治癒
「お邪魔しますわ。梨咲ちゃん、お体の調子は如何かしら?」
「いらっしゃい、こまっちゃん♪待っていたのよ♪」
お声には少しハリが戻ってる様、少し安心しましたわ。
でも、ベッドで体を起こし、クッションに持たれる様に座っている梨咲ちゃんのお顔の色は、未だ青白い。
そのベッドの横の椅子には、既に忍ちゃんが座ってる。
「お待ちしておりましたわ♪小町さま♪」
「遅く成ってしまって、ゴメンナサイですわ。実は裏庭のリンゴの木に実が成っておりましたの。それで、お見舞いに宜しいかと思って、幾つか持って参りましたのよ」
ベッドの横に、持参したバスケットを置いて、一つリンゴを取り出す。
赤々として、ずっしりと重量感の有る、ティル・ナ・ノーグのリンゴ。
ベットのふちに腰を掛けて、そのリンゴをそっと梨咲ちゃんの手に握らせる。
「赤くて凄く大きいリンゴね。美味しそう。アリガトこまっちゃん♪」
「では、梨咲ちゃん。まずは、そのリンゴを一齧りですわ♪」
梨咲ちゃんのお顔が少し曇る。
「とっても美味しそう……でもゴメンね、こまっちゃん。未だ食欲が出なくて……。後で必ず戴くわ♪」
梨咲ちゃんは、本来は気さくで闊達な女の子。
お金持ちを鼻に掛けたりとかは無縁で、私や忍ちゃんだけじゃ無く、庶民のクラスメイトとも混じって良くお話ししているわ。
だから、切っていないリンゴを齧る事に躊躇う様な娘では無いのだけれど。
やっぱり、未だ調子が悪い様。
「梨咲ちゃん。騙されたと思って一齧りだけ、ね♪」
梨咲ちゃんの体調がいまだに優れないのは、黒川さんに攫われて、贄として出来の悪い祭壇に乗せられていたせい。
そのせいで、梨咲ちゃんの持つ魔力や生命力が無駄に吸い取られてしまう事に。
もう少し、祭壇から降ろすのが遅ければ、仮に黒川さんが、梨咲ちゃんにナイフと突き刺さなかったとしても、命を落とす事に成ったか、廃人に成っていたかも知れないわ。
ティル・ナ・ノーグのリンゴは少し齧っただけで、私の疲れを吹き飛ばした。
年明けから、ウェンディゴとその眷属相手に戦って、振るった魔力はかなりの物よ。
その戦いの疲れを取り除いて、消費された魔力も回復させたこのリンゴ。
今の梨咲ちゃんを治癒させる為には、これ以上の物は無い筈。
神様なんて私は信じないけれど、そう言う存在が居るとすれば、私がトゥーアサ・ジェー・ザナンの因果に導かれて、ティル・ナ・ノーグのリンゴを手にしたのは、これを梨咲ちゃんに食べさせる為だったのでは無いかしら。
そんな気がする……だから。
「お願いですわ。梨咲ちゃん。一口だけ」
「ふふ♪こまっちゃんが、そこまで言うのには訳が有るのね。分かった。一口戴くね♪」
シャリ。
「何このリンゴ♪みずみずしくって♪甘酸っぱくて♪不思議な香り♪とっても美味しい♪」
フフ♪勿論ですわ。
ティル・ナ・ノーグのリンゴですもの♪
シャリ、シャリと二口、三口と梨咲ちゃんはリンゴを頬張る。
頬張るほどに、梨咲ちゃんの頬に赤みがさす。
どうやら、ティル・ナ・ノーグのリンゴは梨咲ちゃんの病状に効果が有ったみたい。
これで安心ですわ♪
横を見ると、頬に赤みが差し、楽しそうにリンゴを頬張る梨咲ちゃんを見て、忍ちゃんが目に涙を溜めている。
しめっぽいのは、苦手ですわ♪
「忍ちゃんもお一ついかが?」
リンゴを手渡す。
「え!?小町さま」
チョットとまどってらっしゃるわ。
御姫様育ちの忍ちゃんにはリンゴのまる齧りは抵抗が有る様ね。
「では、私もお一つ戴くわ」
と、リンゴを手に取って、齧りつく。
シャリ。
ティル・ナ・ノーグのリンゴはやっぱり美味しいですわ♪
「分かりましたわ。わたくしも」
シャリ。
「美味しい♪」
美味しいリンゴのお陰で、取り合えず忍ちゃんの涙は回避出来ましたわ♪
「キャ!」
梨咲ちゃんが小さく悲鳴を上げて、一点を凝視している。
如何したのかしら?
「こ、こまっちゃん……そこにいる、ち、小っちゃいの……」




