久しぶりに会うお友達
お部屋に戻って、千代さんに入れて貰った紅茶を戴きながら、久しぶりに本を読んで朝食まで時間を潰す。
その後、ダイニングに降りて、道彦を見つけると、現代で過ごした四日分のスリスリ。
今朝はお父様もいらして、久しぶりに家族四人で朝食。
そして、登校の準備を済ませて、道彦とお母様に見送られて、爺の運転する車の後部座席に乗り込む。
「お嬢様、大変御機嫌が宜しい様で御座いますな」
どうやら、無意識に笑顔がこぼれていたみたいね。
「ふふ♪いつになく平和で日常的な朝でしたから、とっても気分が宜しいの」
「確かに、ここのところ、お嬢様は御苦労が絶えませんでしたからな」
それに勿論、ティル・ナ・ノーグのリンゴも楽しみですわ♪
爺の車に送られて、久々の登校。
と言っても、今日は始業式のみですし、明日は日曜日。
そう言う意味でも、心のゆとりで、笑みがこぼれてきますわ♪
蘆屋小町の通う高等女学校は、帝都屈指のお嬢様校。
当然の様に正門の前には、送迎の車が並ぶ。
「爺、此処で宜しいわ」
「かしこまりました、お嬢様」
正門から少し離れた所で車を降り、歩いて向かう。
「あら?小町さま、リボンをお変えに成りましたのね。その猫ちゃんのカメオとっても可愛い。お似合いですわ♪」
後ろから聞きなれた清涼感のある清楚な声。
振り返り、ご挨拶。
「アリガト、忍ちゃん♪お早うですわ♪」
そこに立つ少女も、矢絣の着物に袴姿。
「お早う御座います。小町さま」
そう品良く挨拶をするのは、とっても仲の良いお友達の鍋島忍ちゃん。
長く艶のある黒髪を姫カットに揃え、色白で如何にも儚げ薄倖そうな絶世の美少女。
こう、活字で書くと、現代の世界のお姉ちゃんと同じ表現に成ってしまいますわね。
お姉ちゃんは「ヒメ」と二つ名されていますけれど、忍ちゃんもまた、ある特定の方達から、「姫」と呼ばれていますわ。
でも、決定的に違うのは、彼女は正真正銘、本物の「姫」と言う事ですわ。
品位や、性格の良さは勿論ですけれど、その家柄自体、元大名家の御家柄。
元の領地に帰省すると、その地域の人達は、「姫様が戻られた」とお祭り騒ぎに成るそうよ。
「忍ちゃん、御免なさいね。年明けから色々ありましたの。せっかくの冬休みでしたのに、年明けからお会い出来ませんでしたわ。初詣や梨咲ちゃんのお見舞いをお約束していましたのに……」
「いいえ、小町さま。お父様からお伺いしておりましたわ。私があの晩、梨咲さまの事を小町さまに相談したばかりに、危うい御立場に成られて、危険なお仕事を手伝わされる様に成られたとか。私の方こそ、なんとお詫びして良いやら……」
忍ちゃんのお父様は、警視総監をされている。
梨咲ちゃんが、黒川さんに攫われた時も、そのお父様からお聞きに成って、あの日の夜遅く私に相談に来ましたの。
恐らく、私が憲兵のお仕事を手伝っていると言うお話しも、お父様からお聞きに成っている様ですわね。
「忍ちゃんが謝る事なんて、何も御座いませんわ。忍ちゃんが梨咲ちゃんの事を知らせてくれたから、梨咲ちゃんを救出出来たのですから、忍ちゃんには感謝ですわ。それに、私の立場も遅かれ早かれ、面倒な人達に目を付けられた居た様ですし、寧ろ先手を打てましたわ」
最悪、何処か異国の前線に送られる可能性もありましたもの。
それに比べれば、帝都に残って居られるのですから、さほどでもありませんわ。
それに、曹長さんも、諏訪さんも、泰治叔父様も、皆さん良い人ですもの、取り合えず人間関係に悩むことは無さそうですわ。
「小町さま……」
忍ちゃんの目に涙が浮かんでいる。
ずっと気にしていたのね。
年明けから、忙しすぎて会う事が出来なかったから……その間ずっと……。
「そうですわ♪今日は始業式だけで、授業も有りませんわ。式が終わりましたら、御一緒に梨咲ちゃんのお見舞いに参りましょう♪」
「ええ小町さま、是非♪」
忍ちゃんの顔に少し、微笑みが戻りましたわ。




