」
「成るほど、上村課長、此方の名簿をお預かりしても?」
「いえ、其方は、ストーカーさんに責任をもって預かると約束したものですので、お渡しするのはちょっと……ですが、何かメモ帳などに書き写すのは構いませんよ」
「承知しました、後程書き写させて頂きます」
「ところで、お伺いするのを忘れていたのですけれど、さっきの被害者は何方でしたの?」
「あ、御免なさい小町ちゃん、大事なことを話すの忘ちゃってたわ」
「コッホン」
諏訪さん、照れ隠しに咳払いしたわ。
一見、凄く優秀な軍人さん然としてるんだけど、案外私みたいにONとOFFを切り替えるタイプの人かも。親近感が沸くわ♪
「あの男はあの辺りを根城にする浮浪者で、山口久作という男よ。普段はあの辺りの工事現場や倉庫で、日雇いの仕事をしていたみたいね」
「そうすると、狙われて殺害されたというよりは、たまたま居合わせて殺されたという事ですわね」
「因みに、何時殺害されたかは、お分かりに成って?」
「正確な時間までは分から無いわ、でも検死した担当者の話だと発見した時、つまり昨夜の時点で、約一日ほど経っていたと話していたわ」
「そうすると、ローレンスさんが殺害された前後と云う事に成りますな……」
例の大きな犬に追われて倉庫街まで逃げ込んだのかもしれないけれど……。
うーん、芝浦の倉庫街まで、大使館から車で約20分、徒歩で多分一時間以上……もっとかかるかしら?、この距離をステラちゃんのいう悪魔みたいなのが疾走して、騒ぎに成らなかったのかしら?
謎だわ。
あと、もう一つ分からないことが有るわ……と言うか最初に保留にしてた事だけれど。
「あと、その山口さんは何で、裸でらしたの?」
「御免なさい、分からないわ。一応近辺を調べてみたけれど、彼の着ていたと思しき衣服は無かったわ」
「では、例の悪魔が持って行ったと?」
「いいえ、上村課長、そうとは限りません。そうかもしれないし、ほかの浮浪者が死体から剥ぎ取ったと云う事も有るわ」
「そうですか……未だ謎は多いですな」
英国大使館に到着し、いったん車を止め、上村さんが諏訪さんと伍長さんの入館の許可を取って戻ってきたころ、後方から警部補とその部下の皆さんがやってきた。
「おや、警部補殿、外の調査ですかな、何か収穫は有りましたかな?」
「これは、上村さん、上村さんこそどうされたのですか?今度は軍服姿の憲兵の者まで、問題に成るのでは?」
「いえ、先ほど許可は取れましたので、ご心配なく」
「それで、其方の御守備は?」
「フン、まあ良い、川上あれを」
そう言って、差し出されたのは、血の付いた粗末な着物と袴。
「これは?」
「ああ、大使館の周囲を調査していて見付けた物だ。西の路地裏で部下が見つけた。まあ、事件に関係するかどうかは分からんがな」
「あの、宜しいかしら?」
「またお嬢ちゃんか、なんだ?」
警部補が吐き捨てる様にそう言うと、ふいに視線をそらせた。
原因は何となく分かってますけれど……一応後ろを確認、曹長さんと爺が物凄い顔しているわ
「その血は、お着物のどの辺りに、付いていますの?」
「フン、首の辺りと、胸から腹にかけてだ」
「諏訪さん、それってもしかして……山口さんのでは御座いませんこと?」
「確かに!警部補殿宜しいか?」
「その前に、あんた誰だ?」
「失礼した、小官は憲兵司令部魔技取締分隊副官の諏訪由衣中尉であります」
「それで、その魔取の中尉さんが何の用だ?」
「そちらの証拠物件を、暫くお貸し願いたい」
「ふざけるな!何で、部外者の貴様らに、証拠品を渡さねばならんのだ!」
まあ、警部補さんじゃ無くても、さすがに怒るよね。
「我々の追っている事件と関連が有るかも知れないのです、暫しの間で構わんのだが」
「知るか!どうしてもと言うなら、上を通して出直してこい!」
「しかし!」
まあ、これは警部補さんの方が正論だわね。
「諏訪中尉、これに関しては警部補殿が正しい、先ほども、あくまで捜査ではなく、話をお伺いすると言うスタンスでと、お願い致しましました。もし、何か分かれば私から御連絡して、情報共有しますので、ここは」
さすが上村さんね、大人な対応で間を取り持って、おかげで一旦場は収まったわ。
「申し訳ない、少し気が焦った様だ謝罪する」
「フン、分かれば良い」
「とにかく、先ずは紋章の事を聴きませんと」
「そうですな、ですがその前に栗林さん、申し訳ありませんが、さすがにあなたの入館許可までは取れませんでしたので、寒空の下すみませんが駐車場でお待ちください」
「爺、仕方が無いわ、駐車場でお待ちになってて」
爺はため息を一つついて、不承不承納得した。
「承知致しました、お嬢様」
大使館の玄関に向かおうとすると、警部補さんに呼び止められる。
「お嬢ちゃん、ちょっと待て」
爺と曹長さんが、また物凄い顔で睨みつけてるわ。
「ちょっとまて、そうじゃない!上からの事付けだ」
「お嬢ちゃん、昨夜暴漢に襲われたんだろう、その事件の事だ」
何か進展有ったのかしら?
「是非お聞かせ願いたいわ」
「と、言っても何かが判った分けじゃ無い、暴漢どもにお嬢ちゃん達を襲うように依頼した、アヘンの売人の死体が今朝、数寄屋橋近くの外濠に浮かんでいたらしい。まあ、そういう分けで、捜査は手詰まりだとさ、フン、残念だったな」
また、爺と曹長さんに睨まれて視線を逸らしていますわ。
懲りない男ね。
悪態を付くのが、癖に成ってるのかしら?
それとも、ツンツンするのが照れ隠しの一種とか……。
ん?
ツンツン、照れ……まさか、このおっさん……ある種のツンデレとかじゃ有りませんわよね!
……何だか気分が悪くなってきたわ、変な想像するのは止しましょう。
それよりも、アヘンの売人は何者かに口封じされたのは間違いないわ。
恐らく、昨夜ウルタールが公使の後を付けた時、「貴様が後始末を付けたのなら……」とか公使が仰ってましたけれど、その後始末と言うのがこれですわね。
とすると、アヘンの売人を殺害したのは、あのフードの男と言うことに成るわね。
あの男、随分と用心深い男でしたから、襲撃事件の線から事件の真相に辿り着くのは無理そうね。
でも、まあ良いわ、何しろウルタールのおかげで十中八九、公使が事件に関わってるのは分かってるのですから。
後は、証拠を押さえて、公使とあのフードの男を追い詰めれば良いのですわ。
補足情報:
〇マトリ
本編で、魔技取締分隊の事を警部補が「マトリ」と略していましたが……。
一般にマトリと言うと麻薬取締官の事を指しますが、未だこの時代には麻薬取締官は無いっぽいという判断で、本編では魔技取締分隊=マトリと略しました。
未だこの時代には麻薬取締官は無いって言うのはホントか?と問われるとゴメンナサイ調査不足で自信ないです。
でも、まあそういう設定で行こうと思いますので、ご了承ください。




