太陽の乙女
木の幹の左側から見えている羽の正体を確かめようと、そちらを覗き込むと、サッと羽が引っ込む。
「仕方有りませんわ。向こうに回り込みましょう」
左側に回り込もうと、足を一歩踏み出した刹那、今度は幹の右側に鳥の羽が。
うーん、一体何なのかしら?
出たり引っ込んだり、と言う事は、生き物か何か……それとも……。
「あの~、何方かいらっしゃるのかしら?」
試しにお声を掛けてみる。
また、サッと羽が引っ込み、今度はゆっくりと恐る恐るな感じで、羽が出て来る。
そしてその羽の根元、緑色の何かが顔を出す……と言うかお顔ですの?
木の幹の後ろに隠れていて、全体像が見えませんけれど、長方形に見えるのは目かしら?
こっちを覗き込む様に見ている感じですわ。
先ほどから、ちらちら見えていた羽は、羽飾りかしら。
アレがお顔として、立って此方を覗いてるとすれば、身長は……そうですわね、ケットシーに成ったノワールやブランより少し小さい様に思うわ。
一メートル程かしら。
恥ずかしがっている……と言うよりは、震えている様ですわね。
まあ、それも無理もないことですわ。
爺もイシャイニシュスさんも無駄にデカいですもの。
しゃがみ込んで、目線の高さを合わせて手招き。
「怖くありませんわ。此方にいらして」
心もち羽飾りが傾きましたわ。
小首をかしげてる……のかしら?
うーん、いまいち反応が悪い。
言葉が通じていない様に思いますわ。
困りましたわ、コミュニケーションが取れないのでは……どうしましょ。
そうですわ、トゥーアサ・ジェー・ザナン!
あの魔法陣と目の前の存在が無関係では無いとすれば、あの魔法陣がトゥーアサ・ジェー・ザナンに縫い込まれていたのも、意味が有ったのかも。
だとすると……。
「怖くありませんわ。此方にいらして」
今度は、トゥーアサ・ジェー・ザナンに書かれていたオガム文字のと同じ言葉、古いアイルランドの言葉で語り掛けてみる。
その言葉に反応してか、ピョンと飛び出す様に木の裏から、その子が姿を現した。
「な、な、なんて、めちゃくちゃ可愛い、出で立ちなのかしら♪♪」
い、いけませんわ。
また、お嬢様モードが崩れるところでしたわ。
にしても、この子の姿は……。
丸くてやや大きな緑色の顔、その周りには鳥の羽根が一杯飾られていて、額は赤と黄色の模様がペイント?されていますわ。
そして、横長で長方形の黒い目と、笑っているかの様な逆三角形の口。
ネイティブ柄の服とマントを羽織って、赤い靴を履いて居ますわ。
その子が小首をかしげながら私を見つめている……やっぱり、めちゃくちゃ可愛いですわ。
ともかく、見るからに害は無さそう。
と、言うか、今すぐ抱きしめてスリスリしたいですわ♪
「それにしても、この子はいったい……」
「タワ・マナだ。俺も初めて見る」
イシャイニシュスさんが、短くそう答える。
「タワ・マナですの?」
「ああ、太陽のカチーナだ」
カチーナて何かしら?
私の表情を読み取って、イシャイニシュスさんが説明して下さる。
「カチーナとは、精霊の事だ」
「つまり太陽の精霊、と言う事ですの?」
太陽の精霊だなんて、初耳ですわ。
普通、太陽を崇める場合、神として崇める。
日本の天照大御神や、ギリシャのアポロン、エジプトのラーとかですわ。
「そういう事だ。タワとは太陽のこと。この精霊は白地に模様の入った長いマントを羽織っている。これは未婚の娘、乙女の証。つまり、タワ・マナだ」
「太陽の乙女と言う事ですのね。とっても素敵ですわ♪」
タワ・マナに視線を戻して、何となくその小さな手を取って両手で包む。
とても暖かい、確かに太陽の乙女ですわね。
この子のお顔は緑色、私達日本人の感覚では、太陽をイメージする色では無いけれど……現代でグリーン・フラッシュと言う言葉を聞いた事が有りますわ。
日の出、日の入りのほんの一瞬、太陽が緑色に輝くことが有りますの。
確か、ハワイの言い伝えでしたかしら、そのグリーン・フラッシュを見る事が出来れば、幸せになれるとか。
「この子のお顔を見ていると、なんだかとっても幸せな気分になりますわ♪宜しくですわね、マナちゃん♪」
何となく、そう名前を呼んだその時、私とこの子が繋がった感覚。
ウルタールや、ケットシー達の時と同じ感覚。
補足情報:
〇タワ・マナ
可愛さを上手く表現できたか自信が無いです。
あまり、小説で取り上げられる精霊でもないのですが、上手く伝わったでしょうか。
出来れば、一度画像検索して見て上げて下さい。




